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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第七章 密偵魔王

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魔王ゲシュテント

 我の名は、ゲシュテント。

 生まれつき我が身は、高い魔力と濃厚な瘴気を帯びていた。それゆえに同胞から敬われ、王として担ぎ上げられた。

 人間には魔王として恐れられている。


 現在、こんな少年みたいな姿でもな。

 我は再び甦ったが、まだ完全形態ではない。戻ったのは半分くらいだろうか。あと少しの辛抱だ。


「今日の夕食は、これか」


 運ばれてきた食事を見る。

 いつものパンと、ステーキ。それからスープ。

 一見、ふつうに美味しそうだ。ところが、パンを齧っても石と砂のような食感で、とても喉を通る気がしない。

 スープを味見しても、味が全くない。しかも、抜け毛まで混入している。

 肉だって、歯の強度が試されるくらい硬すぎる。言葉どおり歯が立たぬ。いつまで経っても、飲み込める気がしない。


「もうよい。下げろ」


 配下に命じると、奴らはほとんど手付かずな食事を見て、嬉しそうに片付けていった。

 おそらく、残り物にありつく気なのだ。

 けむくじゃらの奴らにとっては、きっとごちそうなのだろう。我の口には全然合わないが。

 魔物は個々によって食事の好みが違い過ぎた。


 そもそも魔物は我のように突然生まれる場合もあれば、元は別の生き物で魔性化を経て魔物になる場合もある。

 人間と同じような美味しい食事を用意しろと命じても、今みたいに見た目は良くても中身は違うものが運ばれてくる。


 だが、我の好みを理解できない奴らを叱責する気にはならなかった。

 自分が美味しいと思うものをあやつらは作っているだけだ。そこに悪意はない。


 はぁ。メリンカが早く戻ってくるといいが。

 彼女が作る料理は、比較的マシだった。だが、今は自分の配下の世話で忙しいらしく、我の世話をする暇もないようだ。


 我は椅子から立ち上がり、姿を鳥に変えた。


「我は出かける」

「魔王様!」


 側にいた配下のミミルから制止の声をかけられる。

 兎のような毛むくじゃらの魔物だ。二本足で立ち、つぶらな目で我を見ている。


「またあんなマズそうな人間の食べ物を探しに行くんですか!? 危ないからお止めください!」

「フン、我を害せる奴などおるまい」


 鼻で笑って窓から飛び立った。

 廃墟と化した人間たちの城が、今は我の居場所だ。

 我の気配を感じて集まった魔物たちが、身の回りの世話をしている。


 我の行き先は、人間の街だ。ここでいつも食事を手に入れている。

 魔物の特徴である金色の瞳さえ黒髪で隠せば、我は人と変わらない。しかも子供の姿なので、人間どもは油断している。


 出店が比較的人通りのある場所に並んでいる。働いたあとなのか、疲れた顔をした人間たちが、店で買って帰っている。

 大きな鍋でスープを売っている。薄いパンもついている。


 地味なメニューだが、先ほどの配下が用意したものと比べれば、食べられるだけマシだ。

 素朴な味わいは嫌いではなかった。

 大人しく金を払い、一滴も汁を残さず食べた。

 他にも色々と買い食いして満足したあとに城に戻った。


 人間は虫のように貧弱な生き物だ。だが、奴らが作り出すものには目を見張るものがある。

 だから、大昔に人間に暗示をかけて働かせたことがあった。魔物を魔物として認識しないようにしたのだ。

 最初は上手くいったと思っていた。人間どもも労働の対価をもらって嬉しそうだった。

 けれども、魔物が発する瘴気で魔性化してしまい、ある者は魔物になり、ある者は発狂してしまった。

 そのせいで恨みを買い、討伐隊まで送られるようになった。


 その都度、我が返り討ちにした結果、何千という人間が無駄死にした。我は誰であれ、敵対する者には容赦はしない。

 剣ではなくて食事を我に差し出せば死なずに済んだのにな。


 ところが、そんな無敵の我の元に女神の加護を得た聖女が現れた。

 聖女に哀れみや情けなど一欠けらもなかった。

 あの女は話を聞いてほしいと願う我の声を無視した。しかも、聖女に従う聖騎士も恐ろしいほど強かった。


 腹立たしいことにあの女に我は倒された。

 くっ。あのとき、腹さえ減っていなければ。


 人間は魔物を恐れるが、我から見ればあの女こそが恐ろしい生き物のように感じる。

 聖女には最大限警戒しなくてはならない。我だけではなく、魔物にとっても脅威だ。

 我の天敵である以上、聖女は必ず抹殺する。


 今この世にいる聖女は、二人。

 

 メリンカの話によると、その一人であるクリステルと対決して、返り討ちされて重傷を負ったそうだ。ところが、メリンカはその聖女は慈悲の心を持ち、話の分かる人だと評価していた。


 ところが、もう一人の配下であるサランからのクリステルに関する報告は、全く別だった。

 彼女は城に保管されているドレスを奪おうと試みて重傷を負って帰ってきた。しかも、「もう二度と人間に関わらない。聖女に逆らわない」とガタガタ震えて人格すら激変していた。


 一体どんな恐ろしい目に遭ったのだろうか。


 彼女たちは魔物の中で我に次いで強い。その二人を追い詰めたことだけは共通している。よほどの力量だ。


 だが、同じ人物に対する感想が、こんなにも正反対なのはおかしい。

 何か聖女は企んでいるのだろうか。

 わざと慈悲深いと情報を与えて、我を油断させようとしたのか?

 また大敗を喫するわけにはいかない。

 我はとても慎重になっていた。


 だから、その聖女クリステルについて正確な情報を調べるべきだ。そう我は決断していた。


 だが、魔物であることを悟られずに情報を得るのは、難しい任務だ。人型を真似る技は、かなりの魔力と知能を必要とする。

 人間に詳しくなければ、すぐに魔物だと見抜かれてしまうだろう。

 しかも忌々しいことに王都には結界が張られている。そのせいで、弱い魔物は入ってこれない。


 よって、適任者は我しかいないと思った。


 なにせ、敵を知るために小動物に化けて住居に侵入し、人間の暮らしを観察したこともあった。

 その結果、先ほどのように人間の街で買い物をしてもバレたことがない。


 メリンカが人間に姿を変えて学院に潜り込んだ際に得た情報を我も聞いていた。

 そのおかげで聖女の居場所も知っている。

 さっそく日が変わったら、行動することにしよう。


 ククク、待っていろ聖女クリステルめ。


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