ゾンビ、家を買う -2-
僕と平山は、あるソフト開発の会社で働いている。
昼休みを終えて、職場で仕事をしているときも平山が腕をポリポリと掻く音が聞こえてきた。
「おい、平山。その腕、どうかしたのか?」
心配した上司が平山に声を掛ける。
「いや、大したことないんですけどね……なんか昨日から蕁麻疹が痒くって……」
「おいおい、変な性病かなんかじゃないだろうな。俺にだけは移さないでくれよ」
上司はにやけ顔で冗談を言った。
「はい、肝に銘じます」
平山はそれに対して、おどけたように言葉を返した。
僕は今日の昼休みに、平山の腕が不自然に脈打つように動いた映像が脳裏から消える事が無かった。
(あいつ、本当に蕁麻疹なのか?)
なんだか嫌な予感が胸の辺りをもやもやと覆ってきた。
だが、その時に丁度プログラムコードのバグを見つけたので、そっちに気を取られることとなった。
異変が起こり始めたのは、就業時間が終わる間際のことだ。
「か、かゆいぃぃぃ!」
突然平山が立ち上がると、ものすごい勢いで腕の辺りを掻きまくっている。
平山って男はおかしな奴だが、突然立ち上がって叫び出すような奴ではない。
「お、おい。大丈夫かよ。平山」
一番席が近い僕が、平山に声を掛けた。
同僚たちも手を止めて、心配そうに平山を見つめていた。
「い、いやぁぁこれは無理だ!!痒すぎるぅぅぅ!!」
平山が涙を流しながら、腕を掻き続けている。
平山が着ている白いカッターシャツの下は、右腕のところだけ血まみれであった。
見れば、右手の肩口から手首の方まで、紫がかった痣のようなものが広がっていた。
「よし、平山!医者に行くぞ。それは、ちょっと異常だ」
僕が上司の方へ振り向いた。
遠巻きに心配していた上司は僕の目を見ると、コクコクと素早く首を縦に二回振った。
「よし、平山。行くぞ!さあ、付いてこい」
「お、おう。かゆいよぉぉ」
こうして、僕と平山は定時ちょっと前に会社を出て、皮膚科のある病院へと向かった。
ゾンビ、家を買う -2- -終-