2 黒き剣帝VS第一階位堕天使、ふたたび2
「前の戦いで私は押されていた。そこは認めてあげるわ。だからこそ──今回は最初から全力で行く」
ノアの笑みが消えた。
「来なさい、『黒天燐衣』!」
叫ぶのと同時に、彼女の体を黒い輝きが包みこんだ。
その光が弾けると、闇色の衣をまとった姿に変わっている。
桜色の髪を優美な冠が飾り、背からは六対の翼が伸びていた。
堕天使というには、あまりにも美しく神々しい姿。
「『黒天燐衣』──堕天使の能力を一時的に525%にアップさせる聖なる衣よ」
初めて聞く装備名だ。
少なくとも、かつての大戦で戦った第一階位堕天使たちは、そんな衣装をまとっていなかった。
ここ三十年近くで、邪神軍の戦術も進歩した……ということか。
「単純に考えれば、今までの五倍以上に強くなったということか……」
うなる俺。
「もちろん神術の力も今までとは比べ物にならないわよ! 『風咆弾』!」
風圧の弾丸が俺を襲った。
俺は大剣を腰だめに構え、通常闘気から攻撃力特化の『紅蓮の闘気』へと切り替えた。
一閃。
放たれた斬撃は赤い衝撃波を伴い、堕天使の風圧弾を弾き散らす。
「くっ……!?」
「力が上がったところで、無駄だったらしいな」
俺は平然と告げた。
「風同士の対決では俺に分があるようだな」
「人間が!」
ノアが吐き捨てた。
「飛び道具が駄目なら、接近戦で仕留めるまでよ」
輝く長剣──聖武具フラガラッハを手に、挑みかかるノア。
「斬り刻んであげる!」
すさまじいスピードの斬撃が繰り出された。
なるほど、速いな。
以前の戦いよりも確実に。
だが──、
「パワーやスピードは上がっても技術はそのままだ」
嵐のような斬撃を、俺は捌いていく。
「な、なぜ……!? 身体能力は私が上回っているはず──」
「君の剣術は単調なんだ。力任せの渾身の一撃を叩きこむ──突き詰めれば、それだけだ」
彼女の攻撃を受けながら、解説する俺。
「だから読みやすい。たとえ君の方がパワーやスピードで上回っていようと、攻撃してくるタイミングも場所もすべて丸わかりなら、簡単に防げる」
俺はまた彼女の斬撃を防ぐと、反撃の剣を繰り出した。
「くっ……!?」
ノアのまとった漆黒の衣を切り裂く。
「お、おのれ……」
俺はさらに踏みこみ、追撃を見舞う。
「きゃあっ……」
手にした剣──フラガラッハをはじき落され、ノアは大きく後退した。
「馬鹿な、この私が……手も足も出ない……!?」
「数千年にわたって伝承されてきた古流剣術『冥皇封滅剣』を──舐めるな」
俺は闘気でコーティングされた大剣を振りかぶる。
「さあ、幕引きだ」
黒から赤に変化した闘気を刀身に込めて振り下ろす。
冥皇封滅剣、一の型・極──『紅帝火龍』。
放たれた斬撃波は、さながら紅蓮の龍。
直撃すれば山をも両断する俺の必殺奥義だ。
「あなたこそ──第一階位堕天使を舐めないでよね」
ノアの瞳が妖しく輝く。
直後、俺の放った斬撃波は彼女の前方で弾け散った。
「何……!?」
「絶対防御神術──『翠天盾』」
静かに告げるノア。
不可視の、エネルギーの盾か。
「『衣』で能力を引き上げ、『盾』であらゆる攻撃をかき消す。このノアこそが最強よ!」
ふたたび打ちかかってくるノア。
なるほど、簡単にはいかないようだ。
「だが──最後に勝つのは、俺だ」
俺はふたたび闘気を基本形態の黒色に戻すと、ノアに相対した。