3 ソフィア
体中から力があふれる。
俺は職員たちに向き直った。
「ひ、ひいいい……!?」
「なんだ、こいつ……突然、強く……!?」
「さんざん殴る蹴るしてくれたな」
お返しだ。
残った連中にも拳を、蹴りを、叩きこむ。
あっという間に彼らは地面にのびてしまった。
……まあ、いいだろう。
全力で殴ったら殺してしまいかねない。
「大丈夫だったか、君?」
俺は彼女に向き直った。
風になびく、長い銀色の髪。
優しく穏やかな容姿。
美しい──。
あらためて、感嘆する。
あれは二十年以上も前のことだ。
俺が十七歳だったころ、恋人がいた。
名前はレフィア・クルス。
俺より三つ年上で、当時は二十歳だった。
美しく、優しく、包容力のある女性だった。
そのときのレフィアそっくりの容姿だ。
たぶん年齢もほぼ同じだろう。
「た、助けていただきありがとうございました……」
彼女はまだ呆然とした様子だ。
「あ、申し遅れました。私はソフィア・アールヴと申します。この町を拠点にしている冒険者ギルド『癒しの盾』のギルドマスターをしています」
「ジラルド・スーザだ」
名乗り返す俺。
「実は、俺の──その、知り合いに君はとてもよく似ている。レフィア・クルスという女性なんだが」
つい言ってしまった。
初対面の相手に対してぶしつけだろうか。
だが、言わずにはいられなかった。
「あ、母のお知り合いの方でしたか」
ソフィアが笑みを深める。
「君は……レフィアの娘なのか……!?」
そうではないかと思っていたが、いざ聞かされるとやはり衝撃を受けてしまう。
「はい」
うなずくソフィア。
彼女の話によると──。
レフィアは俺と別れた数年後、冒険者仲間だったアールヴという男と結ばれたそうだ。
そして二十八歳でソフィアを産んだ。
つまり現在のソフィアは、俺の恋人だったころのレフィアと同じ二十歳ということになる。
やがて、レフィアは夫とともに冒険者ギルド『癒しの盾』を設立した。
だが、夫は間もなくあるモンスターの討伐クエストに失敗して、死亡。
その後はレフィアがギルドマスターとなって『癒しの盾』を切り盛りし、一時期はギルドランクがBまで上がるほど盛況だったようだ。
が、少しずつ成績は低迷。
それに合わせて所属冒険者たちも次々に去っていき、レフィアも激務がたたったのか、流行り病であっけなく死亡した。
現在はソフィアがギルドマスターをしているが、所属冒険者たちの流出が止まらず、とうとう彼女と受付嬢の二人だけになってしまったそうだ。
当然クエストをこなすこともできず、この成績ではギルド連盟から除名される──というところまで来ている。
「……現状は分かった。そうか、レフィアは亡くなったんだな」
俺はうつむく。
胸の芯をえぐられるような強烈な喪失感。
レフィアと恋人同士だった期間は数年間。
その数年間は、俺にとって人生でもっとも幸福だった時間かもしれない。
だけど、彼女はもういない。
悲しみと切なさ、そして──。
彼女と出会い、過ごせたことの感謝が胸の奥にこみ上げる。
どうか安らかに眠ってくれ、レフィア。
俺は目を閉じ、しばらく黙祷した。
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