4 堕天使と聖天獣1
SIDE ノア
白い霧が立ち込めた峡谷――。
ここは邪神界の外れにある場所だ。
ノアはその最奥へとたどり着いた。
可憐な美貌や天使の白い衣は返り血だらけである。
ここに来るまでに無数の堕天使や聖獣に襲われ、倒してきた証だった。
同胞である堕天使や聖獣を討つことにためらいはなかった。
そんなことを気にする余裕はない。
ここには『力』を求めに来たのだ。
霧の峡谷の奥地にたどり着いた堕天使は、最強の力を与えられる――。
邪神界の伝承を信じて。
「ほう、こんなところに第一階位の堕天使が来るとは──」
突然、霧が晴れた。
その向こうは巨大な岸壁がある。
さらにその岸壁の半ばほどに巨大な獣が埋まっていた。
さっきの声はその獣が出したものである。
「お前は――」
ノアが身構えた。
「我は聖天獣ブランガル」
名乗るブランガル。
「ここを通してもらうわよ」
ノアが告げた。
「この先にあるという、最強の力――必ず私がいただくわ」
「勇ましいことだ。さすがは最高位の堕天使」
「ノアよ」
「覚えておこう。そして、見事に私を倒した暁には、お前に武具を授けようではないか」
「なら、遠慮なく──いくよ!」
ノアは地を蹴り、突進した。
「『聖武具召喚』!」
第一階位堕天使だけが所持を許される専用武具を召喚する。
ノアの手に優美な長剣が出現した。
聖武具『フラガラッハ』だ。
「はああああああああああっ!」
気合いとともにフラガラッハを振り下ろす。
放たれた衝撃波が聖獣を直撃した。
爆発とともに、聖獣は跡形もなく消滅する。
「聖獣ごときが、この私と戦えると思ったの?」
ノアはふんと鼻を鳴らした。
「なるほど、大した威力だ」
前方から声が聞こえた。
いまだ爆炎の残る場所から、ゆらりと巨大なシルエットが立ち上がる。
「あれは──」
「聖獣スキル【想念鎧甲】。これが私の戦闘形態だ」
先ほどとは、姿が違う。
全身にまとった銀色の鎧。
体の各所から飛び出した巨大な角。
そして赤く輝く四つの瞳──。
「いくぞ」
聖獣の瞳からそれぞれ光線が放たれた。
螺旋状に伸びる四本の赤い光線を、
「こんなもの!」
ノアはフラガラッハで薙ぎ払う。
ばきん、と音がして、刀身が真ん中から折れ飛んだ。
「何……!?」
驚きつつ、即座に跳び下がるノア。
「ふむ、いい反応だ。その場にとどまっていたら、私の追撃で死んでいただろう」
「フラガラッハが折れるなんて──」
ノアは戦慄した。
これはただの聖武具ではない。
邪神から力を与えられ、強化された最強の武具だ。
聖獣ごときがそれを砕く力を持っているとは……。