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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第六章 マクリーナ王女

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王女観察

「アルトフォードは可哀想ですわね。こんな場所を利用しなくてはならないなんて。下級貴族は庶民と同じレベルなのですね」


 翌日の中休み、テラスにいたわたしに対して、こんな厭味ったらしい台詞を吐き捨てたのは、あの王女だった。

 背後に三人の護衛らしき学生と、ご友人らしい女子二人も従えている。


 隣にいたお兄様が何か言い返そうとしたとき、わたしはお兄様の袖を掴んで制止した。

 アイコンタクトで任せてと伝える。


「まぁ、マクリーナ様。会いに来てくださって嬉しいです」


 にこにこと笑顔を浮かべて対応した。

 せっかく来てくれたのだから、王女の悪役ぶりを観察して、養女対策に応用しなくちゃ!

 いっぱい寝て、やる気の出たわたしは一味違うわよ!


 わたしの歓迎ぶりに王女はちょっと虚をつかれた顔をしていた。


「空いている席にお座りになられては?」


 わたしが席を勧めると、お兄様は「え?」と驚いた顔をする。てっきり追い払うと思ったのだろう。

 すると、王女が何か言う前に、側にいた女子が口を開いた。


「マクリーナ様にそのような汚い席を勧めるなんて、失礼ですわ」

「そうよ」


 すると、王女は援護のおかげで調子を取り戻したのか、自信に満ちた表情を再び浮かべる。


「まぁ、私が座るにはあまり相応しくないですわね」

「では、講義のときはどうされているんですか?」


 テラスの設備が嫌なら、もしかして教室の椅子も苦手かも。

 そう疑問に思って尋ねると、王女は一瞬悔しそうに顔を歪めた。

 彼女は椅子に座るわたしを見下しながら、口元に手を当てた。


「アルトフォードは私に仕えれば、以前のように専用の個室で休めますのよ。恩恵を受けられるのに、妹のあなたのせいで兄が可哀想だと思わないの?」

「まあ! すごいですわね。きっとお側仕えの方がお茶を用意してくださるんでしょう? さすが高貴な方は待遇まで違いますのね」


 アルメリア様も専用の個室で休んでいると聞いたことがあった。


「そうよ。分かったなら、アルトフォードを私に譲ったらどうなの?」

「あら、お兄様はこの場所を特に気にされたことはありませんので、マクリーナ様から恩恵を受ける必要はございませんわ」


 そのとおりだと、お兄様もわたしの言葉にうなずいて同意している。


 それを王女は見た直後、彼女の眉間に一つ皺が寄った。


 すると、王女の友人が加勢するためにわたしに近づいてきた。


「聖女といえども、所詮あなたは下級貴族。公爵家のアルメリア様とは違うわ。ちょっと魔物に襲われて学院長に気に入られるなんて、どんな媚をお売りになったのかしら」

「あら! アルメリア様の素晴らしさをご理解なさっているなんて、やはりマクリーナ様のご友人は見る目がおありでいらっしゃいますわ」

「あなた、わたしの話を聞いてますの?」

「えぇ、もちろん聞いてますよ?」


 今日もアルメリア様は、可愛らしかったですわね。うっとり。


「じゃあ、なぜマクリーナ様の命令を聞かないの? 失礼だわ!」

「あら、マクリーナ様は何かご命令をされましたか?」

「アルトフォード様を譲れとおっしゃったはずよ?」

「このテラスに不満があるならいらっしゃいという流れだったはずでは?」


 お兄様は誰にも渡しませんわよ。

 そう決意して動じずに答えると、王女たちの眉間の皺がさらに寄った。イライラが募ったのか、ご友人はいきなり右手でテーブルを叩いた。


「マクリーナ様は王女様なの。次期女王よ。不敬は許されないわ!」


 凄みのある声で怒鳴り、わたしを親の仇のように睨みつけてきた。


「そうよ、そうよ」

「次期女王のマクリーナ様は、印璽いんじに触れる許しまで得たそうよ。逆らうなんてありえないわ!」


 二人のご友人が、自分たちの行動に微塵も疑いもなくわたしを責め立てる。


 わたしは彼女たちの顔をじっと見つめて、あからさまにニッコリと作って笑った。


「もし、わたくしがマクリーナ様に背いたら、先日のお茶会の招待客のように神の罰が落ちるんでしょうか?」


 尋ねた直後、王女のご友人たちの表情が強張った。顔色を窺うように王女のほうを見つめる。

 視線を一身に受けた王女は、わたしと同じように作り笑いを浮かべる。

 でも、目だけは射殺しそうなほど凄みがあった。


「ふふ。あなたも気を付けられたら? 神の罰が落ちないように」


 そのとき、救いのようにチャイムが鳴り、休憩時間の終わりを告げる。


「よく覚えてなさい」


 王女はそう吐き捨てると、「いきますわよ」と仲間たちに声をかけて去っていった。


「お兄様、あの方たちが言っていた印璽ってなんですか?」


 お兄様は目を丸くした。


「クリスには脅しが効いてなかったんだね」


 印璽とは国王の印章で、文書を封蝋する際に押されているそうだ。

 その印があれば、国王の文書を作成できる。それに触れる許可が下りているなら、国王のいざというときに王女が代理で使うことができるらしい。


「つまり、王女の権限が、かなり強いんだよ?」

「へー。すごいですわね」

「相手を素直に称賛できるところが、クリスのいいところだよね」


 またお兄様になでなでされた。

 えへへ。


「それじゃあ、お兄様。わたしたちも移動しましょう」


 席を立ちながら声を掛けると、お兄様は心配そうな顔をしていた。


「王女たち、諦めていないみたいだから、これからも来そうだけど、クリスは大丈夫そう?」

「うふふ、大丈夫ですわ。むしろ王女たちには、どんどん話しかけてほしいくらいです」


 悪女のお手本として学びたい放題ではないですか!

 余裕の笑みを浮かべて歩くわたしをお兄様は隣で不思議そうに見つめていた。


「相手が王女だし、怖くないの?」

「お兄様がかかっているんですもの! 恐い噂があってもビビッてはいられませんわ! それに、お兄様が最初に毅然と言っていたではないですか。護衛の件は王族に口出しされるいわれはないと。だから、相手がしつこく言ってきても断ればいいだけですよね?」


 キリっと強気でいると、お兄様が目をパチクリさせたあと、口元を押さえて顔を逸らした。耳が少し赤くなっている気がする。


「クリス、そ、そんなことを急に言うもんじゃないよ。——抱きしめたくても時間がなくてできないじゃないか」

「もうお兄様ったら、お家に帰ってからいっぱいぎゅーと抱っこしてくださいませ」

「うん、そうする」


 お兄様のぎゅーはいつでもウェルカムだけど、講義には遅刻できない。

 わたしを見送るお兄様が、特に時間がなくてヤバかった。

 わたしたちは会話しながらも、教室に向かう足は素早く動いていた。


「ところでさ、さっきクリスが言っていた恐い噂ってなに?」

「あら? お兄様に伝えていませんでした?」

「聞いてないよ?」


 髪を暴漢に切られた女子学生の話を伝えたら、お兄様も言葉を失っていた。


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