12 堕天使を狩るもの
「そろそろ終わりにしてやろう。さらばだ、人間」
ゼラマトンがちょうどヴェルナたちにとどめをさそうとしたところだった。
放たれる、風の弾丸。
それを俺が横合いから繰り出した斬撃の衝撃波で斬り散らす。
「何……!?」
堕天使が振り返った。
俺は彼女たちの前に出て、奴と対峙する。
「ジラルドさん……!?」
「下がっていろ」
驚くヴェルナたちに、俺は言い放った。
「次はお前か。だが、しょせんは人間──」
鼻を鳴らすゼラマトン。
「身の程知らずの雑魚は一秒で消してやろう。今度は先ほどの十倍の力でな!」
奴のまとう風がさらに強さを増していく。
「神術──『風咆弾』!」
そして胸の前で収束し、風圧の弾丸となって放たれた。
先ほど、ヴェルナたちを一発で吹き飛ばした神術だ。
「だが、しょせんは堕天使──だな」
俺は前方に闘気を集め、盾を作り出した。
風弾はその盾に弾かれ、散り、ただのそよ風に変わる。
「な、なんだと……!?」
堕天使の表情がこわばった。
「私の神術を防いだ!? 人間ごときが──」
「闘気解放──収束、光刃」
俺の周囲に、二十七本の黒い剣が出現する。
闘気を凝縮させて作った剣である。
「行け」
俺の意思を受け、二十七の闘気剣が矢のように放たれた。
その飛来速度は、音よりも速い。
冥皇封滅剣、二の型──『鳳牙』。
「がっ!? ぐあああああっ……!」
一瞬にして全身を貫かれた堕天使が苦鳴を上げた。
「ば、馬鹿な……第五階位の堕天使である私が、人間ごときに……」
傷だらけになり、ゼラマトンの巨体がよろめく。
「三十年の平和の間に忘れたか? かつては、邪神や上位堕天使とすら渡り合えた人間が存在したことを」
俺の体から闘気が黒い炎のように吹き上がる。
そのまま物質化し、甲冑となって俺の全身を覆った。
『黒き剣帝』としての全開戦闘モードだ。
俺は剣を手にゼラマトンへと近づいた。
その剣も闘気でコーティングして、本来のサイズより二回りほど大きくなっている。
「お前……まさか、ガイエル様が言っていた、人間側の超越戦力──」
後ずさるゼラマトン。
「ひ、ひいいいいい……」
その顔からは、もはや先ほどまでの傲慢な表情は消え失せていた。
「これが……かつて邪神様をも封じた最強の人間──」
浮かんでいるのは恐怖のみ。
「じゃあな」
俺は闘気で包まれた剣を振り下ろす。
わずか、一撃。
黒く輝く斬撃が、堕天使の首を切り落とした。
「ありがとう、俺たちの町を救ってくれて!」
「ありがとう、『癒しの盾』!」
「ありがとう、ありがとう!」
町中からあふれる感謝の声。
堕天使を撃退し、『癒しの盾』の本部に戻る途中、町の人たちから歓待されたのだ。
「……さすがですね、ジラルドさん」
ヴェルナが俺を見て、微笑む。
「あの姿で戦うところを初めて見ましたが──伝説は本当でした」
「あれが、邪神と五分に渡り合ったという『黒き剣帝』の力……」
「すごかったです……」
「ああ、ジラルドさんが俺たちのギルドに来てくれたらなぁ……」
サーナたちも目をキラキラさせて俺を見ていた。
彼女たちは、衰えた今の俺しか知らないからな。
全盛期の実力を見て、そのギャップに驚いたのかもしれない。
「昔の話だ」
俺は肩をすくめた。
それから町の人たちに軽く手を振る。
歓声が一段と大きくなった。
「うわぁ……」
ソフィアが涙ぐんでいた。
「私たちのギルドがこんなふうに感謝される日が来るなんて。お母さんにもこの光景を見せてあげたかった」
「……そうだな」
俺はしみじみとした気持ちでうなずいた。
魔炎竜討伐に続いて、今回の堕天使撃破。
これで『癒しの盾』の名声も少しは上がるだろう。
ミリエラだけでなく、他にも入会希望者が来てくれるだろうか。
所属冒険者がどんどん増えて、『癒しの盾』がもっと大きなギルドになっていくことを願わずにはいられない。
そんな未来を夢想して、胸が躍る。
俺は、空を見上げた。
そこにレフィアの笑顔が見えるような気がした。
「天国から見てるか、レフィア?」
俺はそっと呼びかける。
口元に笑みを浮かべて。
「俺は君の娘とともに、このギルドを立て直していくぞ──」
次回から第2章になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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