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4 守護の剣

『栄光の剣』から離脱したヴェルナたち一部のメンバーが設立した新ギルド──『守護の剣』。


 俺たちの『癒しの盾』から一区画ほど離れた場所に、その本部があった。

 三階建てで、一階には受け付けのほかにちょっとした食堂まである。


 なかなか立派な建物だった。

 ……『癒しの盾』よりも、かなり。


「えへへ、『栄光の剣』時代のお得意さまで、あたしたちを応援してくださる人たちがいて……その援助もあって、予定よりいい場所を本部として借り上げられたんです」


 ヴェルナが説明してくれた。

 燃えるような赤い髪をロングヘアにした、十七歳の美少女剣士である。


「ようこそ、『守護の剣』へ。来てくださって嬉しいです、ジラルドさん!」


 満面の笑顔である。

 頬が紅潮しているのは、ちょっと興奮気味なんだろうか?


「あ、ジラルドさんだ!」

「どうも、ご無沙汰してます!」

「えっ、本当にジラルドさん? 来てくださったんですね!」

「おお、リック、ラース、ジョアンナ! みんな、ひさしぶりだな」


 以前にヴェルナたちが『癒しの盾』を訪れた際にはいなかったメンバーとも、俺は旧交を温めた。


 やはり昔の仲間はいいものだ。


 バルツの陰謀がなければ、俺は今も彼らと一緒に──。


 ……いや、考えるのはよそう。

 過ぎたことは、もう返らない。


 それに新しい出会いもあった。

 今の俺は、まずソフィアたち『癒しの盾』のためにがんばるんだ。


 未練は断ち切らなければ──。

 そう思いつつも、やはりヴェルナたちと会えるのは嬉しかった。

 と、


「あ、あの……わたくし、みなさんに言いたいことが……特に、サーナさんに……」


 おずおずと進み出たのはリーネだった。

 顔がこわばり、緊張気味だ。


 すうはあ、すうはあ、と何度も深呼吸するリーネ。

 戦いでの自信たっぷりの態度とは百八十度違っていた。


「がんばれ、リーネ。自分の気持ちを素直に伝えればいいんだ」


 俺はそっと耳打ちした。


「あ……は、はいっ……」


 こくん、とうなずいたリーネはもう一度深呼吸をすると、


「その、この間は……えっと、す、すみ……ません、でした……」


 たどたどしい謝罪の言葉とともに、深々と頭を下げた。


 よし、よく謝れたぞ、リーネ。

 まるで娘を見るような気持ちになってしまった。


「わざわざ謝りに来たの?」


 きょとんとした顔になったのは、サーナだ。

 当のリーネに吹っ飛ばされた本人である。


「案外、律儀なのね。ふふ」


 サーナは意外なほどあっけらかんとしている。

 逆にリーネのほうが面食らったようだ。


「えっ、怒って……ませんの?」

「態度はよくなかったけれど、勝負自体は正々堂々と行ったものでしょう? 負けたのは、私の実力不足よ」


 潔く敗北を認めるサーナ。


「性根を入れ替えて、がんばってね。きっとあなたならすごい冒険者になれるわ。あるいは、冒険者の頂点──Sランクだって夢じゃないかもしれない」

「……が、がんばります」


 リーネも、少しは分かっただろうか。

 絶対的な力を行使することでの、他者への優越とは違う喜びを。


 他者から──期待されることの喜びと、そして誇りを。


「……それはそうと、後ろの方はもしかして……? いえ、まさかね」


 と、サーナの視線が俺の隣にいるガウディオーラへ移る。


「ああ、そのまさかだ。紹介するよ。『白の賢者』の二つ名で知られるガウディオーラ、その人だ」


 俺はみんなにあらためてガウディオーラのことを紹介した。

 今までリーネとサーナのやり取りを遠くから見守っていた彼は、一礼して進み出る。


「若き冒険者たちよ、お目にかかれることを光栄に思います。私はラグ・ガウディオーラと申すものです」

「し、『白の賢者』様っ!?」

「お会いできて光栄ですっ」

「す、すげー、本物だ……!」


 ヴェルナたちが喜びと緊張の表情で直立不動した。


『栄光の剣』在籍時に、ヴェルナたちは俺とは普段からギルドで顔を合わせていた。

 だから五大英雄とはいえ、そこまで緊張せずに相対できるんだろう。


 だが、ガウディオーラは違う。


 彼女たちのほとんどが生まれる前に活躍した大英雄である。

 そんな生ける伝説と対面できて、ヴェルナたちは完全に舞い上がっているようだ。


 特に魔法使い系の冒険者にとっては、『白の賢者』は憧れ中の憧れといってもいいだろう。


「ど、どうしよ……サインもらったりしてもいいのかな?」

「あ、ずるいぞ! サインなら俺が先に──」

「じ、じゃあ、俺は握手を……」


 などと、言い争いになっている始末だ。


「さっきガウディオーラ様から聞きました。サリクス帝国まで行かれるとか?」


 彼らの喧騒を微笑ましい思いで見ていると、ヴェルナが話しかけてきた。


「ああ、ちょっとした依頼があってな」


 邪神軍関連のことは口外不要だと、ガウディオーラから釘を刺されている。


 今はまだ人類側の戦力を整えている最中。

 それを邪神軍が人間界に放っているであろう斥候に悟られないよう、可能な限り情報は伏せるように、とのことだ。


 ソフィアは俺にスキルをかけてもらっているから情報を知らせたんだとして、なぜミリエラにまで教えたのか、疑問が残るが……。

 聡明なガウディオーラのことだから、何か理由があるんだろう。


 ともあれ、今回のサリクス帝国行きは、表向きはとある採集クエストということにしてある。


「サリクスは大河の向こう側ですよね。しばらく会えなくなりますね……」


 妙にしんみりとしているヴェルナ。

 その横顔に寂しげな表情が浮かんでいた。


「ヴェルナ……?」

「あなたがギルドから追われたと聞いたとき、本当に悲しかったんです。だけど、こうして同じ町で冒険者としてがんばっていけるのは嬉しいです。場所も近いから、会おうと思えばすぐに会いに行けますし」

「そうだな。俺も懐かしい皆の顔を見ると、嬉しいし励みにもなる」

「また……会いに来てくださいね。あたし、待ってますから……!」




 ──こうして『守護の剣』でひとときを過ごした俺たちは、ガウディオーラやリーネと別れ、サリクス帝国へと向かった。

 ここウィンドリア王国からサリクスまでは大河を隔てているため、船による往来となる。

 定期便に乗ると、すでに日が落ちかけていた。


「夜の船旅か……」

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