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8 新たな夢

 俺はソフィアやミリエラとともにギルド連盟の会館までやってきた。

 先日、『癒しの盾』のギルドランクがFからEに上がったため、補助金などの額が前よりも増えるらしい。

 その申請手続きのために来たのだった。


 ちなみに、コレットは留守番である。

『あたしも行きたかったです。置いていくなんて激おこです』と、ちょっと不満そうだった。

 ……すまない。


「見ろよ、『癒しの盾』の連中だぜ」

「確かSランクの魔炎竜を狩ったって……」

「あんなおっさんが? それとも若い女の方かな?」

「見るからにヘボそうな、あのおっさんじゃ無理だろ。女の方はエルフみたいだし、たぶんそっちが魔炎竜を討伐したんだろうな」

「違いない」


 ……魔炎竜を倒したのは俺だが、まあいいか。


「ヘボなおっさんとは何よ! 魔炎竜は師匠が倒したんだからねっ」


 ミリエラが目くじらを立てて怒っていた。


「し、師匠?」

「あたし、ジラルドさんに師事することにしたの! よろしくね、師匠!」


 直立不動で答えるミリエラ。


「けど、君は魔法剣士だろ。俺はただの剣士で──」

「じゃあ、剣の技だけ教えて。あたし、もっと強くなりたい!」


 身を乗り出すミリエラ。


 俺の腕にギュッとしがみついてくる。

 弾力豊かな胸の感触が当たっていた。


「ちょっとくっつきすぎだ」


 俺は彼女を離そうとする。


「えへへ、ちょっと照れちゃうね」


 ミリエラが顔を赤くしている。


 俺みたいなおっさんを相手に照れることもないだろうに。



「ちっ、なんだよあれ」

「若い女を侍らせていい気になってやがる」

「おっさんのくせに……くそっ」


 会館内にいた何人かの冒険者が、俺たちのところに近づいてきた。


「あんまりいい気になるなよ、おっさん」


 明らかにケンカ腰で俺をにらむ彼ら。

 ソフィアもミリエラも並外れた美貌だし、俺に対するやっかみや嫉妬だろうか。


「こいつ、Cランクじゃねーか」

「……っていうか、そっちの女もよく見たらFランクだぞ」

「お前ら、どうやって魔炎竜を狩ったんだ」


 彼らがうさんくさそうに俺たちを見た。


「まさか、本当は他のパーティが魔炎竜を倒して、お前らがその手柄を横取りした……なんてことはないよな?」

「いや、それしか考えられないんじゃないか? CランクとFランクの二人だけでSランクモンスターを倒せるわけがねぇ」

「じゃあ、その報酬もお前らが受け取る資格はないよな?」


 めちゃくちゃな言いがかりだった。


「……私たちは弱小ギルドですから」


 ソフィアがぽつりと言った。


「理不尽な目に遭うことも珍しくありません」


 悲しげな顔だった。


 あるいは──以前にも同じようなトラブルでもあったんだろうか。


 まあ、いざとなれば俺がソフィアにスキルをかけてもらい、彼らを実力で排除すればいいだろう。

 荒っぽい解決法は好みじゃないが、彼女たちを守るためには仕方がない。

 と、


「その辺にしとけよ」


 横合いから、別の冒険者パーティがやって来た。


 男1、女3という構成だ。

 先頭の男は、凛々しい顔立ちの青年剣士だった。


「っ……!? ロイ……さん!?」


 たちまち彼らが表情を引きつらせる。

 この間の魔炎竜討伐クエストで出会った、Aランク冒険者のロイたちである。


「その人が魔炎竜を狩ったのは本当だ。罠とか裏技的な何かを使ったわけじゃない。正真正銘──実力で斬り伏せたのさ」


 ロイは俺を見て、一礼する。


「その節はありがとうございました、ジラルドさん。ご無礼をどうかお許しください」

「いや、いいんだ」


 この前とは随分と態度が変わったもんだ、と思いつつ、俺は会釈する。


「俺たちのパーティは魔炎竜に殺されそうになったところで、そこのジラルドさんに救われた。この人を馬鹿にするなら、俺たちが黙っちゃいない」


 力説するロイ。


「じゃあ、あの男が魔炎竜を倒したのか……」

「Cランクがどうやって……」

