8 エルフの魔法剣士は、高みをめざす2
「速い!」
魔導兵器は一瞬でミリエラの加速力を上回り、彼女の背後へと回りこんだ。
単純な速度では、相手の方が上。
この速度差は、イコール互いの魔力量の差だろう。
一体どれだけの魔力を内蔵しているというのか……。
「強いね」
ミリエラはぺろりと舌を出した。
相手の能力は自分以上。
それを実感してなお、恐怖よりも楽しみの方が勝っていた。
「だけど、あたしだって──」
ミリエラは魔力を高めた。
急加速。
そこから魔力の翼を開き、急減速。
超スピードの緩急で幻惑し、今度はミリエラが魔導兵器の背後に回りこむ。
「こ、これは──私の反応を超えた動き……!?」
魔導兵器が驚きの声を上げる。
無生物のはずの、魔導兵器が。
「そして──隙ありっ!」
一瞬、相手の動きが止まったところをミリエラは見逃さなかった。
「魔力斬!」
青い魔力を込めた剣で、魔導兵器に斬りかかる。
「【魔力防御フィールド】展開」
魔導兵器は全身にドーム状の防御フィールドを作り出し、それを受け止めた。
バチッ……バチィィィィッ!
互いの魔力がぶつかり合い、まばゆいスパークをまき散らす。
ミリエラと魔導兵器の中間で強大なエネルギーがくすぶっていた。
魔力の劣っている方がそのまま押し切られ、中央に溜まっている膨大なエネルギーをすべて食らうことになるだろう。
押し切られた方の、負け。
「単純な魔力量なら君の方が上。だけど、正面から突っこんだあたしと、振り返りざまの君──態勢ではあたしが有利。この勝負、どっちに転ぶか、分からないからね……!」
ミリエラが勝気に叫ぶ。
「楽しそうな顔をしますね……」
対する魔導兵器は淡々とした口調だ。
「我が主たちも、同じ顔をしていました……古来種エルフたちはみんな、力を振るうときに極上の喜びを得る……」
「力を振るう、喜び……」
おうむ返しにつぶやくミリエラ。
と、そのときだった。
『我らエルフは力に溺れ、そして──暴走しました』
突然、どこかから声が響く。
前方に別の景色が浮かび上がった。
塔のようなものが林立した都市。
中空には、鳥に似た形をした魔導機械がいくつも飛んでいる。
飛行機とでも呼べばいいのだろうか。
「これって……もしかして昔のエルフの集落?」
ミリエラのいる集落とはまるで違う。
おそらくは、超高度に発達した魔法文明によって作られた都市だ。
そこに、無数の閃光が弾ける。
爆発に次ぐ爆発。
都市があっという間に破壊されていく。
「これは──」
『我らエルフの暴走の果て。同族で殺し合い、やがてすべてが滅びました。生き残ったわずかな者が世界各地に散り、今の集落を作ったのです』
と、声が告げる。
ミリエラはハッと気づく。
この声は──魔導兵器を制作した古来種エルフのものではないか、と。
『すべては大きすぎる力が招いた災厄……あなたはなぜ力を求めるのですか? エルフの娘よ』
「あたしは──」
ミリエラは真剣な顔になり、言った。
「自分の可能性を試したいから。自分がどこまでいけるか知りたいから。だから強くなりたいの。確かめたい。誰よりも何よりも強くなれるのか、どうか」
『……なるほど。我らは力で何を為すかだけを考え、ぶつかりあい、やがて多くの集落が衰退していきました……ですが、あなたは違うのかもしれません。力自体を己の指標として求める──』
エルフの声はどこか優しげだった。
まるで、子どもを慈しむ親のような。
まるで、弟子を見守る師匠のような。
同時に、防御フィールドが軋む。
ミリエラの魔力が、魔導兵器の魔力を上回り、押しこんでいく。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
高めた魔力をすべて込め、ミリエラが最後まで押し切った。
直撃を受けた魔導兵器は四肢が吹き飛び、頭部が地面に転がった。
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