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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第七章 密偵魔王

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デザート

クリス視点です。

 ふー、まさかあんな風にお兄様に誤解されるとは思ってもみなかったわ。


 彼とは初対面って言えなかったから、『今は何も彼のことを知らない』イコール『これから彼のことを知る予定』って意味合いでゲシュー様のことを説明したのに。そうしたら、お兄様ったら、わたしがゲシュー様に異性として興味があるって勘違いしてしまったみたいなの。

 ゲシュー様が気分を害してなければいいけど。


 彼が帰ってから、わたしはみんなにもデザートを振る舞った。

 今日はプリンではないのよ。

 そろそろ別のものも作ってみたくなって、チーズスフレにしてみたの。

 オーブンとベーキングパウダーはないけど、ふわふわの食感なお菓子を食べたくなったのよ。

 砂糖を入れた卵白をふわふわに泡立てて、他の材料を加えて卵白の泡を潰さないように混ぜたあと、フライパンで焼いてみたら案外上手くいって良かったわ。


「新しいお菓子も美味いな。しっとりしているのに、それでいて軽い食感の中にチーズの濃厚な風味が良い」


 ウィルフレッド様も気に入ったみたいで、じっくり味わって召し上がってくださったわ。


「おお、しかも体に力がみなぎってくる」


 ウィルフレッド様の体が薄い膜に覆われるみたいに一瞬光に包まれた。


「うふふ、良かったですわ。今回はわたしの魔力を意図的に限界まで込めてみたんです。プリンみたいに魔法薬になってよかったです」


 せっかく魔力の制御ができるようになったから、頑張ってみたのよね。


「そうか。色々と試してみるのも面白いな。また、何か作る機会があったら、よろしく頼む」

「はい。お任せください」


 今回の目的はウィルフレッド様への口止めとお礼だから、きちんと達成できたみたいで良かったわ。


「ところで、先ほど帰った男は、どこの家の者だ?」

「えっ、ゲシュー様ですか?」


 再びピンチ到来させないでくださいよ、ウィルフレッド様!

 なぜか彼が不穏な雰囲気をまとっている気がして怖いわ。

 わたしの落ち度にこれ以上触れないでほしいけど、何か答えないとまずいわよね。


 わたしはエルク先生に救いの目を向けた。

 ゲシュー様に詳しいのは、先生だから。

 ほら、先生からゲシュー様のことを説明してくれていいんですよ?

 期待を込めて見つめたが、エルク先生は嬉しそうに微笑み返してきただけだった。


 がーん! アイコンタクトが通じてないわ!

 仕方がないわね。

 初対面とは言いにくいけど、嘘をつくと後々面倒だから、正直に行くわ。


「まだ詳しく聞いてないので分かりませんけど、彼はいい方ですよ」


 恐らく、きっと。

 だって、エルク先生と休日に外出するほど仲良しですし。

 いきなりだけど家に誘ったのに了承してくれたわ。それに空気を読んでくれたのか、わたしとは初対面と言わず名乗ってくれたばかりではなく、わたしたちの関係について疑わしい雰囲気になったら、すぐに帰ってくれましたし。


