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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第六章 マクリーナ王女

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要求と忠告

 翌朝、学院に到着したので、いつものように本館へ向かう。

 一晩経っても憂鬱な気分が抜けなくて、思わず口からため息が出た。


「クリス、大丈夫?」


 泣きはらしたわたしの顔をお兄様が隣で心配そうに見つめる。


「昨日、よく眠れなかったんです……」

「そっか……」


 お兄様の口も重い。

 いつも明るかった我が家は、もはや葬式みたいな雰囲気だった。


 とぼとぼと黙ったまま建物の中に入る。

 そのとき、近くで立っていた女子学生たちと目が合った。わたしを見た途端、彼女は顔を強張らせて近づいてくる。

 彼女から不穏な気配を感じた直後、お兄様が相手との間に素早く立ち塞がった。


「何かご用ですか? マクリーナ様」


 お兄様がわたしを背に相手に話しかける。

 以前彼女を目撃したことがあった。

 マクリーナ様と呼ばれた女子学生は、珍しい白銀の髪をしていた。しかも、見覚えのある緑の瞳は、ある人物を彷彿させる。


 レルティール様によく似ている。さすが姉弟なだけある。


 確か現在国王には王妃との間に四人のお子様がいたはずだ。

 長子が性別問わず嫡子とされるので、彼女が次期女王だ。

 王女は好意が一片たりともない冷たい眼差しをわたしに真っ直ぐに向けている。

 何だろう。恨まれる覚えは何もないのに。

 もしかして、聖女絡みだろうか。


「アルトフォード。あなたに用はありません。あなたの妹に用があるのです」


 王女は高圧的な物言いで、お兄様を退けようとした。けれども、お兄様はしっかりとわたしを守ったままだ。


「では、兄としてお聞きしましょう。何のご用ですか?」


 王女は不快そうに眉間に皺を寄せ、綺麗な顔を歪ませる。


「あら、私の言葉が聞こえなかったのかしら?」


 キツイ睨みで脅そうとするが、お兄様は全く引く様子はない。それどころか、


「講義に間に合わなくなるので、用を仰らないなら、私たちは先に行かせていただきます」


 お兄様はわたしの手を取ると、王女を置いて歩き始めようとした。


「お待ちなさい。クリステル・リフォード。護衛の話ですけど、あなたより私のほうがアルトフォードの主としてふさわしいのではなくて?」


 聞いた内容に驚いて、振り返って思わずポカーンと口を開けてしまう。


「もちろん、譲っていただけたら、あなたには他に護衛をあてがってあげますわ」


 お兄様がわたしの護衛となった経緯は、わたしの一存だけで決まっていない。わたしだけに文句を言っても、わたし一人ではどうにもできない問題だ。


 それに、学問に身分は問わないという学院の方針により、制服着用や家名不使用の独特の慣しがある。そのため、この学院で権力を笠にきた発言はご法度となっている。


 そんな決まりごとやこちらの都合を吹っ飛ばし、王女の我が道をゆく傍若無人さに惚れ惚れして思わず感心してしまった。

 隣にいるお兄様を見上げれば、すごく呆れた顔をしている。深くため息をつくと、面倒くさそうな表情を一瞬だけしていた。


「当家の護衛については、たとえ王族といえども、口出しされるいわれはないことです。それでは失礼します」


 わたしがまだ正気戻る前に、お兄様がサクッととりつくしまのない返事をしていた。


「さあ、行くよ」

「は、はい」

「待ちなさい。まだ話は終わってなくてよ」


 不満そうな王女を置いていっていいの?

 お兄様はわたしの戸惑いに気づいているけど、逃げるが勝ちみたいに足早に王女から遠ざかっていった。


 王女の姿が見えなくなって、ようやく落ち着きを取り戻してきた。


「あー、びっくりしましたわ」

「ごめん、クリス。まさか、まだ諦めていなかったとは思わなくて」

「お兄様、気に入られていたんですね」


 心の中でご愁傷様と思ってしまった。


 いきなりだったから何も反応ができなかったけど、王女って結構悪役系なキャラだったのね。

 ゲームをプレイしていて出てきたことがなかったから、全然知らなかったわ。


 はっ! そうだわ。

 養女の件でびっくりしすぎて、「めざせ悪女!」がすっかり頭から抜けていたわ。

 こんな悪い子は養女にできないくらいの悪いことをすれば良いのよ。

 えーと、反逆罪で処罰されないくらいに上手にね。

 あんなに悪役系な王女でも、次期女王と認められているんだから、何か方法があるはずよ。

 参考のためにあとでお近づきにならないとね!


