5 守護の剣の冒険者たち
モンスター討伐を終え、ヴェルナはリーネとともに冒険者ギルド『守護の剣』の本部に戻ってきた。
「素晴らしい活躍ぶりだったわよ、リーネ」
「『守護の剣』でのデビュー戦だったので、わたくしもテンションが上がっていましたの」
ヴェルナの言葉にリーネがにっこりとうなずく。
「これならBランクくらいまではあっという間に昇格するんじゃないかしら。あたしの階級にもすぐに到達しそうよ」
「ふふふ、今年の冒険者最優秀新人賞はいただきですわ」
あいかわらずリーネは自信に満ちあふれている。
とはいえ、自分より実力が下の者たちに対して、見下すような言動はなくなった。
ジラルドとの一件で心を入れ替えたのだろう。
もちろん、人の性根はそう簡単には変わらない。
だが、リーネには自らの過ちを認め、正していこうとする素直さが感じられた。
だからこそ、彼女がこのギルドに入りたいと言ってきたとき、すぐに認めたのだ。
「『ライトニングリザード』の群れをもう退治してきたのか!?」
「出かけてからまだ一時間も経ってないじゃない……すごい!」
「ヴェルナが強いのは知っているが、一人では短時間で全滅させることなんて無理だろ……」
「ええ、あたし一人ではもっと時間がかかったでしょうね。今回は彼女の活躍が大きかったのよ」
驚くギルドメンバーたちにヴェルナがにっこりと説明する。
「ふふふ、それほどでもありますわ。ふふふふふ……おーっほっほっほっ!」
胸を張ってふんぞり返るリーネ。
……もしかして、やっぱり心を入れ替えてないのでは?
ヴェルナが若干ジト目になって彼女を見る。
「はっ!?」
リーネは慌てたような顔で、
「ま、まあ、その……ヴェルナさんが的確に指示してくれましたし、わたくしだけではこうも鮮やかに討伐、とはいかなかったと思いますわ」
と、付け加えた。
少し前の彼女には決して見られなかった態度である。
まだまだ調子に乗りやすい性格はそのままだが、自分を省みることができるようになったきた。
それは大きな進歩であり成長だと思う。
どこか『手のかかる妹を見守る姉』のような心境で、ヴェルナは微笑む。
「ジラルドさんに負けて、だいぶ謙虚になったみたいね」
ぽん、とリーネの肩に手を置くヴェルナ。
「あの方は英雄の名にたがわぬ実力をお持ちですもの。もっと腕を上げて、いずれあの方の側に並べるほどの魔法使いになってみせますわ」
リーネは燃えているようだ。
「あの方の隣に……か」
それはヴェルナも同じ気持ちだった。
冒険者になったのも、剣士になったのも──すべては邪神大戦の英雄である『黒き剣帝』に憧れてのこと。
ジラルドは、ヴェルナにとってヒーローであり、この道を志した原点でもあった。
そして、同じギルドで何年も時を過ごしているうちに、その憧れはもっと具体的な慕情へと変化していった。
(……って、ジラルドさんから見たら、あたしなんて子どもよね)
はあ、とため息をつくヴェルナ。
「ヴェルナさん?」
リーネが怪訝そうにこちらを見ている。
「はっ!? べ、別になんでもないのよ! なんでもないからね!」
ヴェルナは思わず声を上ずらせた。
煌っ……!
突然、天空で強烈な輝きが弾けた。
続いて、雄たけびが大気を震わせる。
「あれは──」
ヴェルナはハッと空を見上げた。
雲間から輝く何かが下りてくる。
ゆっくりと降下し、町中に──ギルド本部の二十メートルほど前方に着地した。
純白の光をまとった四足獣。
外見は虎を思わせる。
その全身からは虹色の燐光が立ち上っていた。
「お、おい、なんだよ、あのモンスター……」
メンバーの一人がうめいた。
「聖獣よ」
ヴェルナが答える。
聖獣──邪神の眷属たる超常の力を秘めたモンスターである。
虎型の聖獣は、ずしん、と足音を立てながら、ゆっくりと近づいてきた。
二対の瞳は敵意に満ちている。
「話には聞いたことがあるけど、実際に戦うのは初めてね」
ヴェルナは緊張を押し殺して剣を構えた。
聖獣や堕天使の出現頻度は決して高くない。
しかも、その大半が人里離れた場所に現れる。
こんな町中に──それも、まるで冒険者ギルドを狙ったかのように表れるのは珍しいケースだ。
「わざわざ自分から死地に飛びこんできたわけね。Aランク冒険者の名にかけて──ここでお前を斬る!」
逃がせば、町の人たちや建物に大きな被害が出るだろう。
ここにいるメンバーで取り囲み、確実に始末しなくてはならない。
「リーネは下がっていて。ここはあたしやAランクのメンバーを中心に仕留めるわ!」
「つ、強い──」
ヴェルナは他のメンバーと連携し、虎型聖獣に立ち向かった。
だが、聖獣のパワーは想像以上だった。
おそらく、この聖獣は最強と言われる『戦王級』ではない。
強さで言えば、上から三番目の『破城級』くらいだろうか。
にもかかわらず、とてつもない強さだった。
ヴェルナが渾身の力で振り下ろした双剣が簡単にはじき返されてしまう。
逆にカウンターで繰り出された聖獣の爪が眼前に迫る──。
「弾けて消えなさい──『鳳雷覇導』!」
まばゆい稲妻が聖獣を弾き飛ばした。
無数の雷撃に全身を絡め取られ、爆発四散する聖獣。
「新入りとはいえ、わたくしだってここのメンバーですわ。ヴェルナさんたちだけにいい格好はさせません」
リーネが凛と言い放つ。
「す、すごい──」
ヴェルナは呆然と彼女を見つめた。
素質は感じていた。
天才かもしれないとも思っていた。
だが、リーネにはそんな言葉では計り知れない才能があるのかもしれない。
まさしく、末は『白の賢者』と呼ばれるほどに──。
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