1 栄光の剣、その後1
ウィンドリア王国の南端にある港町──。
そこを十数体の怪物が襲撃していた。
堕天使。
邪神の配下であり、天使と同等の戦闘能力を誇るを闇の魔物だ。
「ひ、ひいっ……!?」
「化け物ぉっ……ぎゃあっ!」
いくつもの悲鳴が響く。
「人間ども……滅せよ……!」
先頭の堕天使が言った。
『栄光の剣』のギルドマスター、バルツだ。
先日『栄光の剣』に他のギルドから合流した者たちがいた。
だが、その正体は堕天使だった。
バルツはリーダーである堕天使メティスエルによって、みずからも堕天使に変えられてしまった。
他のギルドメンバーも大半が同じような目に遭ったようだ。
最初から彼女たちの目的はそれだったのだろう。
バルツたちは新たな堕天使を生み出すための『素材』に過ぎなかったのだ。
そして今、こうして彼女たちの手先として人間を襲っている──。
「はははははは! 死ねぇっ!」
逃げ惑う人々を、バルツは容赦なく『爪』で引き裂いた。
血が、欲しい。
殺しても殺しても、血が欲しい。
バルツは爪を振るいながら、笑っていた。
すでに自分が人間でなくなっているのは分かっている。
理性が消えるのも、そう遠くはないのだろう。
人間を殺し、喜びを得る怪物──堕天使として生きていくのだ。
(なぜ、こんなことになってしまったんだ……)
思考が巡る。
思い返せば、運に見放されたのは──あのときだろう。
『栄光の剣』に所属していたジラルド・スーザを解雇し、追放したときだ。
彼はかつての英雄だった。
ギルドメンバーからの信頼も厚く、人望があった。
そう遠くないうちに、ギルドマスターの地位を自分から奪い去るのではないかと思っていた。
その思いは年々強くなり、ついに彼にあらぬ罪を着せて追放する──という真似をしでかしてしまった。
それからだ、『栄光の剣』の転落が始まったのは。
まず最初に感じたのは、大半のギルドメンバーの士気の低下だった。
長年ギルドに貢献し、また英雄でもあったジラルドを追放したせいだろう。
しかも、それが無実の罪によるものだということは、バルツが思った以上に、多くのメンバーが感じていたようだ。
「そこまでだ、化け物!」
凛とした声が響き、バルツは回想を中断した。
今度は一般市民ではなく冒険者のようだった。
しかも、なかなかの面構えだ。
Bランクか、もしかしたらAランクくらいの実力はありそうだった。
(いいだろう。お前もこの爪で引き裂いてやる──)
破壊衝動が一気に強まる。
目の前の相手を殺したい。
壊したい。
滅ぼしたい。
異常なまでに高まる殺意のまま、バルツはその冒険者に向かっていく──。