1 英雄と堕天使
──三十年前の記憶が、俺の脳裏をよぎっていた。
「滅びよ、人間ども! 我こそは邪神シャルムロドムス様の腹心にして、第一階位の堕天使! 『六蓮華』の筆頭、ガリアヴィエルである!」
俺たち五人の前に現れたのは、身長2メートルほどの巨漢だった。
頭頂部に輝く光輪や背から広がる五対の光翼。
堕天使──。
その中でも最強クラスである『第一階位』だった。
以前にもブルーティア王国で、俺たち『五大英雄』は第一階位の堕天使ハバーニャと戦ったことがある。
そのときは五人の連携もあって、なんとか倒せたわけだが──。
「こいつの神気は、ブルーティアで戦った奴と比べても桁が違う」
俺はうめいた。
「さすがにとんでもない神気をまとっておるのう」
隣でつぶやいたのは『蒼の魔女』の二つ名を持つエルフの魔法剣士アルジェラーナだ。
「わずかな動作だけでわかるよ。あいつは圧倒的な戦闘能力を持っている。今まで出会ったどんな堕天使よりも、圧倒的な」
美貌の僧侶戦士──『碧の聖拳』ミーシャが険しい表情になる。
「全員の力を合わせなければ、到底勝てませんよ」
『白の賢者』ガウディオーラが警告した。
「相手がどれだけ強かろうと関係ないよ。堕天使も聖獣も、そして邪神も──全部殺す」
殺気をみなぎらせているのは、『赤き竜騎士』ヴァイ。
「僕が、殺す」
「五大英雄とやら、我が同胞ハバーニャの仇を討たせてもらうぞ!」
ガリアヴィエルが長大な斧槍を振り上げる。
それが──戦いを告げる合図だった。
俺とミーシャが前衛を務め、中距離からはアルジェラーナが仕掛け、後衛にはガウディオーラが陣取る。
空中からはヴァイが卓越した槍技と騎乗する竜の火炎で猛攻撃を仕掛ける。
俺たち五人の基本フォーメーション。
対するガリアヴィエルは近距離では斧槍を縦横に振り回して、俺とミーシャの二人と真っ向から渡り合う。
中距離、遠距離からの飛び道具は、神術の連打で迎撃する。
戦いは三日三晩にわたり、熾烈を極めた。
ガリアヴィエルは、さすがに第一階位筆頭というだけあって手ごわかった。
だが、俺たちも激戦を潜り抜けて強くなっていた。
そして──、
「はあ、はあ、はあ……ば、馬鹿な……!」
死闘の中で俺が冥皇封滅剣の絶技に開眼し、ついにガリアヴィエルに大ダメージを与えたのだった。
逃げ去る堕天使を追いかける力は、俺たちには残されていなかった。
勝ったとはいえ、紙一重の勝利だ。
次にもう一度戦えば、敗北するのは俺たちかもしれない。
そんな戦慄を覚える猛者だった。
倒すことこそできなかったが、ガリアヴィエルを敗走させ、俺たちは第一階位筆頭を相手に勝利を収めた。
そしてこの一戦で、俺たち五人の名声はさらに高まったのだった──。
※
どこまでも続く漆黒の空間──。
邪神界。
邪神とその眷属が住まう異空間である。
「はあ、はあ、はあ……」
ノアは邪神界に戻るなり、その場に崩れ落ちた。
息が乱れ、心臓が破れそうなほど鼓動を速める。
「さすがに……消耗が激しいね……」
忌々しい封印のせいだ。
かつての大戦で、人間どもが『原初の神』の力を借りて敷いた封絶結界──。
そのせいで、邪神の眷属は地上に行くためには大きな制限を受ける。
「なんだ、その様は」
巨漢の堕天使が近づいてくる。
人間でいえば、四十代くらいの外見の男だった。
「弱体化した今の人間ども相手に、手傷を負ったか。情けない奴め」
「ガリアヴィエル……」
ノアが眉を寄せる。
「前の戦いで瀕死になった後、邪神様のお力でかろうじて生き永らえた情けない堕天使に言われたくないね」
「口の利き方に気をつけろ。この俺は『六蓮華』の筆頭ぞ」
「元筆頭でしょ。あまりにも弱くて降格させられたよね」
「愚弄するか、貴様!」
「愚弄? 違うよ。事実を言っただけ」
ノアが鼻を鳴らした。
「今のあなたは『六蓮華』の席次最下位。私は第二位。口の利き方に気を付けるのは、あなたのほうじゃない?」
「ぐぐぐぐぐぐぐ……」
歯ぎしりするガリアヴィエル。
それでも立ち向かってこないのは、こちらとの実力差を理解しているからだろう。
ノアとガリアヴィエルが戦えば、勝つのは彼女だと──。
「前の戦いでの席次に──栄光にすがってるから、そんなに弱いのよ」
ノアは嘲笑した。
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