5 光想体
「君の負けだ、ノア」
俺は闘気でコーティングした大剣を構えて言い放った。
すでに大勢は決した。
ノアにとって時空干渉神術による再生は戦術の要だろう。
それを崩した今、俺の勝利は九割がた揺るがない。
とはいえ、相手は第一階位の堕天使──邪神に準ずる存在である。
油断するわけにはいかない。
確実に追い詰め、始末する──。
「私が……負ける……?」
ノアは呆然とつぶやいた。
「一度ならず、二度も……人間に後れを取る……馬鹿な」
「観念しろ」
俺は大剣を振りかぶり、もう何度目かも分からない斬撃をノアに見舞う。
──その直前。
「そんなことが……あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
絶叫とともに、ノアが剣を掲げた。
聖武具フラガラッハが、異様な輝きを放つ。
「これは──?」
俺はとっさに大きく跳び下がる。
「時空干渉術を全解除! 剣に込められた邪神様の力を全解放!」
ノアが絶叫した。
「そして、余剰聖力をすべて『光想体』の起動エネルギーに!」
輝きがさらに光度を増す。
もはや目を開けていられないほどまぶしい。
そして──。
「我が力、我が魂のすべてを今ここに解放する──」
謳うようなノアの言葉とともに、『それ』は出現した。
全長は50メートルを超えているだろうか。
青い装甲に覆われたカマキリ、といった姿をしている。
「な、なんだ、これは──」
「光想体──私たち堕天使の、真の姿よ」
ノアが厳かに告げた。
「真の姿だと?」
邪神大戦では、そんなものの存在は見たことも聞いたこともない。
「この人間界で顕現するには膨大な聖力を消耗するからね。かつての大戦でこれを出せた堕天使はいない。だけど、私は違う」
ふわり、とノアの体が浮き上がる。
「かつての大戦から、私たちも進歩したのよ。邪神様のお力を借りることで、この形態を顕現させられる──さあ、私の真の体よ。今こそ一つになりましょう」
無数の光の粒子と化した彼女が、巨大なカマキリ状の怪物に吸いこまれる。
ヴ……ン。
怪物の双眸が青く輝いた。
次の瞬間、すさまじい衝撃波が吹き荒れた。
──否。
それは怪物……光想体が振り下ろしたカマの一撃である。
大気が裂け、大地が割れる。
「くっ……!」
闘気を通常モードから剛力特化の『大地の闘気』へと切り替える。
俺の全身から焦げ茶色のオーラが立ち上った。
そのまま力任せに剣を一閃。
放たれた斬撃波が、衝撃波を相殺した。
「今のを防ぐとはね……」
光想体からノアの感嘆の声が響く。
「いいわ。認めてあげる、『黒き剣帝』。確かにあなたは最強かもしれない。だけど──この光想体を出した以上、私の勝利は絶対に揺るがない。なぜなら」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ。
光想体の全身が鳴動する。
立ち上る、真紅のオーラ。
「あれは──」
俺は表情をこわばらせた。
ノアから感じる神気が、明らかに変化していた。
「今の私に対抗できる者など、存在しない」
傲然と告げるノア。
その声だけで大気が揺れ、空では雷鳴が轟く。
天候さえ変化させるほどの力──。
まるで世界全体を覆い尽くすほどの、強大な神気だった。
これほどの力を備えた存在とは、一度しか相対したことがない。
そう、かつての邪神大戦の折に……。
「ノアの力が、かつての邪神並みに高まっている……!」
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