10 超越の瞬間へ
巨大なカマキリ状の怪物──光想体の前に、俺はソフィアと並んで立っていた。
「時空の渦から……戻ってきた……!?」
ノアが驚いたような声を出す。
見た感じ、さっきの空間から戻ってくるまでの間、ほとんど時間は経っていないようだ。
おそらく、こっち側では数秒程度の出来事だったんだろう。
だけど、俺にとってはこの上なく濃密で、実りのある数秒だった。
あらためて確信できた。
あらためて実感できた。
俺が戦う理由と、これからも戦い続けていく志を。
だから──、
「ノア、これで決着といこう。君の相手は俺だ」
光想体に向かって歩み寄る。
全身から力がみなぎっていた。
体が、軽い。
闘気だけじゃない。
肉体自体も全盛期のころに戻っている……のか?
俺は刀身に自分の姿を映してみた。
四十四歳の俺の顔が映っている。
外見は変わっていない。
だが身体能力は、若い日のそれに戻っているのかもしれない。
長年の戦いや闘気の使用で蓄積されたダメージが完全に消えているのを感じる。
これなら──正真正銘、全力を出し切れるはずだ。
「確かにあなたは強い。だけど時間制限のある力など、怖くもなんともないわ」
光想体からノアの嘲笑が響いた。
「そうか」
俺は剣を構える。
全身から虹色の闘気が吹き上がった。
「じゃあ、時間稼ぎもできないほどの速度で──一瞬で終わらせてもらう」
俺の全身を虹色の闘気が覆った。
「ふん、さっきと同じ技? 確か体がついてこなかったんじゃなかったかしら、ロートルさん?」
「ああ、この技は体への負担が激しい。俺の肉体ではとても体現できない」
ノアの嘲笑を真っ向から受け止める俺。
「だから──『今』の俺の肉体なら耐えられるのさ」
そう、あのころと同じ耐久力を備えた全盛時の肉体ならば。
だんっ!
地面を踏み割る勢いで、俺は駆け出した。
速度特化──『雷光の闘気』の力で超加速。
「は、速い……!?」
戸惑いつつも、全速で後退するノア。
さらに探知特化──『疾風の闘気』の力で彼女の動きを見切る。
「逃がさない」
俺はさらに加速した。
彼女の動きを見切り、先読みし、剣を振るう。
攻撃特化──『紅蓮の闘気』のエネルギーを刀身に乗せて。
轟っ!
放たれた灼熱の斬撃波は、ノアの不可視の盾『翠天盾』に弾き散らされる。
「無駄よ。私の絶対防御神術は破れない」
「なら、封じさせてもらう」
俺は封印特化──『氷雪の闘気』の力を放った。
ノアの不可視の盾が歪み、濁っていく。
「私の『翠天盾』が!?」
「終わりだ、ノア」
無防備になった彼女に向かって、俺は剣を振り上げた。
黒、赤、紫、緑、青──五色の闘気が刀身に宿る。
振り下ろした大剣が、虹色の軌跡を描いて怪物を両断する──。
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