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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第五章 呪われたドレス

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騎士団事務室にて

 翌朝、お父様とお兄様とわたしの三人で登城していた。

 先週も来たばかりだから、そこまで威圧感はなかったけど、それでも緊張はしてしまう。

 一緒に家族がいなかったら、回れ右して帰りたくなっていたかも。


 お父様とお兄様に置いていかれないように必死にテクテク歩いていたら、チクリと後ろから刺すような誰かの嫌な視線を感じた気がした。


 振り返っても、特に誰かがじっと見ていたわけでもなかった。

 通行人を見かけるけど、仕事中って顔をして働いている人ばかりだ。

 じゃあ、この違和感はなんだったんだろう。


 先週城に来たときには何事もなかったから、一抹の不安を覚える。


「ねぇお父様。城の警備って、どうなっているんですか? 我が家みたいに魔法具を使っているんですか?」

「ああ、誰かに危害を加えようと考えている者は入れないようになっているぞ」

「そうなんですね」


 それならこの嫌な視線は、気にしなくても大丈夫だ。

 公爵家のアルメリア様とは違い、わたしは男爵家だから、聖女と認められて王族と距離が近くなったせいで、妬みを買うことがある。きっとそういう人間の負の感情みたいな類いかもしれない。


 そう結論づけたけど、このときのわたしは天井付近から覗く小さな生き物の存在に全く気づいていなかった。






 お父様はまず騎士団がある場所に向かっていた。

 城の端にある鍛錬場の側に位置しているらしい。

 そこでウィルフレッド様と落ち合う約束をしていると話していた。

 プリンはちゃんとカゴに入れて持参している。


 お父様は慣れた足取りでどんどん足を進めていく。

 屈強な体格の男たちと何人もすれ違う。子どもで女子のわたしが珍しいのか、じろじろと通りすがりに見られた。


 騎士団の事務室に入ると、見知らぬ騎士たちが机に向かって着席し、書類を手に仕事をしていた。

 一面の壁を埋め尽くすように収納庫が置かれている。


「リフォードだ。今日は聖女の仕事で参った。騎士団長のウィルフレッド様に取り次ぎを頼む」


 お父様が用件を言うと、扉近くにいた一人の騎士が立ち上がり、「リフォード様、少々お待ちください。今、呼んで参ります」と来客対応してくれる。


 お父様は騎士団の近衛隊に所属していると聞いたことがある。

 ただの騎士とは違い、爵位持ちの貴族だから、国王のお側に護衛としてよく侍るらしい。

 わたしが偉いわけじゃないけど、お父様が立派にお勤めされていて、とっても自慢なの。えっへん。


 事務室のさらに奥にある部屋からウィルフレッド様が出できた。


「リフォード卿、よく来てくれた」


 彼はわたしたちに近づいてくる。


「それでは封印の間に向かうか」


 のんびりする間もなく、すぐに用件に入るので、カゴを抱えて内心慌てる。


「あの、ウィルフレッド様」


 急に声をかけると、ウィルフレッド様は足を止めて、こちらを見下ろした。


「クリステル嬢、本日はお役目ご苦労。私に何か用か?」


 わたしが直接話しかけた非礼も気にせず、ウィルフレッド様は無視しないで対応してくれた。


「恐れながら、昨日の卵のお礼にプリンをお持ちしました。新作を作ったんです」


 そう言って、カゴを目立つように持ち上げたときだ。


「え?」

「プリンだと?」

「新作だって?」


 ウィルフレッド様ではなく、事務室にいた他の騎士たちからびっくりするほど過剰な反応が返ってきた。


「あの……?」


 プリンをあげようとしただけで、なぜこんなに注目されたのかしら。

 驚きのあまりに固まってしまった。


 騎士団で何かあったのかな。

 説明を求めてウィルフレッド様や騎士たちを交互に見つめる。

 すると、騎士団長が代表して、「実は……」と説明を始めた。


「お主からもらったプリンを褒美に与えたことがあったのだ。そうしたら、味が好評だったのもあるが、不思議なことが起きて、騎士たちの間で関心が高まっているのだ」


 事務室で働いている騎士の中には、負傷兵もいたらしい。その人がたまたま食べたところ、足の怪我がかなり良くなったそうなのだ。

 その他に食べたあとで頭がスッキリしたり、お腹の不調が良くなったり、体調が良好になると評判になったらしい。


 なんてこと! そんな話、初めて聞いたわ!