 でも、もうすぐ講義が始まってしまう。気を取り直して、今日の授業のことを考えなくっちゃ。

 やることが決まれば、元気が出てきたわよー!





 そう気合を入れた最初の講義は、わたしの苦手な歴史学だった。

 暗記な講義だから、必死に板書もするし、先生の話す内容もメモしなくてはならない。

 必死に石板の魔法具メモルンに書き写していた。


 そのとき、ふと隣のアルメリア様の席を見ると、机の上に見慣れない魔法具が置かれていた。


 タバコの箱みたいに四角くコンパクトなサイズだ。


 講義が終わったあと、アルメリア様にそれについて尋ねてみた。


「気づいて下さって嬉しいですわ。実はこれ、当家で支援している魔法士が作成した魔法具ですの」

「まぁ! すごいですわね」


 アルメリア様は実際に操作してくれた。


「家で復習できて、すごく助かってますの」


 確かにこれがあれば、聞き逃した先生の説明を何度も聞ける。


「すごく便利ですね。こんな魔法具は今まで見たことないです。もう販売されているんですか? きっと人気が出そうな気がしますわ」

「いえ、まだわたくしがテストしておりますの。良かったら差し上げますので、クリステル様もお試しになりますか?」


 アルメリア様は収納魔法具バッグルンからもう一つ取り出して、わたしにスッと差し出してくれた。


「まぁ! 本当に良いんですか? ありがとうございます!」


 受け取って胸元で大事に抱きかかえた。

 今度何かお礼しなくっちゃ!


「うふふ、使った感想をお聞かせ頂けると助かります。ところで、クリステル様。今朝王女様と何かあったみたいですけど、大丈夫ですの?」


 アルメリア様が気づかわしげな顔をしている。

 わたしはもらった魔法具を制服のポケットにしまいながら口を開いた。


「まぁ、アルメリア様のお耳にもう入っていたんですか? ご心配おかけして申し訳ないです。実は王女様がお兄様を護衛にと願われまして」

「まぁ! そうだったんですね。それで、どのように答えたのですか?」

「お兄様がお断りしていました。護衛については当家の問題だから、王女といえども口出しされるいわれはないと」

「それでご理解いただけたのですか?」

「いいえ」

「まぁ、それは困りましたわね」


 アルメリア様も首を傾けて眉をひそめている。彼女も王女の振る舞いは非常識だと感じているようだ。


「実はですね」


 アルメリア様がわたしの耳元に顔を近づけて、声を潜めて話し出す。


「聖杯の件があった翌日に王女様主催のお茶会があったそうですの。そこで王女様が招待客のネックレスを褒めたところ、相手が誤解して欲しがられたと難癖をつけてきたらしいと噂になっておりましたの」

「まぁ、そんなことが」


 王女がネックレスを欲しがったのは本当では?

 今朝、あんなことをされたばかりでは、そう思わざるをえなかった。


「それだけではないんですよ。実はそのトラブルになった相手は、帰り道に暴漢に襲われて髪を切られたそうですの」

「えぇ!?」


 最後に聞いた話が衝撃的すぎて、わたしは思わず思考がフリーズした。

 瞬きを何度かしてアルメリア様の美しい顔を見つめる。

 彼女の真剣な表情から、冗談ではないことが伝わる。


 髪が短いだなんて、神殿に仕える女性か犯罪者くらいだ。

 嫁入り前の女性としては致命傷になる。

 そんな可哀そうな目に遭うなんて。知らない相手とはいえ、内心すごく同情した。


「神の罰が落ちたと噂になっているんですけど、私その相手を知っているんです。気立てが良くって、決してそんな難癖をつけるような方ではないんですけど……」


 アルメリア様が憂いを帯びた顔をして、わたしを見つめている。


「だから王女様に気を付けてくださいませ。彼女に関わってトラブルになったあと、何をされるか分からないですわ。何か力になれることがあったら、遠慮せずにおっしゃってくださいね」


 背筋が凍るような忠告を聞いて、わたしはブルブル震えそうになりながら、アルメリア様の言葉に素直にうなずいた。


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