「そうか。どこの誰とも分からぬ者にクリステル嬢は興味を持ったのか」


 ウィルフレッド様の目が、残念そうに伏せられた。

 そんな反応をされるほど、わたしの対応は非常識だったのかしら。


「仲良くなるのに、相手の家や後ろ盾は関係ありませんわ」


 貴族じゃなければ付き合わないとか、わたしはそういう考えはなかった。だから、いちいち実家がどこだろうと気にしない。


「その人自身の人柄が大事ではありませんか?」

「そうか、そうだったな」


 わたしの苦し紛れの言い訳にみんな納得してくれたみたいだった。

 ウィルフレッド様はゲシュー様について尋ねてこなくなった。


 そして、彼は残念ながら時間が来てしまったと、迎えの馬車に乗って城へ帰っていった。


 でも、帰り際、ウィルフレッド様は「私はまだ諦めないぞ」と言っていたけど、どういう意味だったんだろう。

 隣にいたお兄様を見つめて目が合うと、お兄様はニコリと微笑んだ。


「プリンのことじゃないのかな?」


 お兄様はいつもわたしに解説してくれるようにウィルフレッド様の言葉の意味を教えてくれた。

 デザートがプリンじゃなかったからガッカリさせてしまったのね。それは申し訳ないことをしたわ。


「では、私たちもそろそろお暇しますね」


 エルク先生とカミーラ様も帰ろうとするので、今度は二人をお見送りをする。

 お兄様は玄関のポーチで立ち止まっているが、わたしは門のところまで二人につきそう。


「あの、エルク先生」


 わたしは彼に近づき、コソコソと内緒話を始めた。

 背後にいるお兄様に聞こえないように。


「なんでしょうか」

「ゲシュー様って、エルク先生のお知り合いですよね? 今度、彼について詳しく教えていただけますか?」


 それを聞いた途端、エルク先生は目を大きく見開き、驚いた顔をこちらに向けた。


「えっ、クリステル様のお知り合いじゃなかったんですか?」

「えっ」


 言葉を失うって、このことよね。

 まさか、エルク先生も彼とは初対面だったなんて。

 誰もゲシュー様を知らなかった。


 ええええ、どうしよう。

 お兄様になんて説明したらいいのかしら。


 帰っていくエルク先生たちを見送ったあと、わたしが家に入ると、お兄様が待ち構えていた。

 居間に入り、一緒にソファに腰掛けるように勧められる。


「クリス、お疲れ様。僕が来るまで一人でお客様の対応、大変だったね」


 お兄様がわたしを労るように手を優しく握ってくれる。


「はい。マーサが手伝ってくれましたし、なんとかこなせてよかったですわ」

「エルク先生たちをいきなり招待したのも、まぁ、クリスなりに頑張ったんだよね? ウィルフレッド様と二人きりにならないように」

「は、はい……」


 やっぱりその話題はくるわよね。ドキドキしてきたわ。


「でも、ゲシュー様といつの間に仲良くなったの?」


 わたしを見つめるお兄様の目は、底冷えするくらい恐ろしかった。

 思わず震えて奥歯が鳴りそうになった。


「僕が学院にいる間はずっとクリスの側にいて交流関係も把握していたつもりだけど、彼のことは何も知らなかったよ。しかも、彼と仲良くなりたくて食事会に招待したんでしょ?」


 お兄様はニコリと笑っているけど、全然本心じゃない。

 超、怒っている。


「あ、あの、お兄様! わたし、お兄様に謝らなくてはならないんです」

「何を?」

「あの、実は、ゲシュー様とは、初対面だったんです。でも、見知らぬ人を招き入れたと言ったらお兄様に叱られると思って、あんな言い方になったんです」


 お兄様の目が、きょとんと可愛らしく見開かれる。放心したように呆気にとられたみたいだ。それまであった怒りが綺麗さっぱり消え去っている。


「えーと、それじゃあ、ゲシュー様には別に興味も何もなかったの?」

「そうです。エルク先生と一緒にいてお知り合いだと思いましたし、エルク先生だけをご招待したら残りの二人に気遣って断られると思って、三人一緒にご招待しただけなんです」

「なんだ、そうだったのか」


 お兄様が安堵したように微笑んだ。

 お兄様はわたしの護衛として、いつも気を張り詰めている。そのため、かなり心配かけてしまったみたいだ。いきなり知らない人を連れてきてしまったから。


「ごめんなさい。知らない人を家に入れてしまって」

「ううん、普段ならダメなことだけど、今回についてはクリスは悪くないよ。一応、敵意がある者は入れない結界もあるから、問題はなかったと思うし」


 そのお兄様の言葉を聞いて一安心だわ。

 でも、エルク先生とゲシュー様まで初対面だったことを聞いたら、どうなるのかしら。

 ちょっと怖いけど、それでも正直に伝えたほうがいいわよね。

 そう思って口を開いたら、お兄様が「それに――」と話を続けだした。


「元はといえば、権力を使って食事会を邪魔した奴が悪いんだよ」


 そうつぶやくお兄様の横顔は、まるで毒虫を踏みつぶしたように顰められていた。


「権力……?」


 お父様がいきなり城に行ったのは、陛下の命令だ。

 オルバート夫人が急にこれなくなったのは、高貴な方からの依頼が原因だった。


「もしかして、オルバート夫人に仕事を依頼したのって……」

「おそらく陛下だろう。ウィルフレッド様が犯人だったら、そもそもオルバート夫人がクリスに招待されたとき、断るように個人的に頼める立場だから。クリスは事前に彼に夫人のことを話していたよね?」


 確かにわたしはウィルフレッド様にも夫人を招待したいって事前に伝えていた。彼も快く了承してくれていた。


「でも、なぜでしょうか。陛下がわざわざそんなことをするなんて」


 お兄様は疲れたようなため息をついた。


「恐らくだけど、外堀を埋めたかったんじゃないのかな? クリスとウィルフレッド様が親しい間柄だと、仕立てたかったのかもしれない。聖女と王家の繋がりを得るために。前回クリスに養子の件を先送りにされたからね」

「ええー」


 なにそれ。

 その言葉は陛下に対して無礼になってしまうので口には出さずに飲み込んだ。


「お兄様、何か結婚を回避する良い方法はないでしょうか」


 アルメリア様との友達エンドを目指しているから、誰ともくっつく気はない。


「ごめん、今のところ僕には思いつかない。それよりも以前クリスは言っていたよね? 誰とも結婚する気はないって。それはどうしてなの?」


 お兄様は真剣にわたしを見つめながら、じっと返事を待っていた。


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