2 白の賢者からの知らせ
「久しぶりだな、ガウディオーラ」
「壮健そうで何よりです、ジラルドくん。さすがにお互い老けましたね」
俺たちは再会を喜び合う。
「お、お、おじいさま……どうして、ここに……!?」
その側でリーネが腰を抜かしていた。
普段の勝気っぷりが嘘のように顔面蒼白だ。
口をパクパクと開閉させ、目が泳ぎまくっていた。
「お前の評判は以前から耳にしていた。私も多忙ゆえ、なかなか構うことができなくて悪いと思っているが……さすがにギルドの先輩冒険者に戦いを挑んだり、ジラルドくんにまで突っかかるのはやりすぎだろう」
「全部バレてますの……!?」
「まったく。お前の生まれ持った魔力はすさまじいが、心がまるで伴っておらん」
「心……ですか」
しゅん、とうなだれるリーネ。
さすがの彼女も、敬愛する偉大な祖父から直接叱られるのは堪えるらしい。
「心なき力など無意味。まず心を鍛えよ」
言って、ガウディオーラは俺に微笑んだ。
「目の前に最高の見本がいるではないか」
「『黒き剣帝』……」
「お手本なんて言われると、なんとも面映ゆいな」
俺は苦笑した。
「お前の過ちは一つ一つ償っていくがよい。まずは迷惑をかけたジラルドくんや、その『守護の剣』の冒険者に謝罪しにいくことだ」
「うう……も、申し訳ありませんでした、ジラルド……さま」
リーネは俺に向き直り、唇をかみしめながら頭を下げた。
「いや、いいんだ。ただ、サーナには──この間の冒険者にはちゃんと謝りに行ってくれ」
「……はい」
涙を拭きながらうなずくリーネ。
「で、ガウディオーラ。あんたはリーネを諌めるためにここまで来たのか」
「──いえ、それだけが目的ではありません」
ガウディオーラは首を左右に振った。
表情を険しくして、こっちを見る。
その表情を見ただけで、俺まで緊張感が走った。
「邪神の封印が弱まっています。奴らの復活の日は近いようです──」
かつて、邪神大戦と呼ばれる戦いがあった。
俺がまだ十台後半だったころにおこった、邪神軍の世界侵攻。
世界中の戦士や魔法使いたちが手を携え、国家の枠組みを超えた人類連合軍として邪神軍に立ち向かった。
激しい戦いの末、俺たちは失われた古代神の力を借りることに成功し、その力で邪神や高位の堕天使を封印。
世界には平和が訪れた。
──のだが、
「この先、封印がどう推移するか分かりません。上手く封印強化をできればいいですが、最悪の場合、邪神とその配下すべてがこの世界に現れるでしょう。そうなれば──」
「かつての邪神大戦の再現か」
「この三十年近くの間に、邪神たちがさらに力を増している可能性もあります。かつて以上の戦いになるかもしれません」
ガウディオーラがうめく。
「仮に邪神軍との全面戦争という事態になれば、世界中の優れた戦士や魔法使いの力を結集しなければ勝てないでしょう。その戦いの敗北は、すなわち人類滅亡。今までのように堕天使や聖獣などが散発的に現れ、人を襲うような事態とはスケールが違いすぎます」
「……『聖杯機関』は動いているのか?」
「すでに。邪神軍との戦いで有用な働きができるであろう猛者を探し、声掛けを始めています。私もそうです」
と、ガウディオーラ。
「じゃあ、あんたがここに来た理由は──」
「もちろん、君を誘いに来たんですよ。地上最強の剣士『黒き剣帝』を」
ガウディオーラが笑った。
「かつての戦いで、君は大きなダメージを負いました。加齢もあって、あのころの力は失われたと聞いていましたが……最近、また全盛期のような力を振るい始めたという噂を聞いたんです。真偽を確かめに来ました」
「ガウディオーラ……」
「ちょうど堕天使を撃破するところを見ることもできました。噂は本当だったようですね」
「……全盛期の力を使える、と言っても、俺一人じゃ無理なんだ」
俺はガウディオーラに言った。
「とあるユニークスキルのおかげだ」
「ユニークスキル?」
「ああ、彼女にスキルをかけてもらうと、一定時間、俺は全盛期と同等の闘気を操ることができる」
俺は背後に控えていたソフィアを指し示した。
「なるほど……」
ガウディオーラはソフィアに目を向けた。
「……レフィアさんに似ていませんか? まさか君と彼女の娘──」
「ち、違う! 誤解だ!」
俺は慌てて手を振った。
「どうかしましたか、ジラルドさん?」
ソフィアがきょとんと首をかしげる。
──彼女の母、レフィアはかつての俺の恋人だ。
そのころから冒険者仲間だったガウディオーラは、その事実を知っている。
「早とちりでしたか、申し訳ない」
ガウディオーラが頭を下げた。
「ソフィアさんも、今の言葉は何も気にしないでくださいね」
「は、はあ……」
「んー、二人してなんか隠してない? あやしーなー」
ミリエラが興味津々という顔で俺とガウディオーラを見た。
「現状では効果時間が限られているからな。ガウディオーラが期待しているような戦力になれるかどうかは分からない」
「……なるほど」
ガウディオーラがうなった。
顎に手を当て、何事かを思案している。
「ならば、効果時間を延ばせばいいのではありませんか?」
「延ばす?」
俺は思わず身を乗り出した。
「何か知っているのか、このスキルのことを」
さすがは『白の賢者』だ。
その知識量は並外れている──。