3 ミリエラのクエスト2
「ち、調子に乗らないでよ。今のはあたしが油断しただけなんだから」
バーバラは悔しげにミリエラをにらんだ。
「あ、感じわるーい」
「うるさいっ。あんたみたいに軽いノリで冒険者やられるとムカつくんだよ」
「えー、あたしだって真剣だよ~。強くなりたいもん」
ミリエラがぷうっと頬を膨らませる。
まあ、彼女は素の態度がちょっと子どもっぽいからな。
それが誤解を招くところもあるんだろう。
だけど──俺は知っている。
時間がある限り、ミリエラとは毎日のように特訓している。
そこで伝わってくる彼女の闘志を、気迫を。
強くなりたい──たったそれだけのシンプルな思いだが、だからこそミリエラは強い。
心が、強い。
そう感じるんだ。
今はまだ人間界のことにも慣れてないようだし、実力自体も荒削り。
だが、いずれは『蒼の魔女』のような魔法剣士に育つかもしれない。
そんな可能性を感じさせてくれる少女だ、ミリエラは。
「ミリエラは君たちを助けたんだ。礼くらいは言っておいたらどうだ?」
俺はやんわりとバーバラを諭す。
「うるさいっ。説教はごめんだね!」
彼女はふんと鼻を鳴らした。
鼻っ柱が強い娘だ。
まあ、これくらいの年代だと仕方がない面はあるが……。
「面白くない……ほら行くよ、あんたたち!」
仲間二人を促し、バーバラは肩をいからせて進んだ。
「むー……」
「まあ、冒険者をやっていれば、いろんな人間に出会うさ。気性が荒い者だって珍しくない。あまり気にするな」
俺はミリエラをなだめた。
「……はーい」
彼女はまだ不満げだった。
俺たちはバーバラのパーティと合流し、ふたたび先へ進む。
途中、何度かモンスターが現れたが、いずれもバーバラたちが討伐した。
さっきは油断して不覚を取っただけで、本来はなかなかの実力のようだ。
特にバーバラのナイフ捌きは見事だった。
将来的にはAランクも狙える器ではないだろうか。
こうして見ると、冒険者業界も楽しみな若手というのが、いくらでもいるんだと思える。
「嬉しそうですね、ジラルドさん」
ソフィアに話しかけられた。
「いや、若者たちの未来を思うと胸が躍るな、と思ったんだ」
「あら、ジラルドさんだってまだまだ現役──いえ、むしろ今が全盛期じゃないですか」
「まあ、君が側にいてくれれば、な」
そう、俺の力はソフィアからスキルを受けることを前提としている。
俺一人では、とても全盛期とは言えない。
「そ、側にいてって……え、やだ、それって……プロポーズ……?」
「???」
「ふふふふ……ジラルドさんが、私に……き、求婚……うふふふふ」
「お、おい、ソフィア?」
「突然ほわほわして……どうしたの、ソフィアさん」
俺とミリエラが同時に声をかける。
「はっ!?」
ソフィアはようやく我に返ったようだ。
「ち、違いますっ、今のは私が、その、ちょっと妄想しかけて……」
なぜか彼女の口の端からヨダレが垂れていた。
一体どうしたんだ、ソフィア……?