10 紅蓮の闘気
「闘気解放──収束」
高まった闘気は半物質と化し、甲冑となって俺の全身を覆った。
すでに闘気コーティングを終えている剣を手に、完全武装状態だ。
「人間にしては大したエネルギーだ。ゼラマトン程度では相手にならぬわけだな」
ガイエルが傲然と言った。
「だが、私には通じぬ。いかに巨大なエネルギーであろうと、我が風の神術が防ぎきる」
ごうっ……。
低くうなるような音を立て、ガイエルの周囲に緑色の輝きがはじける。
神の眷属だけが備える聖なるエネルギー……神気。
それが奴の右手に収束していた。
さっき、リーネの最大呪文『紅蓮爆導』を防いだのも、あのエネルギーだろう。
いわば、神気の盾といったところか。
おそらく、冥皇封滅剣の一の型や七の型など、攻撃力の高い奥義を放っても破るのは難しいだろう。
「今までの──撃ち方なら、な」
つぶやく俺。
闘気の『量』だけでなく、闘気の『質』も全盛期レベルで発現する。
そうすれば技の威力は飛躍的に上がる。
が、当然反動もすさまじい。
衰えてしまった俺の体が、耐えきれるかどうか。
それでも──俺はやると決めたんだ。
この町を守るために。
冒険者の務めとして──。
「風の神術『碧風防盾』。打ち破れるものなら、破ってみるがいい」
「なら、そうさせてもらう」
俺は剣を掲げた状態から、正眼へと構えを変えた。
集中する。
同時に、俺の全身から噴き出す黒いエネルギーが揺らめき、薄れだした。
「なんだ? 早くも闘気が尽きたのか? くくく……」
笑うガイエルを一瞥し、俺はさらに集中力を高めた。
全身から噴き出る闘気はどんどん色が薄くなる。
やがて完全に消え去った。
闘気が、尽きた。
──きっと、奴の目にはそう見えただろう。
だが、違う。
「闘気変換──解放」
ごうっ!
ふたたび俺の全身から吹き上がった闘気は、黒から赤へと色を変えていた。
「な、何……!?」
ガイエルが驚愕の声を上げる。
「闘気の変色──まさか、それは」
「邪神や他の天使から聞いてなかったのか? 俺の戦闘スタイルを」
堕天使をまっすぐ見据える俺。
「闘気の、本質を」
闘気。
それは『戦う意思』によって指向性を持った生命エネルギーである。
そして、その闘気自体がさらに何種類も存在する。
俺の闘気の基本カラーは、黒。
殺意でも、憎悪でも、破壊本能でもない、純粋な闘志。
今はその精神の指向性を変え、別種の『赤色の闘気』を出現させている。
攻撃性を最大限に高め、敵のすべてを破壊し、燃やし尽くす──そんな『戦う意思』を込めた『紅蓮の闘気』。
「馬鹿な……闘気を自在に操るだと……!? しかもエネルギーが際限なく上がっていく……たかが人間が──」
「人間を、なめるなよ」
俺は掲げた剣を振り下ろした。
赤い斬撃波が、口を開いた龍のような形になり、伸びていく。
「ちいっ、こんなもの!」
ガイエルは右手を突き出し、それを受け止めた。
先ほどリーネの呪文を防いだときと同じだ。
火炎系最上級呪文『紅蓮爆導』すら簡単に無効化してしまう、圧倒的な防御神術『碧風防盾』。
ざぐぅっ……!
その神の盾が──一瞬すら持ちこたえられずに焼き溶け、砕け散った。
「ば、馬鹿なああああああああああああああああああっ!?」
なおも突き進んだ赤い龍の形をした斬撃波は、ガイエルの巨体を飲みこみ、両断する。
「冥皇封滅剣、一の型・極──『紅帝火龍』」
俺は静かにつぶやいた。
今まで以上に闘気の出力を上げ、複雑な闘気制御も行ったが……体に痛みや異変などはなさそうだった。
「問題なく使えそうだな」
全盛期にもっとも得意とした剣技、その最大出力バージョンを。
「う、嘘……!? あの堕天使を、たった一撃で──」
リーネが呆然とつぶやく。
「さっすが師匠!」
後方からミリエラが歓声を上げていた。
その隣で微笑んでいるのはソフィアだ。
俺は彼女たちに親指を立てて答える。
と、
「ほう……全盛期と遜色のない威力ですね。さすがは『黒き剣帝』。その力はいまだ健在、ですか」
空中から微笑交じりの声が聞こえた。
優しさと温かみにあふれた声音。
「あんたは──」
俺はハッと空を見上げる。
そこに浮かんでいたのは、小柄な初老の男性のシルエット。
「『白の賢者』──ガウディオーラ」
かつての五大英雄との、十五年ぶりの再会だった。
次回から第3章になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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