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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第五章 呪われたドレス

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夜更かしと練習

 家に帰ってから講義の復習をして、食後にプリンを作ってお風呂に入ったら、あっという間に就寝時間だ。

 家族はわたしの体調を気遣って夜更かしを決して許してはくれない。

 でも、頑張って時間を作らないと、魔力制御の時間が取れない。


 おやすみと家族に挨拶をして自室に入ったあと、わたしはベッドの上に腰かけた。基礎魔法の先生から借りた魔力計測器を使って、魔法を止める練習を密かに始める。


 夜更かしは悪い子の定番行事なので、悪女に一歩近づいた気がしてワクワクする。


 何もしないまま計測器に触れると、半円形の測りの針が、右端の最大値まで振り切れていた。


「えーと、イメージが結構重要みたいだったよね。まず物のように魔力を扱ってみよう」


 魔力よ、出るな。出るな。

 祈るように必死に抑え込むようにイメージする。


「あ、針が動いた!」


 少し放出される魔力が減ったのか、左側に針が少し動いていた。

 全体が百だとすると、減ったのは五くらいのイメージだ。

 まだまだ魔力の放出を止められていない。


「今度は熱をイメージしてみよう」


 熱が伝わらないイメージをしてみる。

 やっぱり少し魔力は抑えられているけど、先ほどと同じように全然出っぱなしだ。


「はぁ」


 ゴールまで遠すぎて、講義終了までに間に合うのか不安になる。

 やっぱりドレス着ちゃえ作戦しかないわよね。

 悪女になるためなら、手段は選べない。


 そのとき、扉からノック音が聞こえていた。


「クリス、僕だけど」

「どうぞ?」


 こんな時間に何の用だろう。おやすみのあとの訪問は珍しかった。

 訝しみながら返答すると、そっと扉が開いた。廊下にはお兄様がいた。

 わたしと同じ寝間着姿でこちらを覗いている。ストンと膝まであるワンピースみたいな長着だ。

 ゆったりとまとめた黒髪が、胸元に垂れて艶がある。湯上りしたばかりなので、健康的な肌が少し赤みがかって、普段よりも張りがあり瑞々しかった。

 お兄様のこんな色っぽい姿を見られるなんて、家族の特権よね。


「まだ起きていたの?」

「まあ、お兄様! どうしてわたくしが夜更かししているって気が付いたんですか?」

「扉の隙間から明かりが漏れていたよ?」

「そうだったんですね……」


 今度は照明の位置に気を付けないと。

 魔法具の明かりが置かれていたのは、ベッド側の収納棚の上だけど、それは廊下側に近かった。


「早く寝ないと明日に障るよ。明日は城に行くんでしょ?」

「そうですけど、練習も大事ですし……」

「クリスは疲れやすいんだから、休息はもっと大事だよ」

「でも……」


 納得しきれずに渋っていると、お兄様が部屋に入ってきて、わたしの隣に腰を下ろした。

 背中に手を回されて、慈愛のこもった眼差しで見つめられる。


「じゃあ、寝かしつけしてあげるから、もう休もうよ」

「は、はい!」


 慌てて魔力計測器を収納用魔法具バッグルンに仕舞った。


 ベッドに滑りこむように入って、ワクワクしながらお兄様を待つ。

 そんなわたしの様子をお兄様が見下ろして、クスクスと堪えきれずに噴き出していた。


「半ば冗談で言ったけど、そんなに嬉しいの?」

「だって、もう禁止されていますから」


 学院に入学するような年齢だから、お父様やお兄様と一緒に寝るのはダメだと言われていた。

 本当は一人で寝るのは寂しくて嫌だった。

 でも、大切な家族を困らせてまで、無理を通すわけにはいかなかった。


 同性なら良いとは思うけど、病弱なお母様はわたしがいたらゆっくり休めないだろうし、女中のマーサはいびきがうるさい。


 だから、寝かしつけとはいえ、寝るまでお兄様が一緒にいてくれるのは、とても嬉しかった。


 照明を消し、昔のようにお兄様もベッドに入ってきて、わたしの隣に慣れた様子で横になる。すぐにお兄様に擦り寄った。


「お兄様、大好きですわ」

「僕もだよ」


 ただ側にいてくれるだけで、すごく安心できて落ち着ける。ぎゅっとお兄様のほうを向いて腕にしがみついていた。

 お兄様の温かい太ももに自分の足をスリスリと擦り付けて以前のように絡める。風呂上がりの肌は、すべすべして気持ちがいい。すると、ビクッと驚いたように反応してお兄様の足はすぐに逃げてしまった。


「ク、クリス。くすぐったいからダメだよ」


 お兄様の声は少し上ずっていた。慌てる様子が珍しくて可愛らしい。


「えー、お兄様の足は温かいのに、残念ですわ」


 渋々足先の温もりを諦めると、お兄様が代わりにわたしの頭を撫でてくれた。

 その手つきがすごく優しくて、とても幸せな気持ちになってくる。

 お兄様の体に顔をスリスリして甘えると、フフと笑うお兄様の声が聞こえた。

 まっすぐな黒髪も指で梳くと、さらさらで気持ちがよかった。


「そういえば、お兄様の属性はなんだったんですか?」


 ピクリと一瞬お兄様の手が止まったが、何事もなく再び動き出す。


「一年生のときに計ったけど――、僕の属性は秘密だよ。当ててごらん?」

「えー、その推理は難しいですわ。お兄様、意地悪です」


 プーと風船のように頬を膨らませてお兄様を見上げる。すると、お兄様の顔が間近にあって、わたしを穏やかな目でずっと見つめていた。

 窓から差し込む月明かりに照らされ、顔に陰影ができていた。まっすぐ通る鼻筋と瞳のバランスがとてもきれいで、思わず見とれてしまう。


 お兄様の顔がゆっくりと近づいてきたと思ったら、チュッとおでこにキスされた。それだけでご機嫌になり、「まぁ、いっか」と答えが曖昧でもいい気がしてきた。


 前世の知識があるとはいえ、お兄様との血の繋がりがない証拠は現世ではまだなかった。

 だから、ちょっとだけ気になっていたけど、結果はどうであれ、お兄様がわたしの大事な人なのは変わらない。


「メリンカのとき、クリスは聖魔法を立派に使っていたんだから、きっとすぐに魔力の制御もできるようになるよ。だから、焦らなくても大丈夫だよ」


 お兄様に言われて思い出した。あのとき、自分の中で感じた魔力の存在を。


「お兄様、ありがとうございます」


 おかげで、ちょっとだけ魔力制御のヒントをつかめた気がした。

 あとは練習あるのみだ。


「お兄様、このまま一緒に寝てもいいんですよ?」

「僕が父上に怒られるよ」


 お兄様は呆れたように苦笑していた。そのクスクスと忍び笑いする声がくすぐったい。

 そのあと、目を瞑って黙っていたら、すぐに心地よい夢の世界に旅立っていた。


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