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6 最強剣士、降臨

「スキル──発動!」


 ソフィアが叫んだ。


 青白い輝きが俺の全身を包みこむ。


 体中から炎が吹きあがるような感覚。

 圧倒的な、力の感覚。


 それを今こそ、全力で解き放つ!


「闘気解放──収束」


 俺の体にみなぎる闘気は黒い輝きとなって弾け、ふたたび俺の全身にまとわりついた。

 爆発的に膨れ上がった闘気は半物質と化し、甲冑となって俺の身を覆う。


 黒き剣帝。


 かつての二つ名の由来となった漆黒の鎧をまとった俺は、魔炎竜と向き合った。


「なんだ……!? たかが人間が──まさか、この我と戦う気ではあるまいな」


 魔炎竜は訝しむような声を発した。


 じろりと俺をにらむ目は、虫けらでも見るかのよう。


 竜にとって人間など下等な生き物でしかない。

 気にくわなければ、爪で引き割くなり、尾で叩き潰すなり、ブレスで吹き飛ばすなり──竜の自由だ。

 虫けら同然の存在だ。


 ただし、一部の例外をのぞいては。


「なんだ……お前の、プレッシャーは……!?」


 竜の巨体が震えだす。


 気づいたのだろう。

 俺が、その『例外』の側だということに。


 気づいたのだろう。

 自分が、狩られる立場に回っていることに。


「馬鹿な……ありえん……! 人間の限界を何段階も超えた力……お前は、何者……!?」

「ジラルド・スーザ」


 俺は剣を掲げた。

 その刀身や柄にも半物質化した闘気がまとわりつき、二回りほど巨大な剣と化している。


「今は……しがないロートル冒険者だ」

「我がブレスで燃え尽きよ!」


 俺が告げたとたん、竜が火炎のブレスを放った。


 いきなりの先制攻撃だ。

 吐き出された炎は、空中で無数の火球に分裂し、襲い掛かる。


「逃げ場はない! 終わりだ、人間よ!」


 勝ち誇ったように叫ぶ魔炎竜。


 俺は無造作に剣を一振りした。

 火球の一つを斬り散らす。


 二振り目。

 また一つ、切り散らす。


 さらに三振り、四振り、五振り──。


「何……!?」


 魔炎竜の笑みが凍りつく。


 十振り。

 二十振り。

 五十。

 百──。


 秒間、約三百。

 俺の斬撃は瞬く間にすべての火球を斬り散らした。


 冥皇封滅剣(めいおうふうめつけん)、五の型──【瞬刃(しゅんじん)】。


 対多数の敵や攻撃を迎撃するための高速剣技だ。


「ば、馬鹿な! すべての火球を迎撃しきっただと!?」

「俺を焼き尽くすには、数が二桁ほど足りないんじゃないか?」


 とん、と大剣を肩に担いで、言い放つ俺。


「おのれ……ならば、これで!」


 魔炎竜がふたたび炎のブレスを放つ。


 今度は無数の火球に分裂したりしない。

 一塊の火炎のまま迫ってくる。


「数ではなく威力で押そうということか。戦略としては悪くない」


 俺は大剣を振りかぶった。

 そして、振り下ろす。


 轟っ!


