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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第四章 王子とのお茶会

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基礎魔法の講義

「どうしてお兄様はそんなにお怒りなんですか?」


 こんな風に押し黙ったまま怒り続けるなんて、すごく珍しかった。


 お兄様はムッとした表情のまま、通行の邪魔にならないように廊下の隅に移動する。


 わたしの側に寄り、「あのさ」と、耳元でヒソヒソ話し出す。


「どうして下僕になれって、足を差し出したの? 先生に足にキスしてほしかったの?」


 僕ですら足にはキスしたことがないのに。

 そうお兄様は口を尖らせて不満そうに文句を言ってきた。


「ち、違いますよ! 先生を怒らせるためです」


 わたしの反論にお兄様は怪訝な顔をする。

 だから、事情をきちんと説明した。敬愛のキスは受けたくないけど、先生に恥をかかせないために、あえてあのような失礼な態度を取ったのだと。


「え、どうして?」


 お兄様は不思議そうに目を瞬きながらわたしを見つめる。

 敬愛のキスは、淑女にとっては栄誉あることだ。でも、元が日本人のわたしには馴染みがさっぱりなかった。

 家族からキスは嬉しいけど、他人からは抵抗があった。

 困ったようにお兄様を見上げる。


「だって、手とはいえ、お兄様以外の人にキスされるのが嫌だったんです」


 家族でわたしの手にキスしてくれるのは、お兄様だけだった。

 だから、お兄様以外の他人によって手にキスされるのは嫌だった。


「え?」


 お兄様の目をひときわ大きく見開かれると、頬がみるみる赤くなっていった。すぐに口元に右手を当てて、ふいっと顔を背かれた。お兄様は壁に額を当てて、よく聞き取れない声でブツブツと独り言のように何かを呟いている。


「……僕以外のキスが嫌だなんて。妹が可愛すぎて困る」


 お兄様の声はくぐもっていて、よく聞こえなかった。


「お兄様?」


 一人の世界に入ってしまったお兄様の袖を掴んで呼び戻すと、お兄様はすぐにハッと我に返った。


「ああ、ごめん。一限目は全学年広間集合だったよね。急ごうか」


 先ほどの不機嫌な様子とは打って変わり、ニコニコとご機嫌だ。鼻歌でも歌いそうな雰囲気をしている。


 良かった。お兄様と仲違いしたままなのは辛いし。


 ホッと一安心して、足取りの軽いお兄様と一緒に移動した。


 それから広間にて新学院長から挨拶とカリキュラムの件で謝罪があった。

 人の良さそうなおじ様って感じの中年男性だ。細い垂れた目元が、いつも微笑んでいる印象を受ける。


 二年生には特に迷惑をかけたことを詫びていた。今後の予定を一通り説明したあと、なぜかわたしが学院長から名前を呼ばれた。


 学院長がいる壇上まで来て欲しいと言われたので、嫌な予感がしつつも近づいた。

 先ほどエルク先生の誤解があったから余計に警戒していたけど、学院長ともあろう人が事実を正しく認識できないなんて、そんな間違いはないはずだ。


 そう信じていた。

 信じていたはずなのに!


「あなたのおかげで学院は救われました」


 学院長がニコニコしながら感謝状をわたしに差し出してきた。


「いえ、そんな感謝されるいわれはないですわ!」


 慌てて丁重にお断りすると、学院長が戸惑った表情を浮かべる。


 まぁ、どうしましょう。

 聖女の株を上げたくないだけで、相手の気持ちを無下にしたいわけではなかった。


「すいません、クリスにとっては、学院の問題解決はして当然の行為だったので、謙遜しているのです。ですので、ここは兄である僕が一旦受け取りましょう」


 お兄様がいつの間にかわたしの斜め後ろにいて、堂々と学院長と話していた。

 気配がなくて、全然いたことに気がつかなかった。


「なるほど、ずいぶん慎ましいのですね。それでは今回のような大勢の前では特にお困りだったでしょう。申し訳ないですね」


 学院長はわたしに会釈してくる。


 ポカンと二人を眺めているうちにお兄様は学院長から感謝状を渡されていた。


 すると、広間にいる学生たちから盛大な拍手が沸き起こる。


「聖女様、ありがとうございます!」


 ヒューヒューと熱い歓声まで上がっている。

 すごい熱気に包まれる中で退場したけど、わたしの存在は全学生に知られてしまった。

 こんなはずではなかったのに!


 それから他の学生と廊下ですれ違うたびに「聖女様だ」と注目される。


 恥ずかしくて俯きながらお兄様に教室まで連れて行ってもらった。

 教室に入った途端、視線を感じたと思ったら、なんと王子と目が合った。彼から溢れんばかりの笑顔を向けられていた。


 がーん! 全然王子の信奉値が下がってないわ!

 なんてこと!

 なんとしてもお茶会で聖女株を大暴落させないと!


 メラメラと悪女計画に激しく燃えていたけど、きちんと講義は集中して受けないとね!

