衝撃の事実
「この家族の中で、僕は誰とも血がつながっていないんだ」
家族四人が食卓テーブルを囲んでいる中、わたしの隣にいるお兄様が開口一番に衝撃の事実を口にした。
聞いた瞬間、心臓の鼓動が途端に激しくなる。
お兄様や正面にいる両親を黙ったまま見つめることしかできなかった。
みんなお兄様の告白に驚かず、わたしの顔色を窺うように視線を送ってくる。
どうやら何も知らされていなかったのは、わたしだけだったみたい。
もうわたし以外の家族には、お兄様がこれから何を話すのか、あらかじめ聞いていたのね。
でも、まさか葬式に行った日にお兄様から言われるとは思わなかった。
この落ち着きぶりから、まるで以前から知っていたみたい。
「今日、お兄様とそっくりな方のお葬式だったんです。もしかして、お兄様はその家の子どもだったんですか?」
「そうだよ」
お兄様の横顔は、硬い表情のまま。
簡潔な答えには迷いがなかった。
「そうだったんですね……」
そう答える以外に言葉が浮かばなかった。
お兄様の本心が分からないうちは、余計なことを言ったらまずい気がしたから。
そう思った瞬間、息をのんだ。
どうして『まずい』のかしら。その自分の思考に違和感を覚えたの。
そうだわ。あのときに似ている。前世で両親の離婚話が出たときと。
あのときも両親の顔色を窺って、相手が望むとおりに振る舞っていた。
でも、その結果、自分自身が苦しむことになったじゃない。
だから、わたしは悪女になるって決めたの。
後悔がないように自分の思うままに生きたいから。
そう気づいたおかげで覚悟が決まった。キリッと気合を入れて、お兄様を見据えた。わたしの変化に気づいたのか、お兄様も唇を引き締め、真剣な眼差しで向き直る。
「お兄様」
「なんだいクリス」
「血縁がどうであろうと、お兄様はわたくしの大切な人です。離れたくありません。だから、ずっと傍にいてください。このままわたくしのお兄様でいて欲しいです。だって、家族じゃなかったら、ずっと私の傍にいられないじゃないですか」
そう言った瞬間、お兄様は顔を強張らせた。まるで何か気に障ったみたいだ。
お兄様が大切だって伝えただけなのに。
理由は分からないけど、お兄様は気まずそうにわたしから目線を逸らした。
「そうか、クリスはこのままのほうがいいんだね」
お兄様の声が地を這うように低かった。しかも表情が何かを堪えるように辛そうだ。
どうして――?
「お兄様?」
問いかけても、お兄様は決してわたしを見ようとしなかった。
「クリスは、僕が実の両親の元に行くつもりだと分かっているんだね。実は、前もって相手から話はあったんだ。クリスの同級生で僕の本当の弟が、僕の顔を見て気が付いたから、彼から話しかけられたんだ」
分かっていたけど、改めて言われると、胸にずしんと重苦しい痛みがあった。
「お兄様はそのつもりがなければ、わざわざ話さないと思ったんです。でも、お兄様、わたくしの傍にいてください。お兄様がいないと嫌なんです」
誰にも渡したくない。お兄様の、将来のお嫁さんにも。
目頭が熱くなってくる。今にも泣きそうだった。
「ごめんクリス。ずっと無理だと思って諦めていたことがあったんだ。でも、この話を受けたら、可能性がゼロではなくなるんだ。だから、ごめん。僕はこの話を受けたい」
お兄様は言いながら、やっとわたしに視線を向ける。もうわたしが何を言っても決断を翻さない意思の強さを感じる。
「お兄様の望みってなんですか?」
「それは、まだ言えない。今はまだ叶いそうもないから」
「聞けないのに、納得できるわけないですわ」
口を尖らせると、お兄様は困ったような顔をした。
「クリス、僕たち兄妹には、いずれ別れの時が来る。クリスは聖女だから、いずれ誰かに嫁ぐんだ」
感情を押し殺したような声だった。突き放されたみたいで、ますます悲しくなってくる。
「そうですけど、家族でなくなれば、それこそ一緒にいる理由がなくなります」
そうこぼした途端、わたしの目から涙が溢れていた。
嗚咽が漏れて、話し合いどころではなくなる。
「クリス、泣かないで」
お兄様が隣から腕を伸ばして、抱きしめてくれる。
途端にお兄様の匂いに包まれる。この安心感は、何ものにも代えがたいのに。
「お兄様、大好きです。いかないでください」
「ごめん、クリス。僕の気持ちをどうか汲んでほしい。兄でなくなっても、クリスが大事な存在なのは変わらないよ」
お兄様が悲しそうな顔をする。
「お兄様……」
もう説得は無理だと悟るしかなかった。
お兄様がいなくなる。その状況に耐えられそうにないけど、大好きな人を悲しませたいわけじゃない。
だから、もっとカッコいいクールな悪女にならなくちゃ。
わたしとお兄様の希望を叶える素敵な方法を探すのよ!
はっ、そうだわ。