 生じた衝撃波が、風圧が、火炎のブレスを真ん中から断ち割った。


「数でも威力でも──どっちにしろ無駄だな。俺にドラゴンブレスは通じない」

「なんという剣圧……!」

「悪いが時間がない。そろそろ決めさせてもらうぞ」


 俺は軽く地面を蹴った。


 一度の跳躍で、竜の頭上まで飛び上がる。

 湧き上がる闘気は単に武器の威力を増すだけでなく、俺自身の身体能力も極限まで強化、増幅してくれる。


 闘気を自在に操る冥皇封滅剣の極意だった。

 数十メートル上空で俺は剣を掲げる。


「じゃあな、魔炎竜」

 俺の斬撃が黒い竜に似た軌跡を描く。


 一閃──。

 竜の巨体はあっけないほど簡単に両断された。


 冥皇封滅剣(めいおうふうめつけん)、一の型──【火龍(かりゅう)】。

 その一撃は、山をも断つ。


 俺がもっとも得意とする剣技である。


 威力は、二十年以上前と比べてもまったく衰えていない。

 むしろ、その後の剣技の研鑽が加わり、あのころよりも威力が増しているようにさえ見えた。


 そう、俺の全盛期はまさに今なのかもしれない。




「ま、ま、ま、魔炎竜を一撃で──マジか」


 ロイが呆然とした顔で俺を見ていた。


「す、すっごーい! 素敵です!」

「おじさま、あたし感激しました!」

「あたしもです! こんなに強い冒険者、初めて見ましたぁ」


 三人の女冒険者が俺にすり寄ってきた。

 ……態度が豹変しすぎだろう。


「ふうっ」


 俺は高めていた闘気をゆっくりと鎮める。

 全身を覆っていた甲冑が解除され、剣に宿っていた闘気も弾け散る。


「ありがとう、ソフィア。君のスキルのおかげで無事に討伐できた」

「いえ、ジラルドさんの実力です」


 ソフィアがにっこりとほほ笑む。


「……あら?」


 と、訝しむように首をかしげた。


「どうした、ソフィア」

「いえ、前よりもスキルの効果時間が伸びています。少しだけですが……」

「効果時間が……?」

「はい。本来なら10分で効果が終わるはずなのですが……」


 ソフィアは懐中時計を見て、ふたたび首をかしげた。


「ジラルドさんの体に、まだスキルの光が残っているでしょう?」

「光?」


 言われてみれば、俺の体には淡い輝きがまとわりついていた。

 数分して、それも消える。


「13分ほど……ですね。やっぱり効果時間が変わっています」

「どういうことだ?」

「スキルは熟練度によって成長することもありますので……それが理由かもしれません」


 まあ、なんにせよ効果時間が伸びるのはありがたい。


「とりあえずはクエスト完了だな。竜の素材を取って、それから報酬を受けに行こう」


 ──こうして、俺の『癒しの盾』での初クエストは無事に終わった。


    ※


 そこは、荘厳な神殿だった。

 内部は闇で満たされ、まったく光が差さない。


「このすさまじい闘気は──まさか、奴か」


 神殿の最奥で声が響く。


 声の主は、黄金の甲冑をまとった三面六臂の異形だった。


 名は──邪神シャルムロドムス。


「黒き剣帝……! 人間でありながら、この私に──邪神シャルムロドムスに傷を負わせた、不遜極まりない男……!」


 二十年以上経った今でも、昨日のことのように思い出せる。


 闘気が物質化した漆黒の鎧をまとい、人間の限界を何段階も超えた信じられない戦闘能力で自分と渡り合った、あの剣士のことを。


 だが、今では彼も四十代半ばのはず。

 とっくに衰えたものかと思っていたが──。


 人間界からはるかに離れた時空に位置するこの邪神殿にまで、闘気の気配が届くとは。


「厄介だな……」


 邪神がうめく。


「しょせんは人間でありましょう? 我が神よ、どうか私にお命じくださいませ。その者を始末せよ、と」


 闇の中に、光が灯る。


「……ふむ。ならば、第二階位の使徒ガイエルよ、行ってまいれ」


 邪神が告げた。


「かつての大戦で受けた傷も大方は癒えた。あと少しだ……ふたたび我が邪神軍は人間界に侵攻する。その障壁になりそうなものは、取り除いておかねばなるまい」


 すでに何度も使徒を偵察に向かわせ、かつての人間界に比べて今は戦士のレベルも下がっていることが確認されている。


 人間どもの間で『五英雄』と呼ばれた五人の戦士たちは、かつての大戦で高位堕天使をも打ち倒し、この邪神シャルムロドムスとさえ五分に渡り合った。


 だが、今の人間界にそのレベルの猛者はいない。

 そしてかつての五英雄は、ある者は病で倒れ、ある者は行方知れず──。


 もはや自分を止められる戦士など、存在しない。

 ──はずだったのだが。


「来るべき侵攻のときに備え、万全の準備を整えねばならぬ。行け──」


 邪神が命じた。


    ※


 魔炎竜討伐から二日が過ぎた。

 今日はギルドランキング更新の日だ。


「やりました、ジラルドさん! 『癒しの盾』がEランク昇格です!」


 ソフィアが歓喜の声を上げた。

 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。


「よかったな、ソフィア」


 俺も肩の荷が下りた感じだ。


 とりあえず、これで連盟からの除名は免れたわけだ。

 補助金も増えるし、今までより多少は楽になるだろう。


「とはいえ、まだまだ前途多難……か」


 そう、昇格したといっても、Eランク。

 はっきり言って、ほぼ底辺である。


「確かに……メンバーもジラルドさん一人ですし」

「俺はもちろん全力を尽くすが、やはり所属冒険者を増やすことが急務だな」


 俺はソフィアとうなずき合った。


 まだまだ──やることがたくさんだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おおースキル成長で現役時代マシマシできるのか、そう考えれば長丁場もいけるかもなので、どんどんマシマシレベルアップしていきたいすね。
[一言] 確かに主人公強いけれどソフィアのスキルが無いと雑魚何だから、タグに出来るかわからないけれど他人の力を借りて主人公最強にしたら(笑)
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