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2 『白の賢者』の危機

 魔法陣は映像と音声をこちらに送ることができるようだ。

 その映像内で、ガウディオーラと一体の堕天使が対峙していた。


「つ、強い――」


 うめくガウディオーラ。


「ふむ。しょせんは人間か」


 一方の堕天使は悠然とたたずんでいる。


 渋みのある容貌の中年男。

 体形は引き締まっており、まるで岩のようにがっしりとしていた。


「この第一階位堕天使ザグナークが出るまでもない相手だったな」


 中年男の姿をした堕天使――ザグナークがつぶやく。


 俺は以前の大戦で第一階位堕天使たちと戦ったが、こいつは知らない奴だった。

 先日戦ったノアと同じ『新世代』の第一階位堕天使なんだろう。


「かつての五大英雄……邪神様を封じたという連中も、数十年の内に衰えたか。あるいは――」


 ザグナークが右手を掲げる。

 そこに紫色の輝きが収束していく。


「私たち新世代の堕天使が、かつての第一階位よりも強くなりすぎてしまったか」

「うう、このままではやられる……!」


『白の賢者』が唇をかむ。


「最大級火炎魔法『紅蓮爆導(ぐれんばくどう)』――」


 ガウディオーラが直径数百メートルはあろうかという巨大な火球を生み出した。

 最強クラスの火炎魔法である。

 さらに、


「――『流星弾(りゅうせいだん)』!」


 同じ火球を連続で二十三発も撃ち出した。


『紅蓮縛導・流星弾』。

 最大級火炎魔法を連打し、圧倒的な火力ですべてを焼き払う――。

 ガウディオーラの奥義魔法だ。


「ほう。腐っても英雄か。これほどの呪文を複数連打できるとは」


 ザグナークの表情が引き締まった。


「ならば、こちらも相応の力を持って迎え撃とう――『聖武具召喚(ディルヴァロ)』」


 その手に光の粒子が収束する。

 次の瞬間、身の丈を超える巨大なハンマーが、奴の手に握られていた。


「聖武具ミョルニル。邪神シャルムロドムス様から『力』を与えられた究極の武具だ」


 ハンマーを肩に担ぎ、腰を落とすザグナーク。


「すべてを――吹き飛ばせ!」


 振るわれたミョルニルからまばゆい稲妻と竜巻がほとばしる。

 それらは二十三発の巨大火球を飲みこみ、弾き散らしてしまった。


「なっ……!?」

「旧世代の第一階位堕天使なら、今の攻撃で倒せていたのかもしれん。だが私たち新世代は、そうはいかん」


 ザグナークがハンマーを振り上げる。


「お前たち人間に苦杯を舐め、我らも成長したのだ。次の大戦では――負けぬ、とな!」


 振り下ろされるミョルニル。


「ぐおおおおおっ……!」


 吹き荒れる稲妻と竜巻を、ガウディオーラは防御呪文でかろうじて防ぐ。


 が、押し切られ、空中高くへと吹き飛ばされた。


「くうっ……!」


 飛行呪文を使い、上空で体勢を立て直すガウディオーラ。


「はあ、はあ、はあ……」

「おじいさま! おじいさまぁっ!」


 リーネが悲痛な声を上げる。


「リーネ……か……」


 ようやく返答する余裕ができたのか、ガウディオーラの声が響いた。


「――ふん、仲間との通話呪文か。言い残すことがあれば、今のうちに告げるがいい」


 ザグナークが戦闘態勢を解いた。

 意外に紳士的な奴だ。


 だが、おかげで助かる。


 今のうちに状況を伝えることにしよう――。

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