2 迫る決戦
「貴様あああああああああああああああああああああっ!」
ガリアヴィエルの怒りは頂点に達したようだ。
「聖武具召喚……!」
その手に光が弾けたかと思うと、巨大な斧槍が出現した。
彼専用の武具『グラーシーザ』である。
「へえ、戦うつもり?」
一方のノアは武具を召喚しない。
人間界に一定時間とどまっていたせいで、それなりのダメージを追っているが、ガリアヴィエル相手なら問題あるまい。
「武具も必要ない。素手で叩きのめしてあげる」
「愚弄するな!」
ガリアヴィエルが斧槍を振りかぶる。
その刃先がまばゆい燐光を放った。
「へえ……」
ノアが目を細めた。
さすがにすさまじい神気だ。
エネルギー量だけなら、決して侮ることはできない。
「といっても、私の敵じゃないけど」
「ぬかせ!」
ガリアヴィエルが斧槍を振り下ろす。
ノアは対抗するため、両手を掲げ──、
「──よさぬか」
重々しい声が二人の動きを止めた。
「かつての『六蓮華』筆頭が仲間討ちとは。何をやっておるか、ガリアヴィエル」
「は、ははっ……お恥ずかしいかぎりで」
ガリアヴィエルがかしこまる。
「あーあ、怒られちゃった」
くすりと笑うノア。
ガリアヴィエルは憎々しげに彼女をにらんだ。
「ノア、お前もだ」
邪神が今度はノアをたしなめる。
「人間界に行って消耗が激しいのだろう。無理をすれば消滅しかねんぞ」
「平気ですよ。ちょっと休んだら、また人間界に行ってきます」
ノアが微笑んだ。
「『黒き剣帝』の居場所は分かりました。すぐに始末してきますね」
「ノア……」
「人間ごときに手こずって逃げかえるという屈辱を晴らせないなら──消滅したほうがマシです、邪神様」
ノアが首を左右に振った。
可憐な少女然とした顔に険しい表情が浮かんでいる。
つぶらな瞳には激しい闘志の光があった。
「徹底して人間を見下し、邪神の眷属である誇りを貫く──その意気や、よし」
邪神が満足げにうなずく。
「ならば、ふたたび行くがよい。我が力の一部を授けよう。さすれば、活動時間も少しは伸びよう」
「邪神様、それは──」
「我の復活はその分、遠のく。だが汝が示した眷属の意地と誇り──それに報いたくなってな。さあ、持っていけ」
邪神の手から紫色の輝きが飛ぶ。
その輝きがノアの全身を包みこんだ。
「く……ああああああああああああああああああああああああああっ……」
絶叫。
同時に彼女の胸元からまばゆい光があふれた。
光は収束し、長剣の形を作り出す。
彼女専用の聖武具『フラガラッハ』だ。
「力だ……力があふれてくる……!」
その剣を手にしただけで、全身から熱い神気が湧き上がってくる。
剣自体になんらかの力が宿っているかのようだった。
「邪神や堕天使の力の源は『心』だ」
告げる邪神。
「限界まで消耗してもなお、人間に対する敵意と堕天使であることの矜持を燃やすお前になら──お前のその心なら、我が力を使いこなせよう。お前の剣に宿した我が力の欠片を、な」
「ありがとうございます、邪神様」
ノアは満足感たっぷりにその長剣を見下ろした。
彼女の新たな専用聖武具──『真フラガラッハ』というべきだろうか。
あの『黒き剣帝』が相手でも、これならいとも簡単に斬り伏せられそうだ。
「ただし、消耗しているのは事実だ。三日の休息を命じる」
邪神が静かに告げた。
「そんな、私はすぐにでも──」
「消耗した状態で振るえるほど、我が力を注いだ武具は甘くないぞ」
「……それは」
口ごもるノア。
確かに、この聖武具は強力な分、膨大な神気を消費するようだ。
今のノアでは存分に力を発揮する前に、力尽きるかもしれない。
「三日後、あらためて『黒き剣帝』の抹殺を命じる。その途上で多少人間界を破壊してもかまわん。存分に暴れるがいい」
「承知……しました」
悔しさを押し殺し、ノアはうなずいた。
早く回復させねば。
早く──この剣で世界中の人間どもを斬ってやる。
そんな衝動に駆られながら。
※
俺はミーシャやザインとともに第四研究所まで戻ってきた。
ミーシャは自分自身に回復魔法をかけ、なんとか動けるようになったが、大きなダメージを受けていることに変わりはない。
俺は意識を失ったままのザインを担ぎ、研究所内で医療スキルを持つ職員に引き渡した。
「ご無事で何よりです、ジラルドさん」
ソフィアがホッとした様子で出迎えてくれた。
「なんとか……な」
闘気技を連発した反動もあり、俺は疲労を隠せなかった。
スキルの効果が切れた後の脱力感が、いつもよりも大きい。
それだけノアが強敵だったということだ。
何度斬り殺しても即座に復活する第一階位堕天使。
奴を倒す術はいまだ見つかっていない。
再戦のときに備え、次は確実に倒さなければ──。
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