7 新世代の戦い
ヴェルナの目の前で、すさまじい魔法戦闘が繰り広げられていた。
「『炎の刃』! 『雷撃弾』! 『風竜弾』!」
リーネが矢継ぎ早に攻撃呪文を放つ。
その一発一発が中級以上だ。
一か所に集めれば、城でも吹き飛ばせるレベルの威力があるだろう。
たった一人の魔法使いがこれほどまでの攻撃力を持っているとは──。
あらためて、戦慄する。
リーネの能力は底が知れない、と。
そして、そんな彼女をあっさりと抑えこんだ『黒き剣帝』ジラルドの戦闘能力も……。
「無駄よ! 無駄無駄っ!」
が、ノアもさすがに第一階位堕天使だけのことはある。
前後左右にクリスタルの板のような障壁を生み出し、リーネの連打を防ぎきった。
「さすがに硬いですわね……」
うなるリーネ。
「その程度の火力を何万、いえ何億撃とうと、私の防御は突き破れない」
「ならば──火力を上げるまでですわ!」
魔法使いの少女は、杖を大きく掲げた。
その先端部がまばゆい光を放つ。
「魔力全解放──極大収束!」
すさまじい魔力がそこに集中していく。
「全力の一撃、というわけね。じゃあ、私もそれ相応の神術で相手をするわ」
ノアが障壁を消し去り、両手を胸の前で合わせた。
神に祈るような仕草だ。
「最大級火炎魔法──『紅蓮爆導』!」
リーネが超巨大な火球を生み出し、放つ。
その発動には、規格外の魔力を必要とする大火力広範囲殲滅呪文。
だが、いかに最大級の火炎魔法といえど、第一階位堕天使に通用するのだろうか──。
そんなヴェルナの不安を読み取ったかのように、リーネがこちらを見た。
彼女の両目は自信に満ちて輝いていた。
「最大級火炎魔法──『紅蓮爆導』!」
「二連発!?」
驚愕の声を上げるヴェルナ。
二つの火球は空中で一つに交じり合い、より巨大な火球に──いや、鳥のような形へと変化し、ノアに向かっていく。
「なっ……!? 人間が──人間ごときが、ここまでの呪文を……!」
さすがのノアも呆然とした様子だ。
「最大級魔法を二つ同時に放って融合。その威力は極限をも超える──二日前にようやく完成した術ですわ」
リーネが笑う。
自信に満ちた笑みだ。
「さあ、消え去りなさい! 堕天使!」
不死鳥を思わせる炎の鳥が、ノアの体を包みこむ──。
「絶対防御神術──『翠天盾』」
静かな声とともに、炎の鳥が消え去った。
「えっ……!?」
そして、ノアの姿が変化する。
闇の色をした衣をまとい、背からは六対の翼。
桜色の髪を飾る優美な冠。
それは堕天使というよりは、神のような神々しさを放っていた。
「そんな!? 今のは、最大級の攻撃呪文を掛け合わせた究極の呪文──それを無効化するなんて……!?」
「この私に『黒天燐衣』をまとわせたことは評価に値するわ」
ノアの表情が変わっていた。
先ほどまでの泰然とした余裕がない。
張りつめたような美貌に浮かんでいるのは、明らかな怒気。
「堕天使の能力を一時的に525%アップさせる聖なる衣──本来これは、人間界を攻め落とした後──我が邪神軍が『原初の神』に決戦を挑む際に使うはずだった姿。それを人間ごときに発現させられるとは……!」
ノアが、一歩踏み出す。
「ぐっ!?」
ただそれだけで大気が吹き荒れ、小規模の竜巻が発生した。
リーネも、そしてヴェルナたちもまとめて吹き飛ばされる。
轟音。
背後のギルド本部も一撃で崩壊した。
さらにノアが踏み出す。
衝撃波が走り、町の建物が次々に砕かれていく。
「や、やめて──」
思わず悲鳴を上げた。
「ふん、この姿を解放すると力のコントロールが上手くいかない……やりすぎてしまいそうね」
ノアが鼻を鳴らす。
殺される──。
ヴェルナは一瞬にして悟った。
いくらリーネが規格外の天才とはいえ、今のノアには太刀打ちできない。
できるはずがない。
戦闘能力の次元が、違いすぎる──。
「まだですわ……!」
それでもなお、リーネは──英雄の孫は諦めていないようだ。
杖を手に、弱々しく立ち上がる。
すでに先ほどの最大呪文二連発で、魔力は底をついているだろう。
だが、彼女の闘志は折れない。
衰えない。
くじけない──。
「ふん、人間ごときと馬鹿にしてきましたが、あなただけは少しマシなようね」
ノアが目を細める。
「大した闘志よ……ん?」
言いかけて、ハッと顔を上げた。
何かを探すように周囲を見回す。
「この気配は時空干渉……!? 干渉波が急激に高まっている──」
彼女の言葉の意味は、ヴェルナにはよく分からなかった。
「確か『黒き剣帝』と戦ったときにも、同じ波長の干渉波を感じた……! この気配の下に『黒き剣帝』がいる──」
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