9 決着、そして──
「ザイン、今助けるぞ」
俺はザインに突き刺さっている残りの剣鎖をすべて斬り散らした。
意識はないが、どうやら命に別状はなさそうだ。
安堵しつつ、彼を肩に担ぐ。
うおおおおおおおるるるるるるるるるうううううむ。
神操兵の内壁が突然振動した。
壁の表面が盛り上がったかと思うと、新たな剣鎖が無数に飛び出してくる。
侵入者撃退用の仕掛けか。
「──遅い」
俺は片手で剣を旋回させる。
今度はノーマル版の『瞬刃』である。
秒間、約三百。
無数の斬撃がすべての剣鎖を一瞬で斬り飛ばす。
攻撃がやんだ隙を見て、俺は床を蹴った。
神操兵の胸部から飛び降り、闘気を噴射して勢いを殺しながら数十メートル下に着地する。
「お帰り、ジラルド」
「ただいま、ミーシャ」
俺は下で待っていた彼女にニヤリと笑った。
ゆおおおおおおおおおおおおおおおおおおおむ。
神操兵が咆哮する。
怒りの雄たけびだろうか。
「後は奴を始末するだけだな」
ザインという『動力源』を失った今、もはや長時間の稼働や広範囲の破壊神術は使えないだろう。
「これで終わらせる──」
俺はザインを下ろし、両手で剣を振りかぶった。
高まる闘気が紫から元の黒に、そして今度は赤に変わる。
攻撃力に特化した『紅蓮の闘気』。
「砕けて、消えろ!」
振り下ろした剣から、炎の龍に似た斬撃波が放たれた。
冥皇封滅剣、一の型・極──『紅帝火龍』。
弾ける、真紅の爆光。
さっきの一撃ですでに耐久力の大半を失っていた神操兵はなすすべもない。
爆光が晴れると、そこには神操兵の残骸が横たわっていた──。
「新型の神操兵があっさりやられちゃったかー。さすがに強いね」
突然、無邪気な笑い声が聞こえた。
「なんだ……!?」
俺たちの前方でまばゆい光の柱が立ち上る。
そこから小柄な少女が現れた。
整いすぎるほど整った中性的な美貌に、長く伸ばした桜色の髪。
背からは、輝く翼。
「堕天使……!」
それも尋常な神気ではない。
「邪神界で技術者が開発した、最新最強の神操兵の一つだったんだけどね。さすがは『黒き剣帝』だね」
堕天使の少女が微笑む。
「私はノア。第一階位の堕天使よ。以後、お見知りおきを」
言って、彼女はスカートの裾をつまんで優雅に一礼した。
「第一階位……だと?」
それは、邪神に次ぐ力を持つ六体の堕天使たちのことだ。
かつての大戦でそれらの個体は『六蓮華』と通称されていた。
だがその最強の六体の中に、目の前のノアはいなかったはず。
「この三十年近くの間に入れ替わったんだよ。かつての六蓮華で残っているのは、わずか一体。残りの五体は──新世代というわけ」
微笑むノア。
「言っておくけど、私たちの世代は前の連中ほどぬるくないよ? たかが人間どもに一蹴された情けない連中とは、ね」
「なら、お前は俺たちに勝てるとでも?」
「当たり前でしょ。人間ごとき──指先一本で十分ね」
「面白いことを言うね」
ミーシャが前に出た。
「ミーシャ、挑発に乗るな」
「いえ、ここはあえて乗ることにするよ」
言って、彼女は俺を振り返った。
「……あの自信は、たぶん過信じゃない。私が先に戦うから、ジラルドはよく見ていて」
「ミーシャ、君は──」
「別に犠牲になったりしないよ。ただの威力偵察ってところ」
パチン、とウインクをして、彼女はノアと対峙した。
本当に大丈夫なのか、ミーシャ。
俺は胸の奥がざわつくのを感じながら、それを見守る──。
「が……は……ぁ」
わずか、三秒。
かつて人類最強戦力の一つと謳われた『碧の聖拳』ミーシャ・グレイルは、地面に崩れ落ちた。
「なんだ、『黒き剣帝』はともかく、そっちの英雄さんは弱いんだね」
ノアが失望したようにため息をつく。
「ミーシャ!」
「私も……年を取った……の……ね」
息も絶え絶えにつぶやくミーシャ。
致命傷ではないが、軽い怪我でもない。
「後は俺がやる! 君は下がっていてくれ!」
俺は彼女をかばうように進み出た。
スキルの効果時間は、おそらく残り二分程度。
その二分で、ノアを始末するしかない──。
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