8 スキル解析2
ソフィアのスキル解析は三日に及んだ。
彼女とブイドーラが解析機を使って、数時間にわたってスキルを調べ、それから休息。
それをここ三日ほど繰り返している。
「スキルの解析というのは時間がかかるんだな……」
「ええ、特に時空干渉系はね」
今もソフィアはブイドーラとともにスキル解析中で、俺はひたすら待っていた。
隣にはミーシャがいる。
彼女も、この里でいろいろとやることがあるのだが、時間が空けばこうして付き添ってくれる。
先日の告白じみたやり取りを思い返すと、少し気まずさもあるのだが……。
とはいえ、俺も彼女も大人だ。
今は堕天使ノアとの再戦に備えることが急務。
かつての感傷はいったん脇に追いやり、それぞれの役割を果たすだけの冷静さは当然持ち合わせている。
「そもそも……スキルってなんなんだ?」
俺は横道に逸れそうになった思考を本題に戻した。
もちろん、その概要は知っている。
スキル──異能とも称されるそれは、広義の『特殊能力』だ。
生まれたときから備わっていることもあれば、ある日突然目覚めることもある。
スキルの種類も千差万別。
格闘能力を向上させるものもあれば、まるで魔法のような力を発揮するものもある。
何かを生み出したり、変化させたり、その他さまざまな特殊効果がある。
それらの異能を総称して『スキル』と呼んでいた。
「んー……それを探求するのがここの役割ね。そして私の仕事でもある」
と、ミーシャ。
「『原初の神』が古代人に与えた能力の名残、という説が今のところはもっとも有力かな」
「神が、人間に……」
「なぜスキルを持つ者と持たない者がいるのか? 持たない者が突然スキルに目覚めるケースの原因は? スキルを持たない人間も潜在的には素質を秘めているのか? 分からないことだらけだね」
ミーシャが苦笑した。
「だからこそ、この里で日夜研究がおこなわれているわけだけれど」
「君は昔から邪神軍との戦いの合間に、スキルのことを調べていたな」
「スキルを調べることは、それを与えた『原初の神』を知ることにつながるからね。最初は僧侶として、より深く神を知りたいという気持ちから……だけど、途中からは純粋な探求心に変わっていった感じだね」
と、ミーシャ。
「だから、この仕事は私の性に合ってるの」
「そうか……」
がちゃり。
俺たちの前方で扉が開いた。
「スキルの解析が終わったみたいだね。行こう、ジラルド」
「ああ」
ミーシャに促され、俺は彼女とともに部屋に入った。
部屋の中には、剣を突き立てたような形のモニュメント──スキル解析機がある。
先ほどまで稼働していたのか、剣でいえば刀身にあたる部分が明滅していた。
そして、その側にソフィアとブイドーラが立っている。
「結論から言うと、ソフィアのスキルには二段階の効果がある」
ブイドーラが言った。
「スキル【体調回復(特効)】──第一段階の効果は、その名の通り対象の体調を回復させることさ。体力や精神力といったステータスが70%から100%近くまで回復する」
「私はそれが自分のスキル効果のすべてだと思っていました」
と、ソフィア。
「ですが解析機を使い、本来の効果を見つけることができたんです」
「本来の効果……」
「それが第二段階さ」
俺のつぶやきにブイドーラが答えた。
「時間を操作し、対象の能力を全盛期に戻す。肉体や精神、記憶などはそのままで、『能力』のみに局地的な時空干渉を行うのさ」
「能力だけを──」
「そして、その効果を発現させるトリガーは」
ブイドーラがニヤリと笑う。
「対象に対して術者が精神的に惹きつけられること。例えば、ソフィアがあんたに惚れたり、ね」
「ち、ちょっと、ブイドーラさん!?」
ソフィアが悲鳴を上げた。
彼女が俺に惚れる?
さすがにそれはない。
そもそも彼女が初めて俺にスキルを使ったとき、俺たちは出会ったばかりだったんだ。
いくらなんでも、こんなオッサンに若い彼女が一目ぼれする可能性は皆無だろう。
「ふひひ、まあ惚れるってのは言い過ぎというか、冗談半分さ。ただソフィアがあんたに何か惹かれるものがあったのは確かだろう」
ブイドーラは妙に嬉しそうだ。
「まあ、単純に想像するなら──彼女は早くに父親を亡くしているようだから、あんたに父性を求めてしまったのかもね」
……なるほど、彼女が俺に一目ぼれをした、なんて発想よりはまだ納得できるな。
「そして、この第二段階の効果は、術者が対象への『想い』を深めるほどに強くなるみたいだね。つまりソフィアの心の中であんたの存在が重要度を増すほどに、効果時間も長くなる」
「俺が……」
そういえば、と思い出す。
以前に、一度スキルの効果が切れた後、ふたたびその効果が復活したことがあった。
もしかしたら、あれは──ソフィアの俺に対する気持ちが、なんらかの高まりを見せた結果なんだろうか。
「ふふ、あんたがソフィアを妻にでも娶れば、飛躍的に効果時間が上がるかもしれないねぇ」
「何を言っている」
さすがに苦笑する。
俺とソフィアじゃ親子ほども年齢が離れているっていうのに。
そもそも彼女は、俺のかつての恋人の娘だ。
そんな対象にはならないし、してはいけないだろう。
「そうかい? 彼女の方はまんざらでも──」
「ブイドーラさん、や、やめてください……もうっ」
ソフィアが恥ずかしそうに頬を染めた。
「まあ、スキルに関しては分かった。で、それを踏まえて」
俺は話を本題に戻した。
「堕天使ノアの攻略方法を練るとしよう」