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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第八章 さようならお兄様

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訴訟

 お兄様がいなくなって一週間後。

 血の気のないお父様が勤め先の城から戻ってきて我が家は一変した。


「誘拐容疑? どういうことですか!?」


 わたしは寝耳に水といった感じで思わず聞き返してしまった。

 お兄様がいない食卓に家族三人が集まっている。

 目の前に座るお父様とお母様の表情は、死にそうなほど暗い。


「訴えられたんだ。マースン伯爵家に」

「ええ!?」


 酷い手のひら返しだ。頭を殴られたようなショックを受けた。


「アルトをさらった疑いをかけられている。だから、容疑が晴れるまでは陛下の近侍から外されることになった」

「そんな……」

「大丈夫だ。私は何も後ろめたいことをしていない。なんなら神にも誓ってもいいくらいだからな」


 お父様はわたしに心配かけまいと無理やり笑みを浮かべていた。でも、隠し事があまり上手ではないから、ぎこちない顔になっている。


「お兄様の実のご両親は、あんなにも感謝していて、そんな素振りも見せなかったのに」

「初めからアルトを取り戻したら、訴えるつもりだったのだろう」

「そう、だったんですね……」

「相手は騙されたと言っていたが、今となってはそれも本当だったことか疑わしいな」


 さすがお兄様を無情にも捨てただけある悪党だった、ということなのかしら?


「でも、お兄様が知ったら、実の両親とはいえ、こんな酷い裏切りを許すわけありませんわ。会いに行ってきます!」

「待て。確かにアルトが知っていたら、こんなことにはならないだろう。だから、何も知らされていないと思う。会いに行ってもアルトが知る前に門前払いされて面会を拒絶されるだけだろう」

「でも……」

「大丈夫だ。裁判で無実を訴える。正々堂々と戦うとも」


 でも貴族は噂社会だから、お父様が何も悪いことをしていなくても、何も知らない人が疑いの目を向けてくるかもしれない。

 お父様の苦労が察せられて、胸がじわじわと痛んだ。


 ホント、逆に相手を名誉毀損で訴えたいくらいだわ。


 とにかく自分でできることをしなくちゃ。やられっぱなしは悪女にはふさわしくないものね!



 §



「アルメリア様、ご招待感謝いたします」

「クリステル様、来てくださって嬉しいわ」


 今日はアルメリア様のお屋敷に来ていた。お茶にお誘いいただいたからだ。女中のマーサに付き添ってもらっている。


さすが公爵家のタウンハウスなだけあり、王城に近く敷地面積も他の貴族よりも圧倒的に広い。門の前に着いた時に、メインのお屋敷が随分遠く離れたところにあったわ。

 お屋敷も大きくて、途中で何人もの使用人を見かけた。


 わたしがいる場所は屋敷に面した広い庭園で、きちんと手入れが行き届いていた。綺麗に剪定された植木はもちろん、色とりどりな花垣も目を楽しませてくれる。

 白い石造りの立派な噴水から絶え間なく流れる水が、日差しをキラキラと反射して輝いている。


 そんな中で椅子に腰掛けて、円卓の向かいに座るアルメリア様を見つめている。彼女のアメジストのような美しい瞳が心苦しそうに伏せられている。


「この度は大変なことになったと聞きましたわ。お気持ちお察しいたします。もちろんわたくしは、クリステル様のお父様でいらっしゃるリフォード卿の無実を信じておりますわ」


 アルメリア様の励ましのお言葉に感激してわたしは声を詰まらせた。


 本当は彼女から会わないかと誘われたとき、事情を説明して神殿でお会いしたほうが良いのではと提案していた。聖女同士だから偶然神殿でわたしと出会ったと言い訳ができるから。犯罪の疑いを掛けられている家の令嬢わたしと交流があるなんて、彼女に迷惑がかかると思ったから。アルメリア様のご実家とお父様を訴えたマースン伯爵家は親戚同士だから、表立ってわたしの味方にもなりにくいと考えていたの。

 でも、アルメリア様は毅然とした態度で味方になってくれた。その気持ちがなによりも嬉しかった。


「アルメリア様、ありがとうございます……!」


 両手を握り合わせて拝むように彼女を見つめる。一生アルメリア様についていきたくなった。


「あら、勘違いなさらないでくださいね。マースン家とは親戚とはいえ、それほどお付き合いがあったわけではありませんの。父もあの家に双子の子供がいたなんて最近まで聞いてなかったと首を傾げていましたもの。だから、クリステル様を応援したからと言って、当家が何か不利益を被ることは何もありませんわ」


 さすがアルメリア様だわ。こちらが何を気に病むのか気づいて下さっている。


「お気遣いありがとうございます。アルメリア様が味方でいてくださって、これほど心強いことはありません」

「あら、おかしなことをおっしゃるのね。親友の危機を放っておくわけございませんわ」

「し、しんゆう……!?」


 憧れのアルメリア様からそんな家宝相当のお言葉をいただけるなんて、前世の日本だったら土下座して崇めたくなるくらいだ。


「あ、ありがどうございまずー!」

「ちょ、ちょっとクリステル様、どうされたんですか!?」


 感激しすぎて号泣したら、あまりのテンションにドン引きされてしまった。


 ハンカチで涙と鼻水を拭いて落ち着いた頃、この屋敷のメイドがアルメリア様に近づいて耳打ちする。


「いいわ、ここに案内してちょうだい」


 どうやら誰かが来て、このお茶会に混ざるようだ。他に人が来るとは聞いていなかった。


 わたしの疑問に気づいたアルメリア様が、目を輝かせて楽しそうに微笑む。


「あなたもご存知の方よ」

「まぁ、楽しみですわ」


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