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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第七章 密偵魔王

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二人の関係

魔王視点です。

「失礼ですが、クリステルとはどういったご関係なんですか?」


 我と聖女との関係だと!?

 いきなりこの聖女の兄がまずいところに切り込んできたぞ。


 我は瞬時に頭の中で回避策を巡らす。

 ここで聖女と初対面だとばれれば、我の存在が疑われてしまう。

 現状ではうまい具合に双方から誤解されていたのに。


 今まで出された食事はもう済ませたが、まだテーブルに配膳されていない食事はあるはず。最後までメニューを楽しみたかったが、仕方あるまい。

 我は撤退を覚悟した。

 そのときだ。聖女が「あの、お兄様!」と会話に入り込んだ。


「偶然通りがかったゲシュー様をいきなり誘ったのはわたくしなのです。その、これから彼のことをもっと知って、仲良くなれたらと思っているんです」

「へー、珍しいね。クリスが男子に対してそう言うなんて」


 聖女の兄が笑顔を浮かべている。まるでわざと作ったような顔だぞ。腹黒い感じがする。

 聖女の兄なのに何か企んでいるようだ。気のせいだろうか。


 だが、聖女が突然割り込んでくれたおかげで、我への追及が上手く逸らされた。それは密かに感謝だ。


「もしかして、クリスはこんな感じの同年代の男子が好みなの?」


 その聖女の兄の言葉を聞いた直後、息をのみ顔色を変えたのは、ウィルフレッドという男だ。


「それは一体どういうことだ? アルトフォード殿」


 質問に対し、聖女の兄は奥歯にものが挟まったような微妙な笑みを浮かべる。


「クリスがゲシュー様に積極的に興味を示したので、そう思っただけですよ。しかも仲良くなりたいだなんて。今まで護衛として妹の側におりましたが、異性に興味を示したのは初めてです」

「そうか、そうだったのか」


 そう言うなりウィルフレッドは暗い顔をして黙る。それを聖女の兄もまるで不幸があったみたいな顔をしながら黙って相手を見つめていた。

 何故二人の男がここまで気持ちを落胆させるのか、我には理解できぬ。


 しかも、エルクとカミーラは二人の会話を様子を窺うように黙って聞いていた。目を輝かせて興味深そうだ。


 なんだ。この対照的な反応は。


「お、お兄様。そんな過剰に反応するほどのことではありませんわ。ゲシュー様を困らせてしまいますわ」


 聖女がおろおろと見るからに狼狽している。

 すると、ウィルフレッドはどんよりと暗い顔をしたまま、聖女ではなく、我にチラリと視線を送った。

 その目つきには、明らかに敵意が含まれていた。射殺されそうな鋭さだ。


 まさか、今の会話の中で、我を疑う要素がどこかにあったのか!?


「失礼します」


 気まずい雰囲気を紛らわすかのように現れたのは、先ほども見かけた女中だ。彼女は聖女の兄に食事を運んできた。

 ちょうど変な会話が中断されて助かったぞ。


 だが、これ以上我に対する身辺調査が始まれば、ますます怪しまれる。その前に退散しないとな。


「あのー、申し訳ないことに用事を思い出したので、そろそろお暇させていただきます。改めて後日お礼に伺いたいと思います」


 我が立ち上がり、礼儀正しくお辞儀をする。


「あら、そうだったんですね」


 聖女は我の言葉を聞いて驚いたように目を見開く。

 それからゆっくりと立ち上がり、我に残念そうに近づく。


「まだデザートがあるので、せっかくなら召し上がっていただきたかったんですが、仕方がありませんわね。良かったらお土産にお持ち帰りください」


 そう言ってニッコリと微笑む。彼女の対応はとても親切だ。お土産まで用意してくれるなんて。感激で胸が熱くなる。聖女の食事は本当に美味だった。きっとデザートもさぞかし甘美なことであろう。帰ってから楽しみだ。


「お気遣いありがとうございます」

「いえいえ、とんでもありません。急なお誘いを受けてくださって嬉しかったですわ。ちょっとお待ちくださいね」


 聖女はそう言い残して食卓から去っていった。

 多分、デザートを取りに行ってくれたのだろう。


「お食事中なのに申し訳ございませんが、私はこれで失礼します」


 我が残った人間どもに挨拶すると、聖女の兄が静かに立ち上がる。


「玄関までお見送りいたします」


 ちょ、その顔、怖いぞ。


 玄関まで我の後を黙ってついてくるが、背中が焼けそうなくらいの威圧を感じる。


 何故だ。我は何か奴の機嫌を損ねるような言動をしたのだろうか。

 まだ人間について不勉強なところがあったようだ。


 玄関まで来たとき、聖女がまだ来ないので、しばし待つことになった。

 すると、聖女の兄が凄みのある顔つきをしながら口を開く。


「クリステルはああ言っていますが、妹は聖女なので残念ながら相手は限られています。もし、少しでも何か期待されていたら、すぐにお忘れになったほうがいいでしょう」


 まさか、この男は我の正体を見抜き、勘づいたのだろうか。

 聖女をコックにしたい、我の思惑を。

 恐ろしい奴だ。だが、聖女の手料理はそう簡単には諦められるものではない。


「そうですね。今は何もできませんが、まだ先のことは分かりませんよ」


 そうだ。今の我はまだ不完全だ。真の実力が出せない。我が完全に復活したとき、交渉に入るとしよう。


 すると、聖女の兄が少し意外そうに我を見つめる。

 険のあった目つきが、一瞬で消え去っていた。彼は唇をキュッと引き締めると、紫の綺麗な瞳を細めて微笑む。

 その視線には、先ほどまでの敵意はなく、まるで同志を見つめるような親しみがあった。


「……そうですね。先のことは、まだ分かりませんよね」


 そう言ったときの彼の表情は、楽しげで、嬉しそうだった。


 何故だ。脅しに対して、言い返したはずなのに。

 この聖女の兄が、今は不可解過ぎて仕方がない。


「ごめんなさい、お待たせしました」


 聖女が籠を手に近づいてきた。


「ゲシュー様、こちらをどうぞお持ち帰りください。このチーズスフレはコックではなくわたくしが作ったんですよ。日持ちしないのでお早めにお召し上がりくださいね。あと、先ほどのことは兄の誤解なので、お気になさらないでください」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりも、お気遣いに感謝いたします」


 我は丁重に礼を述べて聖女の家をあとにした。

 一人で歩いていくが、誰も我のあとを追ってくる気配はない。

 屋敷に入ったとき、嫌な感じがしたが、特に問題はなかったようだ。

 我の杞憂だったのだろう。

 聖女も兄が誤解していたと言っていたしな。何を誤解したのか我には全く分からなかったがな。

 まぁ、目的だった聖女の情報を得られたのだ。我の密偵は上手くいった。

 ククク、騙されたまま土産までくれるとは。


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