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4 黒き剣帝、ふたたび

「もう一つ質問してもいいか?」


 気を取り直してたずねる。


 かつての恋人の死を聞かされても、思ったよりも気持ちを立て直せていた。

 目の前に、彼女の忘れ形見がいるからだろうか──。


「さっき、連盟の職員たちとやり合ったときに、俺の中から突然力が湧いてきた。まるで──そう、二十代の若かったころの力がよみがえったように」


 俺はソフィアを見つめる。


「その直前に君から青い光が飛んできたんだ。あれは、なんだ?」

「私の──固有(ユニーク)スキルですね」


 と、ソフィア。


 ユニークスキル。

 魔法とも神術とも違う、一種の異能である。


「【体調回復(特効)】といいます。一時的ですけど、体調がすごく良くなるんです」


 いくら『特効』がついているとはいえ、ただの【体調回復】であそこまでパワーアップできるものだろうか?


 まさか──。

 ふと、ある考えに至った。


「よかったら、もう一回かけてもらえないか?」

「実は、私のスキル効果は一日一回しか作用しないんです」


 ソフィアが首を振る。


「そうか……」

「あ、でも効果時間は10分くらいなんです。さっき使ったのは、たぶん5分程度なので、まだ使えるかもしれません」

「……じゃあ、ちょっとだけ付き合ってもらえないか」


 試してみたい。

 彼女のスキルの『本当の効果』が俺の想像通りだとしたら──。




 俺たちは町の外れまでやってきた。

 前方には小高い丘がある。


「やってくれ、ソフィア」

「では──スキル発動!」


 ソフィアの手から青白い光が飛び、俺の全身を包んだ。


「く……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 さっきと同じく、体中から力が吹きあがる。

 体の内側から炎が爆ぜるような感覚。


「──やってみるか。久しぶりに、『あれ』を」


 剣を、抜いた。

 さっきは人間が相手だったし、全力を出すことはしなかった。


「だけど、ここなら──」


 剣を掲げる。


 刀身に黒い炎がまとわりついた。

 正確には、炎のように見える強大な生体エネルギー。


『闘気』と呼ばれる力だ。

 漆黒のエネルギーをまとった剣を、俺はまっすぐに振り下ろした。




 ざぐううううううううううううううううぅぅっっ!




 大音響とともに、前方の丘が──真っ二つになった。


「ひ、ひえ……」


 ソフィアが短い悲鳴を上げて、その場にへたりこむ。


「撃てた……!」


 俺は驚き半分満足半分といった心地で、剣を見下ろす。


 冥皇封滅剣(めいおうふうめつけん)、一の型──【火龍(かりゅう)】。


 かつて俺が『黒き剣帝』と呼ばれていたときに、もっとも得意とした技。

 全力で放てば山をも断つ奥義。


 それを、全盛期そのままの力で撃つことができた。


「わ、私のスキルで、こんなに……!?」

「君のスキルは単に体調を全開にするわけじゃない」


 俺はニヤリと笑った。


 気持ちが高揚してくる。


 久しぶりだった。

 これほどまでに心が高ぶるのは。


 全身が自然と震える。

 血が沸き立つようだ。


 やっぱり、自分は根っからの剣士なんだと実感する。

 ギルドを追放され、すっかりネガティブになっていた気持ちが、一気に前向きになる。

 もう一度、あのころのように力を振るえるんだと思うと、全身が喜びに打ち震える。


「君のスキルは、対象になった者に全盛期の力を取り戻させる効果がある」


 ──若かりし頃、俺は『黒き剣帝』と呼ばれていた。

 冒険者ランクは、当時世界に七人しかいなかったSランク。

 さらに邪神軍との戦いでも、聖獣や堕天使を狩りまくり、いつしか五大英雄と呼ばれるようになっていた。


 もう二十年以上も前の話だ。


 あれから時は経ち、俺は年を取った。

 体は衰え、当時のような力はもう出せない。


 長年の戦いによる体の故障、痛み……。


 俺はすっかり弱くなっていた。

 今や冒険者ランクはCまで落ちている。


 そんな俺が、ソフィアのスキルによって全盛期の力を取り戻すことができた。


 厳密にいえば、肉体が若返るわけじゃないから、完全に全盛期の力じゃない。

 ただし、闘気を操る能力や闘気の総量に関しては、当時と全く同じである。


 だから全盛期に限りなく近い戦闘能力を発揮することができるだろう。


「……ソフィア、君のギルドは所属冒険者がいないんだったな」


 俺は彼女に向き直った。


「え? はい、そうですが──」

「俺を君のギルドに入れてくれないか」


 それは半ば衝動的な言葉だった。

 だが、口にしたとたんに気持ちが定まっていくのを感じた。


 若かりし日の圧倒的な力を取り戻した高揚感。

 レフィアの死を知った喪失感。


 それらが混じり合い、俺の心を揺さぶっていた。

 冒険者としてはピークを過ぎ、衰えるばかりだと思っていた俺が──。

 まだこれだけの力を発揮できるんだ。

 しかも、目の前にはレフィアの忘れ形見がいる。


 ならば、俺の力の使い道は──。


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 人を癒し、慈しむような笑み。


 ああ、そんな顔もレフィアによく似ている──。

 俺もつられて微笑んでいた。


 現状で1日に10分程度とはいえ、この力が『癒しの盾』を再建するための切り札になるかもしれない。

 いや、切り札にしてみせる。


 ──やってみるよ、レフィア。


 心の中で、今は天国にいるであろう彼女に呼びかけた。


 どうせ引退するつもりだったんだ。

 もう少しだけ冒険者を続けてから辞めても遅くはない。


『癒しの盾』を、ソフィアとともに立て直す。


 それを、俺の第二の人生にしよう。

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