6 降臨、そして真の戦いの始まり
やはり、自分たちとは『持っているもの』が違うのだろうか。
リーネのすさまじい魔法の威力を目にして、ヴェルナは半ば呆然、半ば興奮を感じていた。
彼女が、まだまだ粗削りであることは否めない。
魔法使いとしても、人としても。
だが、リーネが成長していった先に──。
Aランク冒険者である自分をはるかに超え、やがては英雄と呼ばれる存在になるのではないだろうか。
ヴェルナは、そんな想像に胸を躍らせてしまう。
「へえ、人間の中にもそれなりの魔力を持つものがいるんだね。素質だけなら高位魔族並じゃないかな?」
突然の声に、ヴェルナはハッと前方を見据える。
一瞬前までなんの気配もなかったそこに、一人の少女がたたずんでいる。
輝く翼を備えた、美しい少女。
中性的な容姿に、長く伸ばした桜色の髪。
「あなたは……!?」
ヴェルナは身をこわばらせた。
一見して、可憐な少女である。
だがその雰囲気は、人間とは異質なそれだった。
「堕天使……!」
それも、かなり上位の。
もしかしたら、一番上の──。
「まっすぐに『黒き剣帝』を殺そうと思ったのに、かなり転移座標がずれてしまったみたいね」
少女がため息をつく。
「まあ、いいわ。景気づけにあなたたちから殺してあげる。その格好は、彼と同じ『冒険者』とやらなんでしょう?」
「堕天使──」
「今の時代の冒険者の強さをじっくり見てあげる。あのころと比べてどの程度弱体化したのか──この第一階位堕天使ノアが、ね!」
少女──ノアが、にいっ、と笑った。
「弱体化? 聞き捨てなりませんわね」
リーネが憤然とした様子で前に出た。
「邪神大戦のころに比べて、冒険者の全体的なレベルが下がっているという話は聞いたことがありますわ。だけど、一部の例外が存在することもお忘れなく」
「あなたがその例外だと?」
「わたくしはリーネ・ガウディオーラ。いずれ『白の賢者』の二つ名を継ぎ、世界最強の魔法使いになる女よ。覚えておきなさい!」
杖を手に、大見得を切るリーネ。
「『白の賢者』……」
堕天使は興味をひかれたように目を開いた。
「なるほど、あの戦いの英雄の一人。その名は彼の末裔かしら?」
「孫ですわ」
「ならば、彼の素質と血統が受け継がれているのかどうか──見てあげましょうか」
「ええ、存分に!」
「待って、リーネ。あなた一人に戦わせはしないわ」
ヴェルナが加勢を申し出た。
いくらリーネに素質があろうと、第一階位堕天使と一人で戦うなど無茶を通り越して無謀である。
第一階位といえば、かつての五大英雄が総がかりでようやく退けられたレベルの相手だ。
「当然よ。ここは『守護の剣』の総力を結集しなきゃね」
「おう。俺たちもいるからな!」
さらに、ギルド本部から数人に戦士や魔法使いらが現れる。
ここに残っていたメンバーたちだ。
大半はクエストなどに行っていて不在のようだが……。
『守護の剣』のメンバーはほとんどがAやBランクの精鋭ぞろいである。
それが全部で六人。
たとえ第一階位堕天使といえど、一方的にやられることはない──。
「うう……ぐ……っ……」
ヴェルナは一瞬にして地面に這いつくばっていた。
相手の攻撃が、ほとんど何も見えなかった。
わずかに、彼女の指先が光ったような──そう思った次の瞬間には、すさまじいエネルギー波を叩きこまれていた。
防御も、回避も、何もできなかった。
自慢の双剣はあっさりとへし折られ、甲冑を砕かれ、全身に衝撃を受け──。
このざまである。
他のメンバーも似たような状態だった。
いずれもノアの攻撃──と思われる衝撃波を受け、地面に倒れている。
「馬鹿な……強い……強すぎるわ……!」
ヴェルナは戦慄する。
ノアの強さは、想像をはるかに超えていた。
これではあっさりと全滅させられる。
全員、殺される──。
「なるほど、確かに第一階位を名乗るだけのことはありますわね」
「リーネ……!?」
彼女だけは、無傷だ。
あのすさまじい威力の神術を、魔力の障壁で完全に防いだというのか──。