I. 神々が集う庭
これは、神々が集う庭での物語。
様々な神が小休憩するために使われる庭。
それは、空に、川に、森の中に。
人間達の近くにも、在るかもしれない。
* * *
第6庭園、《英智の庭》。
今日は、此処を覗いてみよう。
英智の庭は、空に浮いている。
石膏のように白い床、階段、柵、彫刻。
中央には屋根がついている。
が、《庭》では天気の影響を受けない。
故にいつも晴れているため、屋根に意味は無い。
所々に植物が植えられており、
床に柱に幾何学模様があしらわれていて、
空中にキューブやテトラなどが浮いている。
「……~♪」
「……んん?誰かと思ったらクーストじゃねーか」
「……そう言うお前はライゼルか」
数字の神、クースト。
図形の神、ライゼル。
「知ってるとは思うが、俺は小さくチマチマした物が大ッ嫌いなんだよ……つー訳でその俺の特等席からどけ」
「全く理由になってないな……そっちこそ知ってるとは思うが、僕は大雑把で仰々しい物が大嫌いなんだよ。もちろん、そんな性格の奴なんかは以ての外だ」
「おい、俺はまだ良いが、俺の兄貴のルイガルを愚弄するなら、絶ッ対に許さねえぞ……」
ライゼルの兄は、立体の神、ルイガル。
「勝手にどうぞ……あと、此処からはどけない。この場所は《英智の庭》で一番日当たりが良いんだよ。それにお前の特等席でもない。……文句が有るなら他の《庭》に行けよ、《庭》はお前一人の物じゃ無いんだからな。俺にも座る権利がある」
「ならお前一人の物でもないし、俺にも其処に座る権利が有るだろ……ふざけんな」
ん、何だ、あいつ等は仲が結構悪いようだ。
今にも衝突しそうだ。
「いや?今のはお前がさも此処が自分だけの物のように言ったから言ったんだが……ああ、なるほど。お前は人の話の解釈をするのも大雑把なのか(笑)」
「カチーン(怒)はいキレたもうキレたもう謝っても土下座されても足舐められても許さねえ」
「は(笑)誰がそんな事するかそんなの天地がひっくり返ってもする事は未来永劫無い」
「…………………………」
「…………………………」
…………………………。
「「死ね」」
と言った瞬間、二人の体が動き出し、取っ組み合いの喧嘩が始まって──
「こら!二人共止めなさい!」
二人の体がピタリと硬直する。
「れ、レイニル……」
「な、何でこんな所に……」
記号の神、レイニル。
「何でって、サラニラさんに聞いたら二人共ここにいるって言ってたから、何か起こるんじゃないかと思って慌てて来てみたら、もう何か始まってた所だったんだよ?」
「そう言うことじゃなくて、お前今日人間界の方に行くんじゃなかったのか?って言う意味で言ったんだが」
「え、何で知ってるの!?」
「知ってるも何も、昨日うちの妹が『明日レイニルさんと人間界でお花を見に行くんだ~』って嬉しそうに俺に何度も言ってきたんだが」
クーストの妹は、素数の神、シファナ。
「あ~……まあ、そこに行く途中でそう言えばまたあいつ等は揉めたりしてるんじゃないかと思って、サラニラさんにライとクーの場所を聞いたんだよ?」
「ちょ///お、俺のことを、も、もうそう呼ぶなって、い、言っただろ!?」
「俺の方もだ。俺達だっていつまでも子供じゃない」
ふむ、どうやら図形の方は、記号の奴に気があるみたいだな?それに比べ、数字の方は、あまりそういうのに興味がなさそうに見える。
数字の方が『子供』と言ったが、勿論、人間の子供の年齢とは桁が違う。人間の子供は0~20歳だが、神の間で子供と言えば普通、0~400歳のことを指す。こいつらは共に324歳と言ったところか。……俺にとっては全然子供だが。
「あ~ごめんごめんライ、クー」
「おいお前絶対わざとだろ」
「うんわざと」
「おい次言ったらどうなるか──ん、ライゼル?なんだ、ぼーっとして」
「……ん、いや、なんでもない」
「……調子狂うなー……帰るわ」
「へ?もう?」
「いや、言うて俺此処に三十分位居たんだが」
「会ったばっかりなのに~」
「とか言って、帰りに俺の妹を送り届けるのを口実にまた家に乗り込んでくるつもりだろ」
「あれ、バレてる」
「何百年の付き合いだと思ってんだよ」
と言って、数字の方が行ってしまう。
今のやりとりの中で図形の方が哀しそうな表情になっていたのは言うまでもないだろう。
「……あーあ、行っちゃった」
「…………あの、さ」
「ん?何?」
「……お前、クーストの事………………」
「…………えっ……そ、そそそんな訳ないじゃんクーは只の幼なじみで友達だよっ!?」
完全に声が裏返ってるが。何だ、やっぱり記号の奴は数字の方が好きなのか。大して面白くもない。
まあ、別に図形の方も薄々気づいていたんだろう。
記号の奴は、そろそろ行かないと、と言って行った。
後に残った図形の奴は、一人たそがれていた。
続きはそこそこ気になるが、今日は此処まで。
明日は何処を視ようかな──なんて。