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不穏な幕開け

 それから時間になり、学院長や教員たちが入場して、さっそく入学式が始まった。

 そのときの学院長の挨拶で重大な事実を聞かされる。


「魔王復活の兆しが見えてきておる。安全と言われるこの学院でも、魔王の影響がないとも言えぬ。学生諸君、警戒を緩めず勉学に励むように」


 この学院長の言葉に学生たちが一斉にざわめく。

 不穏な学院生活の幕開けだった。






 学院からの帰り道、わたしはお兄様と一緒に護衛付きの馬車に乗っていた。


「お兄様は魔王復活のことはご存じだったの?」

「ああ、父上から聞いていた」

「そうでしたのね。以前、避暑地で魔獣が出たのも、聖獣が瀕死だったのも、魔王のせいだったのかしら?」

「うん、そういう異変が他でもあったらしい。魔王の力が強まると、その眷属までも強化される。非常に厄介だ」


 これもゲームのシナリオどおりだわ。

 これからわたしの生活は、学院だけではなく、魔王討伐に向けても進んでいくのよね。


 はっ、そういえば、魔王っていえば、ラスボスなのよね。

 超、悪役じゃない!

 悪女レベルをひたすら上げて、魔王と友好的に会えたらいいな!


 拳を握りしめて気合を入れていると、お兄様に両手で握られる。

 優しく慈しむように。

 それからお兄様の深い紫の瞳で、じっと見つめられた。


「今、何を考えていたの?」

「えっ?」

「クリスはたまに思いもよらないことをするから、心配なんだ。今日だって王子に急にお誘いをされたとき、断ったと聞いたよ。不興を買うとは思わなかったの?」


 お兄様の表情に陰りが落ちる。


「結果的にクリスの機転とアルメリア様のおとりなしで事なきを得たらしいけど、後で聞いたときは冷や汗ものだったよ?」

「お兄様、心配かけてごめんなさい」


 反省してしゅんと気落ちすると、お兄様は違うと首を振る。


「クリスがここまでしたのは、何か訳があったんだろう?」

「え?」


 そこまでわたしのことを信じてくれるとは思ってもみなくて、お兄様の優しさに胸の奥がじんわりと温かくなる。


 そう、確かに理由があった。


「今日だけは、お兄様と一緒に帰りたかったんです」


 そう正直に言うと、面食らったようにお兄様は目を瞬いた。


「……どうして?」

「だって、ずっと憧れだったんです。お兄様と一緒に学院に通うことが。だから、入学した今日一緒に帰ることも、絶対叶えたいことの一つだったんです」


 最初の記念すべき一日を大好きなお兄様と一緒に過ごしたかった。


 そう説明すると、お兄様は息をのみ、紫の目を大きく見開く。そのままわたしを見つめたまま、壊れた機械みたいに固まって身動きしなくなった。


「お兄様……?」


 お兄様の異変に戸惑いを隠せなかった。

 何も反応がないから顔を近づけて食い入るように見つめると、突然脱兎のごとく後ずさった。そのまま勢いよく狭い馬車の壁にぶつかる。ものすごい痛そうな音がした。


「お兄様、大丈夫ですか?」


 顔を覗き込むと、お兄様の様子はまだおかしい。顔を伏せて震える手で胸元を押さえる。熱っぽいのか顔色まで変わっている。


「お兄様、具合が悪いのですか?」


 お兄様は俯いたまま首を横に振る。


「……いや、妹が可愛すぎて、困っただけだ」

「え?」


 可愛すぎる?

 あまりな理由に思わず苦笑した。


「もう、お兄様ったら、大げさですわ」

「大げさではない。可愛すぎて、すごく胸がぎゅっと締めつけられた。いまだに胸が苦しい。ほら、こんなに激しくドキドキしている」


 そう言ってわたしを見つめる瞳が熱を持って潤んでいるから、つられてわたしまでドキッとした。


 お兄様に促されて、半信半疑なわたしもお兄様の胸に手を伸ばす。同じように手を当ててお兄様の鼓動を確かめてみる。


「馬車で揺れているから、全然分かりませんわ」


 正直にそう答えると、お兄様は不満そうに口を尖らせた。


「まぁ、お兄様ったら」


 そんなお兄様の表情が可愛らしくて、ますます胸の奥がドキドキする。

 さすが魅力的な人だわ。


「今日の昼ご飯は何かしら? もうおなかペコペコだわ」

「ああ、クリスの好物を用意しているみたいだよ。入学のお祝いだからってコックが張り切っていた」

「わぁ、楽しみだわ!」


 無邪気に家人たちの心尽くしを喜んでいた。



 だってまさか、攻略キャラたちの好感度を下げる気でいたのに、なぜか爆上げしてお兄様ルートまでも進み始めているなんて、このときは思いもしなかったから。


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