3 スキルと魔法
「私の知識が及ぶのは、魔法の領域だけ。残念ながら『スキル』に関しては専門外です」
ガウディオーラが言った。
「だから、彼女の固有スキル──【全盛期ふたたび】についても詳細は分かりません。ただ、これだけは言えます。少なくとも魔法の力で、『対象の全盛期の力を呼び戻す』というのは不可能です」
「えっ」
「正確には君の闘気の力を、あのころと同じレベルでよみがえらせるのは、です。闘気とは精神と生命が生み出すエネルギー。その源泉は魂にあります。当時と同じレベルの闘気を操るということは、魂も当時のレベルに戻さなければなりません」
ガウディオーラが説明する。
「邪神軍との戦いで君が負ったのは肉体的ダメージだけではありません。魂自体にも奴らの神術によって多大な損傷を受けています。それを修復しない限り、君の力は復活しないはずなんです」
「……魂の修復、か」
「『魔法』では魂に干渉することはできません。ですが──『魔法』では届かない領域も、『異能』ならば届くこともあります」
と、ガウディオーラ。
「異能……」
つまりは、スキルか。
「魂は『原初の神』が生み出したもの。『魔』に起因する力──魔法では干渉することができないんです。ただ──異能は、その『原初の神』が神話の時代に人に分け与えた力の名残り、と言われていますから。魂に干渉することも不可能ではないのかもしれません」
ガウディオーラが言った。
「とはいえ、ここまでは私の推測にすぎません。異能に関しては、さっきも言ったように専門外ですからね。これ以上のことは、専門家に聞いた方がいいと思います」
「専門家?」
「サリクス帝国北東部、ザラッド山脈のふもとにある『第37集落』をたずねるといいでしょう。通称を『異能の里』。すべての異能者の祖先となった者はそこの出身だといいます。異能の研究において世界でもっとも進んだ場所でもあります」
「サリクスっていえば、あいつの故郷だったな」
『碧の聖拳』ミーシャ・グレイル。
世界最強の格闘家にして僧侶。
「そもそもミーシャさんもその『異能の里』出身ですよ」
「えっ」
初めて聞く話だった。
確かに彼女は、拳技や僧侶魔法のほかにユニークスキルも使っていたが──。
「現在、ミーシャさんは後進の指導のかたわら、異能研究にも携わっているそうです。もしかしたら、そこで再会できるかもしれませんね」
と、ガウディオーラ。
こうして『白の賢者』と再会したかと思えば、今度は『碧の聖拳』と会えるかもしれない、か。
俺は懐かしい気分になって、ふっと口元を緩ませた。
この調子だと、残る『蒼の魔女』や『赤き竜騎士』にもそのうち出会えるかもしれないな──。
『異能の里』には俺とソフィアで向かうことになった。
「あたしも行くー!」
抗議の声を上げたのはミリエラだった。
「悪いが、君はここに残って修行だ」
「やだー! 行くったら行くの!」
と、俺の腕の袖にしがみつく。
ほとんど駄々っ子状態である。
「本当、ミリエラちゃんはジラルドさんに懐いてますね」
くすりと微笑むソフィア。
懐いている……というのか、これは?
「今回は残ってくれ。ガウディオーラの話だと、『異能の里』はエルフやドワーフをあまり歓迎しないらしいんだ」
ミリエラをなだめながら説明する俺。
「それに……君だって簡単なクエストくらいなら、もうこなせる実力は十分あるからな。コレットと相談しながら、地道に達成してくれ」
「あたしが……クエストを?」
ミリエラはきょとんとした顔で自分自身を指差した。
「それは助かります。ギルドランクは所属冒険者全員の成績で決まりますからね」
ソフィアがぽんと手を叩いた。
「そういうことだ。俺はもちろん、空いた時間は可能な限りクエスト達成に向ける。ただし、それだけでは足りないんだ。君にも──そして今後入ってくるであろう、新しいメンバーたちにもがんばってもらわないと」
「……なるほど。あたし、がんばる!」
と、
「えーっ、今から行くんですか!?」
リーネの悲鳴が聞こえた。
どうやら、今までずっとガウディオーラに説教されていたようだが──、
「当然だ。こういうことは早いほうがいい。『守護の剣』に謝りに行くんだ。私もついていくから」
「うううう……分かりました」
「じゃあ、俺とソフィアも一緒に行くか」
と、名乗り出る俺。
「サリクスへの通り道だし、挨拶がてらに、な」
──というわけで、俺たちはまず『守護の剣』に行き、その後、俺とソフィアはサリクス帝国へ、ガウディオーラはリーネを自分の屋敷に連れ帰る、という道程になった。
旅支度を一通り整え、二時間ほど後に俺たち四人は出発した。