 なんと、カリキュラムが元に戻ったから今日から基礎魔法が始まるの。

 一体どんな講義なのかしら。みんなわたしが魔法士に向いているっていうし、楽しみだわ。


 ウキウキしながらアルメリア様たちのもとに向かった。


「おはようございます、クリステル様。ずいぶんとご活躍だったみたいですわね。友人として鼻が高いですわ」

「おはようございます、アルメリア様。偶然魔物と居合わせただけですわ」

「おほほ。ご謙遜がお上手なのね」


 そんな会話をしながら着席していたら、先生がキリっとした顔つきで入室してきた。


「おはようございます、皆さま」


 中年の真面目そうな女性が、基礎魔法の担任だ。シンプルなベージュ色のワンピースドレスを着ている。


「講義一回目の本日は魔力について説明いたしますわ。カリキュラム変更前にすでに聞いた人もいるかもしれませんが、おさらいと思ってくださいね」


 隣に座っているアルメリア様たちは、恐らく聞いた話だろう。

 でも、わたしは初めてなので真剣に耳を傾けていた。


「まず、魔力についての説明です。この不思議な力は、神々から授かった魔法を使うためだと言われています。魔法は便利ですが、扱いを間違えると危険なこともあるので、注意が必要です。私の指示がない限り、勝手な真似はしないようにしてくださいね」

「はい!」


 先生のこわい警告に学生たちは素直に返事をする。


「魔力には五つの属性があります。知っている方はいらっしゃいますか?」

「はい!」


 先生に指名された学生が起立する。


「火と水、土と風、それから聖属性です」

「そのとおりです。五つの属性があると言われています」


 先生は学生の答えに満足そうにうなずく。


「個々によって、属性の割合はグラデーションのようにバラツキがあるんです。でも、火は水に相反し、土は風と相反します。この相反する同士の属性は同時には持ちません。だから、聖属性を含んで最高で三つの属性を持つことになります」


 なるほどー。属性にはそういう関係があったんだ。

 ゲームをプレイしたけど、そこまで覚えてなかった。

 ちなみに、わたしが聖女と認定されたのは、聖属性の魔力が一定以上あったからだ。

 あの聖女判定の水晶が光ったのは、そのためだ。


「実際に皆さんの属性を調べてみましょう。これはこの先三年生からの実技で魔法を覚えるために必要な情報です。自分の属性の魔法を覚えていくことになりますから。今から知っておくのは大事なことです」


 グループごとに分かれて、一班に一つずつ魔力属性判定器を先生から配られる。

 その判定器に学生が魔力を流すと、四角い画面が属性で色づく。


 わたしと同じ班だったアルメリア様は、白い光の他に黄色と赤色の光で画面が輝いていた。


「白は聖属性で、黄色は風属性ね。赤色は火属性だわ」

「すごいですわ、アルメリア様! 三つも属性をお持ちだなんて」

「さすがですわ」


 アルメリア様を周囲にいた友人たちが次々に褒めていた。もちろん、わたしも混じっていたけどね!


「次はクリステル様ですわ」

「はい」


 わたしが判定器に触れたところ、すごく勢いよく白く画面が光った。眩しくて目が開けられないくらいに。画面からレーザーみたいに白い直線状の光が天井に向かって伸びていった。


 びっくりして思わず判定器からすぐに手を放してしまった。


「今のは、一体どうしたんですか?」


 先生がトラブルの気配を感じて、わたしたちの班に近づいてきた。

 周囲にいた学生が何事かとわたしを見る。


「いえ、触っただけなんですけど……」


 わたしがそう答えると、先生は合点のいった表情を浮かべた。


「魔力が多いとは聞いていましたけど、すごいですわね。それで、何属性か分かったんですか?」

「眩しすぎて、よく確認できなかったんですけど、ぱっと見では白かったので、聖属性ではあるみたいです」

「なるほど。他の属性を判定できなかったんですね。まあでも、気にする必要はありませんわ。他の方法でも判別方法はあるから大丈夫ですので」

「そうなんですか?」

「ええ、実際に属性魔法を唱えてみて、使えなければ適性がないと分かるでしょう?」

「なるほど。そうですね」


 先生はすぐに講義に戻っていった。


 そのあと、他の学生たちが、「私は火の属性が強いみたい」「俺は水だって」「あ、土だって。珍しいな」「僕は風なんだ。同じだね」みたいな楽しそうな会話にわたしは入れず、属性ぼっちを味わっていた。

 聖属性を持っているのは、わたし以外にアルメリア様しかいなかったから。

 ちょっとしょんぼり。


 こうして週末まで平穏に学院の講義を受けて過ごした。


 学院の時間割は改変前に戻ったため、かなり変更があった。

 でも、一年生はまだ講義が始まったばかりだったため、それほど影響はなかった。大変なのは二年生だ。特にベナルサス様は追加の講義を受ける必要が出たので、はたから見ても忙しそうだった。


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