5 堕天使と聖天獣2
「さあ、今度はこっちからいくぞ!」
ブランガルが吠えた。
「お前が最強を名乗るなら凌いでみせろ」
体の各所から飛び出した角の先端部に、赤い輝きが灯る。
しゅんっ……ばばばばばばばばっ!
輝きは光線となり、無数の流星のように降り注いだ。
バラバラの方向から、いっせいにノアに向かって――。
「くうっ……」
彼女は折れた剣を放り捨て、その場から跳び下がる。
間一髪――。
光線が次々と地面を貫いた。
あと一瞬、跳び下がるのが遅れたら、ノアは全身を貫かれていただろう。
「初撃を避けたか。だが、まだ終わりではないぞ」
ブランガルの各部の角に、ふたたび輝きが宿った。
「また撃ってくる――!?」
ノアは跳び回って避けるが、そこへ三撃目が放たれる。
これもなんとか避けたが、
「きゃぁぁぁぁっ……」
四度目の攻撃で、とうとう避けきれずに食らってしまった。
乳房や腹部、四肢を貫かれ、ノアは悲鳴を上げる。
「はあ、はあ、はあ……」
体の力が抜け、その場に倒れ伏した。
「どうした? 第一階位の堕天使と言っても、そんな程度なのか?」
「つ、強い──」
信じられないほどの戦闘能力だった。
相手はたかが聖獣だというのに。
堕天使のしもべにすぎないモンスターだというのに。
最高位の堕天使である自分が、まるで歯が立たない。
「どうなっているの……? あなたは、本当に聖獣……!?」
「聖獣さ。ただし特殊なスキルを備えていてね。おかげで、お前のような強者が相手でも互角以上に戦える」
と、ブランガル。
「特殊なスキル……?」
「『相手の闘志をそのまま自分の戦闘能力に転嫁できる』――それが私の特殊スキル。私の強さは、そのままお前の心の強さの証だ」
「私の……心……?」
うめくノア。
自分の心が、本当にそこまで強いのだろうか?
今でも不安はある。
人間ごときに負けたままで終わりたくない、というプライドはある。
だが一方で、ふたたびジラルドと対峙したときに勝てるのだろうかという不安があった。
そして、恐怖も。
そんな自分を情けないと思う。
そんな自分を弱いと思う。
「自信がないのか? 精神が大きく揺らいだぞ?」
ブランガルが言った。
ノアの心を見抜いたかのように――いや、実際に彼はノアの心を感知できるのだろう。
「自信がないのは、確かよ。だけど」
ノアが顔を上げた。
「だけど、私は負けない……!」
「ほう、まだ闘志を失わないのとは」
「人間に二度も敗北した屈辱……それを晴らさなければ、最高位の堕天使としての誇りを保てない!」
ノアが叫んだ。
心の奥から熱いものが噴き出すような感覚があった。
「ふむ。それがお前の闘志の出所か」
――ノアは、第九階位として誕生したその時から、将来の第一階位は間違いないと言われる逸材だった。
だが、第七階位になったころ、邪神大戦が起きた。
当時から優れた力を持っていたとはいえ、さすがに今とは比べるべくもない。
まだ弱かったノアは、五大英雄の一人に蹴散らされ、命からがら戦場から逃げ帰った。
大勢の仲間が殺された。
家族や近しい者も殺された。
そして邪神までもが封印され――邪神軍は敗走した。
悲しみに打ちひしがれながらも、ノアは立ち上がった。
この異空間に閉じこもり、再起のときを待った。
三十年近い間、ずっと。
その間に、ノアは力を磨き続けた。
やがて最強の堕天使である第一階位へと昇りつめた。
(それでも――足りない)
ノアは五大英雄の一人ジラルドに敗れた。
二度も。
邪神に新たな力を与えられてさえ、なお敗れた。
(奴らを倒すには……殺すには、足りない)
だから、
「私は強くなる! 今、ここで! 命を駆けてでも――」
ノアの全身から輝く神気が吹き上がった。
翼を羽ばたかせ、突進する。
まさしく己のすべてを懸け、ブランガルに向かって突き進む――。
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