「実力で斬り伏せた、ってAランクのロイが言うんだから、本当だろう……」


 ギルド内がざわついている。

 さっきまでの馬鹿にしたような視線は、もうない。


 こんなふうに注目されるのは随分と久しぶりだった。

 長らくCランクのロートル冒険者として過ごしてきたからな。


 今浴びている視線は、Sランク冒険者だった二十年ほど前に飽きるほど味わったのと同種のものだった。


「すごい……注目の的だね、師匠」


 ミリエラがにっこりと笑う。


「これで『癒しの盾』にも注目が集まって、新しい冒険者が次々に来てくれればいいんだが」


 俺は微笑みを返した。




 俺たちは会館の二階に行き、事務手続きを済ませた。

 ……といっても、手続きはほとんどソフィアが一人で片づけたのだが。


 俺は、こういう事務作業はどうにも苦手だ。

 ミリエラも同じらしい。


 ソフィアがテキパキと書類申請を終える間、俺もミリエラも手持無沙汰だった。

 窓口で彼女と職員のやり取りを見ながら、ただ待つだけである。


「はい、これで手続きは完了です。あ、それと──ジラルド・スーザさん」


 連盟の職員が俺を見た。

 二十代くらいの、眼鏡をかけた知的美人だった。


「あなたはBランクに昇格となります」

「えっ」

「おめでとうございます。ギルド証を交換しますので、前のものを出していただけますか?」


 ギルド証というのは、冒険者のランクを示すペンダントだ。

 彼女にそれを渡すと、数分して新しいギルド証を支給された。


 表面にはBランクであることが刻印されている。


「昇格か……」


 ギルドランクのことばかり頭にあって、俺自身の冒険者ランクのことは考えてなかった。

 確かにSランクモンスター討伐任務を果たしたんだから、ランクが上がってもおかしくないか。


「わあ、ジラルドさん、おめでとうございますぅ!」

「師匠、おめでと~」


 ソフィアとミリエラが祝福してくれた。


「ありがとう。まあ、俺自身のランクより、まずはギルドランクを上げていこう」


 俺はニヤリと笑った。


「ギルドランクを……」

「Eランクに上がって終わりじゃない。この先もD、C……とまだまだ上げていけるはずだ。そして、最後には」


 Sランク。

 すべてのギルドの頂点であり、大陸全土で七つしか存在しない最強最高の冒険者ギルド。


 そこにこの『癒しの盾』を加えてみせる。


 ──なんて、ちょっと大それた望みだろうか。


 だが、俺の全盛期の力を駆使すれば、決して不可能ではない気がしていた。


 冒険者を引退し、あとは余生を過ごすだけ──。

 ちょっと前まではそんなことを考えていたんだけどな。


 今は、新しい人生の目標ができた。

 このギルドがどこまで駆け上がっていけるか──試してみたい。


    ※


 同時刻、Sランクギルド『栄光の剣』本部──。


「どういうことだ……実績が目に見えて下がっている!」


 ギルドマスターのバルツが叫んだ。


「ここ三週間ほどで有望な冒険者が40人近く抜けましたので」


 秘書を務める女が言った。

 ちなみにバルツの愛人でもある。


「40人だと…!?」

「その中にはエース冒険者のヴェルナも含まれています。すべては……例の、あの男のせいですね」

「ジラルドか」


 バルツがうなった。


「奴がどうした?」

「彼は先日、素行不良でギルドを解雇処分になりました。それを不服として、一部の冒険者が離脱したのです。その中にはBランク以上の者も複数います」


 説明する女秘書。


「……それは、痛手だな」

「しかも今週になって、さらに2人のAランク、10人のBランク冒険者が辞表を提出しました」

「そんなに辞めるのか」


 バルツは辟易した。


 さすがに主力が抜けすぎだ。

 これでは『栄光の剣』はこれまで通りの実績を維持できない。


「彼らを呼び戻すことはできんのか?」

「それが……」


 彼女は言いよどんだ。


「なんだ、言え」


 追及するバルツ。


「どうやら彼らは新たなギルドを設立するようなのです」

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