9 ジラルド・スーザ
気が付くと、俺は空の上を漂っていた。
「どこだ、ここは……?」
体がフワフワとして落ち着かない。
「ジラルドさん──」
すぐそばでソフィアの声がする。
彼女も俺と同じように、空の上に浮いていた。
「あ……」
先ほどの口づけを思い出し、急に気恥ずかしくなった。
それはソフィアも同じだったのか、彼女の顔が真っ赤になる。
「さ、先ほどは……すみませんでした……夢中で……」
「い、いや……」
年甲斐もなく照れてしまう俺。
まるで十代のころに戻ったような感覚だった。
そう、レフィアと恋人同士だったあのころのような──。
いや、彼女はレフィアじゃない、ソフィアだ。
レフィアの、娘なんだ。
気持ちを切り替えなければ。
そもそも俺はノアとの戦いの最中だったはずだ。
なのに、なぜこんな場所にいるんだ……?
あらためて周囲を見回す。
と、眼下──数十メートル下に、一人の少年の姿があった。
黒髪黒瞳、しなやかな長身。
まだ十代になったばかりだろうか。
一心不乱に巨大な剣を振っている。
どうやら修行中のようだった。
「まさか……」
見覚えのある姿に俺はハッとなる。
「どうしました、ジラルドさん?」
あれは──俺だ。
まだ十代のころの、剣の修行に明け暮れていた俺。
こうして見ると、動きに無駄が多いし、筋力もまだまだ足りていない。
「若いころのジラルドさん……?」
「ああ、これは過去の映像なのかもしれないな」
「ふふ……ジラルドさんが私より年下ですね」
ソフィアがクスリと微笑んだ。
それから俺と目が合い、慌てたように視線を逸らす。
まだ恥ずかしがっているらしい。
随分と初心なようだ。
「す、すみません……」
「いや、いいんだ──と、映像が切り替わったぞ」
今度は数年後だろうか。
黒い闘気のオーラをまとい、聖獣と戦っている。
さっきと比べると、格段に強くなっていた。
そして、そのそばには数人の仲間たちがいる。
騎士や魔法使い、そして──女僧侶。
「レフィア……!?」
冒険者仲間だった若き日のレフィアと、俺。
いや、仲間というだけじゃない。
俺と彼女は──。
思わず隣にいるソフィアを見つめる。
「ジラルドさんと母さんですね……冒険者として一緒に戦っていたんですね、ふふ」
微笑ましそうに見つめるソフィア。
「ま、まあ、そうだな……」
俺の方は歯切れの悪い返事をするしかない。
このまま、俺の人生をたどるような映像が続くと、次は──。
俺とレフィアが抱き合っている映像になった。
「……母とジラルドさん、随分と親しかったのですね」
ソフィアがつぶやいた。
表情が妙に険しくなっていた。
「い、いや、その、昔の話で……」
思わずたじろぐ俺。
「全然知りませんでした……へえ」
ソフィアの瞳が冷たい。
俺の方は背中からぬるい汗が伝っていた。
正直、堕天使との戦闘なんかよりよほど緊張していた。
が、ほどなくして映像が切り替わった。
助かった……と安堵する。
今度は、ガウディオーラやミーシャたちとの出会い。
その後は戦いに次ぐ戦いだった。
本格化する邪神軍の侵攻。
世界中の軍や冒険者たちが手を携え、それに立ち向かう。
そして──五大英雄として、邪神や高位の堕天使と立ち向かった最後の戦い。
訪れた平和。
その後……戦いのダメージの蓄積や加齢でどんどんと衰え、弱体化していく俺。
それでも、なお剣を振るい続け──。
現在に、戻ってきた。
こうして半生を振り返ると、あらためてこみ上げてくるものがある。
「俺は、ずっと剣を振り続けてきたんだな……」
冒険者として。
そして、邪神軍に立ち向かう剣士として。
『黒き剣帝』として。
人々を守りたいという一心で──ずっと戦ってきた。
「私も実感しました。このスキルの力を。意味を。そして──使い方を」
ソフィアが告げる。
「時空間を探り、その人物に最適の『力』の記録を見つけ出す。そして、それを『投射』する──」
「ソフィア……?」
「過去の映像を見ることで、より具体的に『力』の記録をイメージすることができます。今まで以上に鮮明に、ジラルドさんの全盛期の力を再現し、与えられます」
ソフィアの顔が近づいてきた。
「さあ、受け取ってください。ここまで見てきた過去の記録を──それを再現した『力』を、今あなたの下に──」
彼女が俺の手を取り、そこから温かな光があふれていく──。
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