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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第五章 呪われたドレス

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明日の予定

 それからすべての講義が終わって放課後になり、お兄様が迎えに来てくれた。

 一緒に移動して我が家の馬車に乗り込むと、そこにはなんと美丈夫な騎士団長が当然のように座って待っていた。


「なぜ騎士団長が、まだ護衛騎士をしているのですか?」


 驚きのあまりについ思ったことが口から出てしまった。


 騎士団長はフッと口元に笑みを浮かべる。


「お主に会いたかったからに決まっているだろう」


 この台詞にびっくりしたけど、彼の横に置かれているカゴを見て、すぐに納得した。

 今日もまた卵がいっぱい入っている。


「騎士団長は本当に(プリンが)好きなんですね」

「そうだ。やっと伝わったか」


 騎士団長ったら、プリン好きがバレていないとでも思っていたのかしら。

 あんなにプリンを美味しそうに食べてご執心なのに。


 わたしは微笑みを浮かべて騎士団長を見つめた。彼も熱のこもったエメラルドの瞳でわたしをじっと見ている。

 美丈夫がそんな情熱的な目をしたら、他の女性だったらきっと勘違いしちゃうわね。

 でも、わたしはちゃんと理解しているわ。

 彼が持ってきた卵からバレバレよ!


「わたくしの差し上げたレシピでは、プリンを上手く作れなかったみたいですね」


 だからわたしに卵を渡してプリンを作って欲しかったんですよね。


 すると、騎士団長はなぜか驚いたように目を大きく見開いて、わたしを何か異様なものでも見るような目つきをした。


「まさか、まだ伝わっていないだと……!?」

「ウィルフレッド様、申し訳ございません。ですが、これでよくご理解頂けたでしょう。もう諦めたほうがあなた様のためかと」

「フッ、ここまで手強いと、逆に燃えるというものだ」


 騎士団長とお兄様が、二人にしかよく分からない話題を訳知り顔で語っている。


 美形の二人が仲良く会話していると、キラキラとまぶしいオーラが周囲に放たれている気がする。

 目の保養って、こういうことを言うのよね。


 お兄様はいつの間にか騎士団長の正体を知っていたし、どこかで交流を深めていたのかしら。さすがお兄様だわ。


「でも、確かにクリステル嬢の言うとおり、プリンは上手く作れなかったので、ついでに相談したかったんだ」

「どんな風に失敗したんですか?」

「ボソボソになってしまったんだ。小さい穴も開いていた」


 それを聞いて瞬時に原因に見当がついた。


「たぶんですが、卵を混ぜすぎて空気が入りすぎたのかもしれません。混ぜるときは泡立てないように気を付けてください。あとは、火が強すぎて温度が高いのかもしれません。鍋の大きさや材質によって火力を調整しなくてはいけないんです」

「ふむ。意外にコツがいるんだな」

「前のレシピでは、そこまで書いていなかったですよね。申し訳ないです」

「いや、やってみないと分からないことはあるものだ。こちらこそ教えてもらって感謝している」


 騎士団長は石板に聞いた内容をしっかりメモしていた。


「そういえば騎士団長。あなたはどうやって魔力を制御されていますか? 参考のために是非お聞かせください」


 今日の基礎魔法の講義が気にかかっていたため、さっそく彼にも尋ねてみた。人のよってやり方は違うかもしれないが、何か参考になるかもしれないと考えたからだ。


 騎士団長は石板を仕舞ってわたしに再び視線を戻すと、「魔力の制御だと? どうしたんだ?」と詳細を尋ねてきた。


「実は……」


 基礎魔法での課題を騎士団長にも話した。


「ふむ。聖魔法を無意識に放っているとは。クリステル嬢は初代聖女に匹敵するほどの潜在能力を持っているのかもしれないな」

「初代聖女と比べられるなんて、恐れ多いですわ」


 ゲームでも同じようにヒロインが初代聖女のようだと絶賛されていた。でも、わたしみたいに制御について問題になっていなかったけど。


 こんなポンコツなのに自分がまだ聖女として認められているのが不満だけど、今のところみんなの攻略フラグは撲滅してきたから、きっと順調に悪女計画は進んでいるはずよね!


