4 告白
「な、なんだ、急に──」
俺は声を上ずらせた。
頬が、熱くなる。
まるで十代の少年のような初心な反応だ──などと、頭の片隅で考えてしまう。
とはいえ、さすがにミーシャからそんなセリフを聞くとは完全に予想外だった。
思わずうろたえるのも仕方がないことかもしれない。
「もう時効かな? 私ね、あのころ──君のことが好きだったのよ」
ミーシャが微笑む。
三十年近くの時が経っているのに、まるで当時のままのような可憐な笑顔だった。
俺だって、彼女のことを女性として意識していなかったわけじゃない。
ただ、当時の俺にはすでにレフィアという恋人がいた。
ミーシャのことは魅力的な女性だと思っていたが、それが恋愛感情にまで発展することはなかった。
努めて『戦友』として接してきたつもりだ。
それにミーシャの方は最初から俺のことを戦友だと思っているのだとばかり──。
「変わらないよね。あのころも、今も。女の気持ちにはとことん鈍感なの」
「そんなふうに言われるほど、俺はモテたわけじゃない」
「えー、ジラルドのことをいいって言ってる女の子、けっこういたんだよ?」
ミーシャがクスリと笑った。
「君は戦いのことばっかりだったし、レフィアさん一筋だったし、全然気づいてなかったんだろうけど」
「そ、そうなのか……」
「すぐ身近にいた私の気持ちにも気付いてなかったくらいだからね」
言って、ミーシャの笑みが苦笑に代わる。
「なんて、年甲斐もなく拗ねちゃった。私もけっこう未練がましいよね。この気持ちを伝えることは一生ないと思ってたのに、君に再会したらつい……」
「ミーシャ……?」
「あの堕天使と戦って──正直、殺されるかもしれない、って思ったのよね。私も年を取ったからかな……大戦のときみたいな絶対的な自信が持てなくなっちゃって」
ミーシャの横顔は寂しげだった。
「死ぬ前に、この想いを伝えたい……なんて、ね。えへへ、突然こんなこと言い出してごめんね、ジラルド。さっきの言葉は全部忘れて」
「ミーシャ……」
俺は小さく息をつき、
「いや、君の気持ちは嬉しく思う。ありがとう」
「……ちょっとは脈ありだったら、いいな」
「えっ」
「ううん、なんでもない……っ」
ポツリとつぶやいたミーシャは、すぐに慌てたような表情で首を振ったのだった。
※
その日は、Bランクモンスター『ライトニングリザード』の群れを討伐するクエストを受けていた。
「はああああああっ!」
ヴェルナが気合いとともに左右の剣を振り下ろす。
モンスターを一撃でX字に切り裂き、打ち倒した。
ヴェルナは、深紅の髪を長く伸ばした美しい少女剣士だ。
年若いながらも、その腕は確かで、Aランクの冒険者に認定されている。
以前に所属していた老舗の強豪ギルド『栄光の剣』でもエース格として迎えられていたほどだ。
実際、並の冒険者なら集団でなんとか対処できるクラスの『ライトニングリザード』を複数一度に倒せることが、彼女の卓越した剣技を示していた。
「ふん、Bランクモンスター程度、いくら集まってもあたしの敵じゃないわ!」
勝気に叫ぶヴェルナ。
「さあ、どんどん来なさい──」
言いつつ、側面から迫る別の『ライトニングリザード』を斬り伏せた。
が、まだまだ敵モンスターの数は多い。
今度は五体の『ライトニングリザード』が集まってきた。
「さすがに五体同時は厳しい──なんて言うと思った?」
ヴェルナが素早く飛び下がる。
同時に、
「上級火炎魔法──『烈火魔導咆』!」
後方に控えていた魔法使いの少女が、青い炎を放った。
Aランク以上の魔力があって初めて発動可能な、大火力呪文である。
効果範囲が狭いのが難点だが、モンスターがこれだけ一か所に集まってくれれば──、
ぐごおぉぉぉぉううんっ!
青い炎の渦は『ライトニングリザード』をまとめて焼き払った。
「いいタイミングね、リーネ」
ヴェルナが五体を引きつけ、そこに彼女が必殺の火炎呪文を叩きこむ。
打ち合わせ通りの見事な連携だった。
「ふふん、当然ですわ」
金髪縦ロールのあどけない少女は、自慢げに胸を張った。
リーネ・ガウディオーラ。
先日この『守護の剣』に加入した冒険者で、かつての英雄『白の賢者』の孫娘だ。
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