9 時空干渉術攻略作戦
「まずおさらいだ。堕天使ノアは、自分の神術のことを『オートで発動する局所的時空干渉』だと言っていた」
俺はソフィア、ミーシャ、ブイドーラを見回し、言った。
「前の戦いで、俺は奴を十回以上殺した。そのたびに時間が戻り、まったく同じ状態で復活……その繰り返しで奴を殺しきることはできなかった」
「殺すたびに元に戻るなら、倒しようがありませんね……」
と、ソフィア。
「あ、でも神術を連続で行うにも限界があるかもしれません」
「いや、奴は『時間を巻き戻しての復活』には回数制限がないと言っていた」
俺は首を振った。
「むろん、ノアのハッタリという可能性もある。だが、もしも無制限に復活できるとしたら──事実上、奴を倒す方法は存在しないかもしれない」
「ノアの言葉を正しいと仮定して、正面からの力押しでは無理だね」
ミーシャが言った。
「彼女を倒すためには、別のアプローチが必要だと思う」
「別のアプローチ……?」
「術に術、時空干渉には時空干渉──ソフィアの力が重要になるねぇ」
と、ブイドーラが説明を引き継ぐ。
「私の、力……」
つぶやくソフィア。
「ソフィアのスキルがノアの神術に影響を与えられる、っていうのか?」
「可能性としては、ありうるね」
ブイドーラが言った。
「そのために重要なのは、まずソフィアとあんたの関係性が深まることだ。娶るというのは冗談だが……もっと心を通わせる努力はしたほうがいいかもしれないねぇ。試しに──そうさね、手でもつないでみたらどうだい?」
「なぜ、そうなる?」
「手くらいいいじゃろ」
「俺はいいが、ソフィアが──」
「わ、私も構いません!」
ソフィアが身を乗り出した。
妙に息が荒い。
頬も赤らんでいた。
どうしたんだ、ソフィア……?
「微笑ましいねぇ」
ブイドーラは目を細めた。
「話を戻そうか。ノアの攻略法の続きだ」
「ああ、頼む」
「私とジラルドさんが手を……手を、つないで……」
ソフィアはまだ赤い顔でぶつぶつとつぶやいていた。
「そ、その話はいったん置いておいてもいいんじゃないか、ソフィア?」
「手を、つないで……っ」
「……ソフィア?」
「はっ!? す、すみません……っ」
さすがに少し心配になって声をかけると、ソフィアは弾かれたように顔を上げた。
ただし、その頬は赤いままだ。
「いい年して、あいかわらず鈍感なんだから」
ミーシャがため息をついていた。
「微笑ましいねぇ」
ブイドーラがまた同じセリフを言った。
「……話を戻してくれ」
俺が促す。
「ああ、ノアの時空干渉術への対策だね。これは不確定要素が大きいんだが……ソフィアがあんたに対して『一時的の闘気操作能力を全盛期に戻す』効果を発揮するように、堕天使に対して時空回帰能力を妨げるようなことができるかもしれない」
「だが、彼女の力は対象への『想い』がトリガーになるんだろう? つまりソフィアがノアに対して強い想いを抱かないかぎり、時空干渉効果は出ないんじゃないか?」
「いや、そうとも限らない」
意見を告げたのはミーシャだった。
「考えようによっては──」
「出てきなさい、『黒き剣帝』!」
彼女の言葉を打ち消すように、突然空中から声が響いた。
「なんだ……!?」
俺たちは研究所から出た。
上空数十メートルのところに、人影が見える。
「あいつは──」
俺はうめいた。
第一階位堕天使ノア。
先日、俺と戦って敗走した敵だ。
敗走といっても、その実力は決して侮れるものではなかった。
単純な戦闘能力なら俺の方が上かもしれない。
だが、奴にはオート発動する局地的時空干渉術がある。
なんとか糸口を見つけようと、時空干渉系のスキルを持つソフィアの能力を解析していたわけだが──。
その話がまとまらないうちに襲来するとは。
「戦うしか、ないか」
俺はソフィアに視線を向けた。
「……ええ、存分に」
こくん、とうなずくソフィア。
すでに先ほどまでの動揺は消えているようだ。
まだ、少し頬が赤いが。
「さあ──再戦といこう」
次回から第6章「黒き剣帝の帰還」になります。第一部完的な感じです(完結ではありません)。
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