「私の魔力を操るコツは、魔力を物のように認識することだ」

「物ですか?」

「ああ、体の中に存在すると認識して、出し入れをしている」

「そうだったんですね。そういう考えは全くなかったので、参考になりました。ありがとうございます」


 礼を述べると、騎士団長は鷹揚にうなずく。


「お兄様は魔力の制御はどうされていますか?」

「僕は熱みたいに考えているよ」

「熱ですか?」

「うん、触れると温かいだろう? だから、その熱を伝えたり流したりするような感覚で僕は操っている」

「そうなんですね。教えてくださり、ありがとうございます」


 家に帰ったら、さっそく二人の意見を元に頑張ってみようと思った。


「ところで、明日の予定を聞いているか?」

「はい、お城でアルメリア様と一緒に呪われたドレスの封印を行うんですよね?」


 学院は明日から二日間休みだ。前世の学校と同じように完全週休二日制になっている。


「そう、ドレスの封印で合っている。その儀式に私も立ち会うから安心するといい」


 騎士団長は自信を滲ませて笑みを浮かべている。

 もしかして慣れているのかしら。


「はい、ありがとうございます。ところで、そのドレスの封印って、どういう風に行うんですか? お父様もよく分からないみたいなんです」


 実はゲームでも同じイベントがあったことを思い出していた。

 呪われたドレスではなく、聖杯チャレンジという名前だった。


 封印に使用している聖杯の魔力がそろそろ空になるので、このイベントが発生する。

 複数ある聖杯にどちらが多く魔力を満たせるか、アルメリア様との勝負だった。

 勝者には、付き添いの攻略キャラだけではなく、他のキャラの信奉値が上がるボーナスまであった。

 だから、なんとしてもわたしが勝つわけにはいかなかった。

 予備知識はあったほうが、作戦を立てやすくなる。

 悪女の企みのために探ってみた。


「封印には五つの聖杯を使っているが、要は魔法具の一種だ。聖属性の魔力で動いている。そろそろ補充の時期なので、聖魔法が使える人物が必要だったんだが、聖女がいるなら聖女に任せようって話になったのだ。なにしろ、聖属性の魔力持ちは、なかなか貴重だからな」

「そうだったんですね」


 知っていたゲームの情報と大して変わらないみたいだ。

 アルメリア様には是非とも勝ってもらいたい。


 でもね、今まで散々魔力が多い。垂れ流しと言われてきたわたしが上手く負けるだろうか? いや、恐らく無理でしょう?

 あっさりと聖杯を満たして圧勝してしまう未来が簡単に予想できて背筋が凍りそうになる。

 そんなの耐えられない。


 だからね、よくよく考えたんだけどね。

 これまで悪女らしく振舞ってきたけど、ことごとく失敗しているじゃない? 認めたくはないけど、残念ながら。

 だからね、思ったの。


 発想の転換っていうのかしら。

 この呪われたドレスを着たら、それこそ悪女っぽくなれるんじゃないかって気がついたの。

 よく言うじゃない? 形から入るって。


 まずわたし自身が呪われそうだし、聖女としての評判は今度こそガタ落ちでしょ?

 垂れ流しの大量の魔力だって中和されるかもしれない。

 そうしたら、魔力垂れ流しでピンチだった基礎魔法の単位も無事に取れるかもしれない。

 もしかして、いいこと尽くしかも!

 高笑いしそうになるのを必死に堪えながら、平静を装って淑女らしく微笑みを浮かべた。


「ありがとうございます、ウィルフレッド様」

「うむ」


 そうお礼を言ってから気が付いた。

 騎士団長がわざわざ会うタイミングを伝えるってことは、その日までにプリンを食べたいって暗に催促していたのかもって。

 良かった。うっかりスルーしなくて!


 そうと決まれば、レシピを考えなくっちゃ。プリンは前回と同じもので良かったかしら?

 味を変えてみても面白いかも。どれが好きかしら。内緒で用意して驚かせても楽しいかも。色々と種類を考えてみようっと。

 あー、想像するだけでよだれが垂れそう。むにゃむにゃ。



「ずいぶん、幸せそうに寝ているな」

「きっと食べ物のことでも考えているんでしょう。それよりウィルフレッド様」

「なんだ?」

「聖女が国にとって重要なのは、よく理解しております。しかし恐れながら、貴族の嗜みとはいえ、愛人を抱えたまま愛の女神の遣いとも言われる聖女に求婚するのはいかがなものかと存じます。また、王子とウィルフレッド様、どちらに選ばれましても、クリスを守れない人を僕個人はクリスの伴侶として認められません。それを心に留めておいていただけると嬉しいです」

「ふっ、王女の愛人と言われたお主がそんなことを言うとは思わなかったぞ」

「僕の愛人の件は……色々と事情があって誤解です」

「なるほど。それなら私も同じだと主張しておこう」

「え?」

「まぁ、よい。お主の忠告、心に留めておく」





 気づいたら馬車は家に到着し、わたしはお兄様に優しく起こされた。

 寝ている自覚がなかっただけに起きたときはびっくりしたけどね。

 騎士団長との別れ際にカゴを渡されて、再び卵をゲットできた!


「騎士団長、ありがとうございます!」


 にっこりと感謝を伝えると、彼はふと眉をひそめた。何かやらかしたかと心配になって心臓が飛び跳ねそうになる。


「そういえば本当の名をまだ伝えてなかったな。わたしの名はウィルフレッドだ。次からそう呼ぶように」

「は、はい! ウィルフレッド様ですね」


 危うく癖で騎士団長って呼びそう。気をつけないと。


「お主は私が騎士団長と分かっても、びっくりするくらい態度が変わらないな」


 呆れたように言われて、胸がドキッとして止まるかと思った。

 それは始めからあなたの正体を知っていたからですとは言えない。


「どんな格好をされようとも、ウィルフレッド様は、ウィルフレッド様ですわ」


 慌てて誤魔化しを口にすると、彼の緑の目が意外そうに見開いた。


「そうか。クリステル嬢にとって、私が背負うものは関係ないのだな」


 ウィルフレッド様はわたしを見つめながら微笑を浮かべる。その心の底から嬉しそうな彼の笑みは、多くの女性を魅了するような破壊力を秘めていた。

 彼が本気で求婚すれば、どんな女性もすぐにうなずいちゃうんじゃない?


 プリン目的とはいえ卵をいっぱいくれるし、カリキュラムのときも素早く対応してくれたいい人だよね。


「では、明日また会おう」


 ウィルフレッド様はそう別れを告げ、馬車で去っていった。


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