 今まで家族しか食べてなかったし。


「初めてプリンを食べたときは、そんな効果はなかったようだが、お主からお礼に渡されるプリンは違うようだ。何か心当たりはあるか?」


「え? 心当たりですか!?」


 いきなり質問されるとは思ってもみなかったから、ちょっとビビってしまった。


「えーと、ウィルフレッド様が初めて召し上がったプリンは、わたくしではなく、我が家のコックがプリンを作ったんです。それ以降、ウィルフレッド様へお礼のプリンを作ったときは、コックだけではなく、わたくしも関わっています」


 お礼の品なのにコックに全部丸投げっていうのは、誠意がない気がして、わたしも手伝っていた。


「そうか。やはりな」

「やはりって、どういうことですか?」


 ウィルフレッド様の呟きが気になって思わず尋ねてしまった。


「昨日、お主が聖魔法を垂れ流し状態だと説明していただろう。そのおかげで、プリンに回復魔法のような効果が付与されたのかもしれない、と考えたのだ」

「な、なるほど……」


 以前、メリンカさんと握手しただけで彼女に重傷を負わせちゃったしね。納得だわ。

 垂れ流しが原因で、何が起きても、もう驚かないわ。


「でも、どうしてこんなに騎士団の方が反応されたんですか?」

「知らないのか?」


 なぜか唖然とした顔を向けられる。


「何をですか?」


 私が尋ねると、ウィルフレッド様は丁寧に教えてくれた。


 このように魔法の効果がある食べ物は、魔法薬になるらしく、非常に価値が高いものだそうだ。

 しかも、聖魔法の効果は、作り手が少ない上に、物に付与することも難しいため、なかなか流通していないらしい。


「と、いうわけで、この回復効果のあるこのプリンは、非常に貴重なものなのだ」

「そうなんですか」


 わたしの薄い反応を見て、ウィルフレッド様が苦笑する。


「プリンは日持ちがしないから値が高くなりにくいが、もし長期保存が可能なら、このプリン十個でお主の学費一年分に相当するぞ」

「ええ!?」


 その説明のおかげで、ようやく自分のプリンが、どれほどすごいのか、実感できた。


 学院の学費は、結構高い。たぶん、前世の日本での私立大学くらいに。

 だから、学生のほとんどが経済的に安定している貴族や商家の者たちばかりだ。

 収入のない平民も稀にいるけど、国の奨学金があるから、なんとか通えている状況みたい。


「なるほど。高価だから騎士団のみなさまが、あんなに驚いていたんですね」


 やっと理解して感心していると、ウィルフレッド様はまだ苦笑を続けていた。


「高価なだけではない。そんなプリンを作って平然としているお主にも驚いていると思うぞ」

「まぁ」


 垂れ流し状態なのだから、魔力を消費した覚えがまるでなかった。

 ただのプリンが、高価なプリンになってしまい、ウィルフレッド様のプリン熱がさらに爆上がりしてそう。


「疲れていないようでなによりだ。それではプリンをありがたくいただこう。新作と言ったか。楽しみだ」


 ウィルフレッド様はカゴをわたしから受け取ると、再び奥の部屋に戻り、空になった両手で帰ってきた。


「奥に冷蔵の魔法具でもあるんですか?」

「ああ。私の師が作ったものだが」

「まぁ、すごいですわね」


 ウィルフレッド様のお師匠様! まさか、その存在を彼の口から聞くとは思ってもみなかった。

 だって、ウィルフレッド様の攻略ルートを進んでいると、登場した人だから。

 若くして夫と死別した熟女で、美人さん。

 王子ルートでは、アルメリア様が恋のライバル役として出てきたけど、ウィルフレッド様ルートでは、その師匠が当て馬役として登場していた。

 彼の愛人だって周囲に誤解されているんだよね。


 ゲームの中でヒロインがウィルフレッド様に近づいたのは、他の女性同様に下心があるからだとお師匠様が誤解して、ヒロインを追い払おうと邪険に接してくる人だった。

 そのせいで、ヒロインがお師匠様に嫉妬して、ウィルフレッド様への恋心を自覚するの。でも、ヒロインは彼との年の差を気にして、自分は彼にとって恋愛対象外だと思い込んでしまうの。紆余曲折あって結ばれるんだけどね。他のルートと違って比較的ドロドロしていた気がする。


 お師匠様も結構悪役っぽくて好きだったなー。

 今回、ウィルフレッド様のルートは撲滅したはずだから、残念ながらきっと会えないと思うけど。


「ウィルフレッド様のお師匠様って、どんな方なんですか? 冷蔵の魔法具だけではなく、調理用のオーブンも作れちゃうんですか?」


 思わず目をキラキラさせて質問してみた。

 あの負けず嫌いなウィルフレッド様が教えを乞いたいと認めた秀才だよ? すごいよね。

 魔法具は高価だけど、魔法薬になったプリンみたいに自作できたら安上がりよね。


「ふむ、興味を持ってくれて嬉しいが、その話はあとでしよう。では封印の間に移動しよう」


 どうやらおしゃべりの時間は終わってしまったらしい。

 残念だけど、お口にチャックして、お父様たちに従って歩き始めた。


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