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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第七章 密偵魔王

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お兄様からの質問

クリス視点です。

 わたしが玄関に向かうと、帰ってきたお兄様と鉢合わせした。

 あら、珍しく仏頂面だわ。どうしたのかしら。何か嫌なことでもあったのかしら。

 睨むような顔つきだったので、一瞬別人のような雰囲気だった。でも、わたしに気づくと、嬉しそうに笑顔を浮かべる。いつもの優しいお兄様に戻っていた。


 すでに着替えていたらしく、練習着ではなく来客対応用のおしゃれな格好をしていた。レースの襟元が優雅ね。

 さすがお兄様。手際がいいわ!


「お兄様、お帰りなさいませ!」

「ただいまクリス。わざわざ出迎えは良かったのに」


 お兄様はそう口では言いながらも、両手を広げて迎えたわたしをギュッと抱きしめ返してくれる。

 今日の練習では、特に怪我はなかったみたいだ。でも、練習で疲れていると思うから、こっそり聖魔法を送っておいた。だいぶ自在に魔力を込められるようになったのよ。


「お坊っちゃま、お帰りなさいませ」


 マーサがやってきたので、お兄様はわたしから離れた。


「クリス、お客様のもとに先に戻って」

「はーい」


 穏やかな声に背を押され、わたしはすぐに引き返した。


「お客様だけにしてしまい、申し訳ございません」


 わたしが着席した直後、こちらを見ていたウィルフレッド様と目が合った。


「戻りが早かったということは、アルトフォード殿の怪我はなかったようだな」

「はい。無事でなによりでしたわ」


 わたしはにっこりと微笑んだ。ウィルフレッド様はわたしの中座した理由をすぐに察してくれていた。

 怪我があったら、すぐに治そうと思っていたの。


「新しい王妃役はもう決まったのか?」

「はい。四年生から決まったみたいです」


 王女の休学が公表されてから、すぐに決定したとお兄様から教えてもらっていた。


「それは良かった。王妃役はなかなか条件が厳しいからな」

「そうですね。装備が任されている分、家からの持ち込みが予想されますものね」


 つまり、実家が裕福で、剣の嗜みがある女性ということになる。


「クリステル嬢も三年生になれば、立候補するのだろう?」

「いいえ。わたくしには無理ですわ」


 うちのような土地の収入もなく、お給金暮らしの下級貴族は、圧倒的に無理だった。

 わたしもちょっとだけヴュンガに興味を持っていたけど、それを理由に諦めていた。


 すると、ウィルフレッド様はいたずらを思いついた少年のように目を輝かせると、わたしに微笑みかけてきた。


「クリステル嬢は、陛下から借りているドレスがあるではないか。そのドレスなら防御力に不安はあるまい」

「えっ、このドレスでもいいのですか?」


 わたしの視線は自分の手首に向けられる。そこにはレース模様の白い腕輪があった。ソウビと名付けた変形自在な元呪われたドレスだ。


「使用許可はあるのだから問題ないぞ」

「そうなんですね。では、将来選ばれるように頑張りたいと思います」


 でも、形はドレス以外になるのかしら。浮いちゃうわよね。そこだけが心配だわ。


 そんなことを話していたらお兄様が食卓に遅れてやってきた。

 顔なじみのウィルフレッド様に「お忙しい中、当家へお越しいただき、感謝いたします」と真っ先に挨拶している。一番この中で高貴な身分だしね。


「アルトフォード殿、ヴュンガの練習ご苦労だったな」

「労りのお言葉ありがとうございます。」

「うむ。本日は私的な付き合いだ。そう畏まらなくてもよい」

「お気遣い感謝いたします」


 お兄様はそう言いながらも相手を敬ったままだ。


「お兄様、どうぞこちらにお掛けになって!」


 わたしが席を引いて勧めると、お兄様は素直に従ってくれた。


「カミーラ様、ゲシュー様、こちらがわたくしのお兄様です!」


 この二人はお兄様と初対面だと思うので、紹介してみた。

 自慢のお兄様ですよ!

 サラサラな黒髪はいつも艶やか。美しい紫眼はまるで宝石のよう。

 座る姿からも品を感じるわ。

 育ちはわたしと同じはずなのに、いつも感心してしまう。さすがお兄様だわ。


「クリステルの兄、アルトフォードです。カミーラ様は学院の事務でお見掛けしたことがございます。ゲシュー様とは初めてお会いしますね」


 お兄様はにっこりと社交用の微笑みを浮かべている。形のよい唇が、弧をきれいに描いている。

 健康的な肌からは、午前中の疲れは感じない。


「あら、アルトフォード様に覚えていただけて嬉しいですわ」

「初めまして。クリステル様にお招きいただきました」


 お兄様と初対面の二人が友好的に答える。


「エルク先生もいらっしゃるとは知りませんでした。お忙しいところ、お越しくださりありがとうございます」


 お兄様はそう言いながら、気遣うような視線をエルク先生に向ける。

 もしかして、わたしが急にエルク先生を呼び出したと誤解しているのかしら?


「たまたまクリステル様のお屋敷の前に私たちが通りがかって立ち止まっておりましたら、偶然クリステル様が現れて、食事にお誘いくださったんです。ご厚意に感謝しております」

「そうだったんですね」


 エルク先生がすかさず事実を説明してくれて、誤解を解いてくれたわ。


「そうですわ、お兄様。ふだんお世話になっている先生がいらっしゃったので、せっかくだから誘ってみたんです」


 お兄様も聞いてない客がいたら驚くわよね。さっき玄関で会ったときに説明しておけば良かったわ。

 お兄様に気持ちが伝わったみたいで、了解の目礼が返ってきた。


「エルク先生も急なお誘いにも関わらず、ご同席いただきありがとうございます」

「ちょうど予定もなかったですし、大変うれしかったですよ」


 エルク先生とお兄様は互いに見つめながら微笑み合う。


「ところで、ゲシュー様」


 お兄様の視線は黒髪の少年に向けられる。


「失礼ですが、クリステルとはどういったご関係なんですか?」


 やばい! やばいわ!

 背中に冷や汗が流れ出した。


 ウィルフレッド様と二人きりはまずいからって、勢いでエルク先生たちを誘ったのよね。

 ゲシュー様やカミーラ様とは初対面だったけど、エルク先生のお知り合いなら問題ないだろうし、あの場でエルク先生一人だけ誘っても他の二人に気を遣って断られる確率が高いと思ったのよね。


 今から考えたら、見知らぬ人を家に招き入れたってことだから、軽率だってお兄様に叱られ案件だわ。

 でも、これはやむを得ないこと。ウィルフレッド様と二人きりのシチュを防ぎ、悪の道に進むためには必要なことだったのよ。

 お兄様にあとで潔く怒られましょう。


 でも、今はウィルフレッド様もいるし、お兄様を怒らせて場の雰囲気を悪くしないためにも「エルク先生以外とは、実は初対面」ってことには触れないほうがいいわね。


 とりあえず、ゲシュー様には迷惑がかからないようにフォローしなくっちゃ。


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