表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第三章 専攻コース選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/75

魔物学

 本日最後の四時限目は、魔物学だ。これも必須科目だ。

 お兄様に送ってもらって教室に向かうと、一年生たちのほとんどがすでに席に座っていた。

 教卓の上に置かれた動物用のケージが賑やかで、学生たちがじっと観察している。


 もしかして、講義で使う魔物の一種だろうか。

 好奇心から近づいて中を覗くと、一匹の黒い猫がいた。わたしを見た瞬間、威嚇しはじめた。


「フー!」


 毛を逆立てて尻尾まで爆発したみたいに膨らんでいる。

 けれども、ケージの外から指を一本差し出すと、猫の習性でクンクンと匂いを嗅ぎ始める。


 ふふ、可愛いわね。


 濡れた猫の鼻先がわたしの指にちょんと触れた途端、黒いモヤみたいなのが猫の体から抜けて霧散していった。ケージの外まで広がって、すっかり消えてなくなった。


「あら?」


 今のは一体何が起こったのだろう。

 先ほどまで喧嘩腰だった猫は、すっかり様変わりしていた。甘えた声を出しながら、ごろごろと喉を鳴らして、わたしの手にスリスリしだしている。


 可愛いから、まぁいっか。


 チャイムが鳴ったので慌てて席に着いたとき、担当の先生が教室に入ってきた。


「はーい、皆さん! 魔物学を担当するエルクです! よろしくお願いします」


 すごく若い男性だ。先生になるには早すぎる気がするくらいに。

 それもそのはず。彼は本来なら助手で、講義を受け持っていなかったはず。

 エルクはゲームの攻略キャラだから覚えていた。

 名前といい、栗毛のちょっと硬そうな癖のある髪、眼鏡の奥にある知的そうな黒い瞳も、彼の特長そのもの。人違いではないと思う。


 なぜ彼から教わる状況になったのか理解できないけど、今は余計なことを考えずに講義に集中しよう。


「まず、魔物についてですが、この世界ではどういった存在か。みなさんよくご存じかと思います。そう、我々人間の天敵です。残酷なので、たとえ小さな魔物でも存在を許してはいけないものです」


 学生のみんなは真剣な顔をして、先生を見つめながら話を聞いている。


「今日は魔性化について説明したいと思います。最近魔王の復活が噂されているので、一番身近な問題だと思ったからです。ところで、魔性化について知っている人、いますか?」


 エルク先生が尋ねると、何人かの学生が手を上げた。


「はい、そこの君」


 指された学生が立ち上がった。アルメリア様だ。


「魔性化は、瘴気に汚染された状態のことを言います」

「そうです! 素晴らしい! よく予習をしていましたね。瘴気に身を侵食されると、魔性化してしまいます。そうなった生き物はどんな風に変化しますか?」


 さらに学生たちが答えようと、手を上げてアピールしている。


「そうだね。次はそこの君!」

「はい、一時的にですが、魔物のような状態になります。目が金色になり、正気を失い、凶暴化します。そのまま放置してしまうと、死んでしまうか、魔物そのものになってしまい、命の危険があります」

「そう、そのとおりです! このクラスは大変優秀ですね。魔性化してしまうと、大変危険なんです。魔物の特徴である金色の目にご注意です。ちなみに、人間も魔性化してしまいます。その際は非常に気をつけてください。姿形で騙されないように敵を見抜きましょう」


 答えた学生たちは、フフンと誇らしげに微笑んでいた。貴族の出身の学生は、予習をしっかりしてきているのだろう。

 わたしもだいたい内容についていけていた。知っていたけど、目立ちたくないから手を上げずに黙っていた。


「じゃあ、どうやって魔性化を治すか知っていますか?」

「はい!」

「じゃあ、元気よく返事をした君、どうぞ」

「聖水などで浄化します!」

「そう、そのとおりです。聖水もそうだし、この教室にいる聖女二人の浄化の力でも可能です」


 エルクがそう言った途端、学生たちの視線がわたしとアルメリア様に集まる。


「へー、その二人がそうなんですね」


 エルク先生に気づかれてしまった!


「今日は実際に魔性化された猫を持ってきたんです。えーと、こちら側の列から近くに来て覗いてごらん」


 先生に指示され、窓側の席にいる学生たちが立ち上がって観察し始める。


 えっ、あの猫って、魔性化していたの?

 なんか嫌な予感がする。


「先生! 猫の目が金色ではなく、緑色です!」

「なんだって!?」


 学生の指摘を受けて、エルク先生が慌ててケージに駆け寄り、猫を覗き込む。


「本当ですね。浄化されてしまっています。でも、おかしいですね。魔性化の治療は、聖水で全身を浸すくらいの聖属性の魔力が必要なんです。そんな目を離したすきに一瞬で浄化が可能なわけがないのですが……」


 エルク先生がブツブツ考え込んでいると、「先生!」と学生が話しかけてきた。


「講義が始まる前にクリステル様が猫に近づいていました!」

「そうそう、そのときに何か黒いモヤがケージから出ていきました!」


 ヤダ、みんなして本当のことを言わないで!

 正直でいい子すぎるわよ!


「ほほう、クリステル嬢が」


 エルク先生がわたしをスッと目を細めて見つめてくる。

 先生と目が合った瞬間、ギクリと体が強張った。


 もしかして、お仕置きタイムだろうか。申し訳ないとは思うけど、わざと浄化しちゃったわけじゃないのに。

 先生は無言のまま、ツカツカと靴の踵を鳴らしてわたしの隣にまで近づいてきた。


「クリステル嬢、答えなさい。あなたはその猫に何をやったんですか?」


 エルク先生の丸い眼鏡のレンズがキラリと怪しく光った気がした。

 わたしは冷や汗をかきつつも立ちあがり、「はい」と答えた。


「も、申し訳ございません。猫に指の匂いをかがせました。威嚇していたので、慣れてもらおうと思って。あの、魔性化していると知らなかったんです」

「匂いをかがせただけなんですか?」

「はい、猫が近づいてきたので、偶然わたくしの指に猫の鼻先がチョンと触れたんです。そのとき、猫の体から何か黒い煙が出た気がしました」


 エルク先生はそれを聞いた途端、残念そうな顔をして頭を押さえていた。


「はー、わかりました。どうやらクリステル嬢は聖魔法を垂れ流し状態のようですね」


 垂れ流し!?


「まあ、この話は講義が終わったあとにしましょう。では、残念ながら魔性化した生き物は見せられなくなりましたが、講義を続けます」


 そのあと、エルク先生は何事もなく講義を進めてくれた。けれども、わたしはこのあとに居残りが確定してしまい、嫌な予感がして仕方がなかった。


 だって、エルク先生は攻略キャラだ。ここで対応を間違えてしまったら、攻略フラグを立ててしまう。

 それにしても、こんなイベントはゲームの中でなかった気がするんだけど、どういうことだろう。

 まあ、今は講義に集中しないと、テストで赤点をとってしまう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