8.捕縛作戦その二 ~色気で惑わせ
エロさは皆無です。
ほんとゼロです。
かくなる上はお色気作戦だ!
セルリアンだって健全な男子!
下半身だって健康そうだし、
女の色気には弱いはず!
弱い…はずよね?
ふと疑問が沸く。
そういえば、セルリアンは女の子といる所を見たことがない。
よく眼鏡をかけた男子生徒と一緒にいるのは見たことあるけど…
え? まさか?
セルリアンって女嫌い!?
そういえば、セルリアンのお姉様たちは昔からセルリアンに女の子の格好をさせて玩具にされまくっていたし。
それを嫌がっていた…
あああっ
どうしよう!
「私の可愛い子が未知の世界へ旅立ってしまった! どうしよう~、バイオレット!?」
「うん。とりあえず落ち着いて。何がどうして、そうなったの?」
お色気作戦が早くも頓挫しそうになって慌ててバイオレットに相談した。
バイオレットは生暖かい目で私を見つめている。
私はセルリアンが女嫌いの男好きではないかと思っていると話をした。
「ぷっ。あははははは!」
「なんで笑うの!?」
「あははっ! やだわ、アザレア! 笑わせないでよ! あははっ! 涙でてきた…」
なんで笑うところじゃないでしょ!
一大事だ。
いくらそっち方面の事情を知ろうとして物語は読んでいるとはいえ、リアルでやられたら対処するのは難しい。
「大丈夫。大丈夫。きっと、王子様はノーマルだから。それに、あなたの言う王子様の友達って、グレイのことでしょ? 彼とは私、幼なじみだからよく知ってるわ」
「え? そうなの?」
初耳だ。
「そうそう。だから、王子様はノーマルよ。うーん…少々、変わったノーマルだけど」
なんだかバイオレットの方がセルリアンのことをよく知ってるような口振りだ。
「セルリアンは女の子好きなの?」
「そうよ。だから、安心してお色気作戦をしなさい」
そっか。
未知の扉はまだ開いてなかったのか。
よかった~。
あ、でも、これから開かないとは限らないわよね?
そうなったら私の付け入る隙なんてないわ。
大変。
「わかった。いってくる!」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振るバイオレットに背を向けて私は走り出した。
「――転移!」
◇◇お色気作戦下準備、色の好みを知ろう
まず、私の作戦はこうだ。
セルリアンの好みの下着を身につけ、チラ見をしてやろうというものだ。
見えるか見えないかのギリギリラインはその先の想像力を掻き立てる。
それがストライクの下着ならば効果はよりいっそう見込める。完璧だ。
そのためには、セルリアンの好みの下着を知る必要がある。しかし、残念だけど私は好みを知らない。知らないということは聞くまでだ。
「セルリアン!」
ーどごっ
「かはっ…ててっ…アザレア…いきなりなんだよ!」
転移魔法でセルリアンまで飛んできた私はそのまま、セルリアンを背中から押し倒した。
全くの無防備だったセルリアンは、そのまま顔面から倒れそうになる。
すんでの所で地面についたセルリアンはそのまま私を背中に乗せて四つん這いになる。
「セルリアン。教えてほしいことがあるんだけど、女の下着の色は何色が好きなの?」
「………………は?」
お前、何いっちゃってんの?
頭、大丈夫か?みたいな目で見られるけど、気にしてはいられない。
「やっぱり、妖艶な黒?
それとも、情熱の赤?
あぁ、分かった。
意外な所で清純な白でしょ?」
「……何言ってんだ。人の背中で」
四つん這いになりながら、セルリアンは睨み付けてくるが、私も負けじ睨む。
「重要なことなの。早く教えなさい」
「人を馬にして、訳の分からないこと言ってんじゃねぇよ! 下りろ!」
売り言葉に買い言葉。
いつもの私なら余裕でかわすのにセルリアンが未知の扉を開かせないように、少々、私は焦っていた。
セルリアンの背中に立ちながら、冷ややかな声で言う。
「いいから、教えなさい。5秒以内に教えないと、懐柔の魔法で無理やり吐かせるわよ」
「やめろ! そんなことに高等魔法を使うな!」
「5…」
「おいっ!」
「4…」
「人の話を聞け!」
「3…」
「っ…なんで、お前はいっつも…!」
「2…」
「だから、話を…!」
「1…」
「~~~~っ!」
「ゼ…」
「青だ!!」
カウントが終わるギリギリでセルリアンは真っ赤になって叫んだ。肩を上下させている。
青…
なんで青?
清涼感たっぷりの色でムラムラするの?
セルリアンは変わったノーマルだとバイオレットは言っていたけど、性的好みが変わっているということなの?
意外な答えだけど収穫はあった。
ふふっと恍惚の笑みを浮かべて、セルリアンの耳元で囁く。
「ありがと。楽しみにしててね」
「は? 何が…」
びくりと震えたセルリアンに微笑んで私は消えた。
青。
青の下着なんてないわ。
買いにいかないと!
学園が終わった先でさっそくお店で買いに行く。
「いらっしゃいませ~」
今まで関心が薄かったので知らなかったが、女性下着というのは奥深い。
色はもちろん、その形状が様々だ。
面積の大小。素材。質感など、同じものはないんじゃないかっていうぐらい、バラエティー豊かだ。
困った。色を知ればオッケーかと思っていたけど、そうでもないのね。弱った。
「何かお探しですか?」
「…また来ます」
いけない。
私がツメが甘かった。
セルリアンに聞かないと!
◇◇お色気作戦下準備 形状を知ろう
「セルリアン!」
「っ!?」
転移魔法でまたもセルリアンの場所に行く。またも背中に乗る形になった。セルリアンは立っていたので、今度はおんぶのようになる。
しっかりしがみついて、セルリアンに問い詰める。
「ったく、いつもいつもいきなり…今度はなんだよ!」
「教えて、セルリアン。下着の形状は何がいいの?」
「……………は?」
セルリアンにおんぶをされながら、私は捲し立てる。
「ほら、女性の下着って色々、あるでしょ? 好みの形を聞きたいの」
「下着って…なんで、そんなこと…」
セルリアンは耳まで真っ赤になって口ごもる。可愛いけど、今はそれどころではない。とにかく、作戦のためには必要なこと!
「いいから、答えて。答えないとまた魔法で…」
「っ!? だから、しょうもないことで魔法を使うな!」
「しょうもなくない! 大事なの!」
「なんで大事なんだよ! 意味がわかんねぇよ!」
ギャーギャーいい始めた私達に不意に声が聞こえる。
「セルリアンなら、レース生地のベーシックなものが好きですよ」
声の方を向くと同じ速度で歩いていた眼鏡男子がいた。誰?
「ばかっ! グレイ! 余計なことを言うなよ!」
セルリアンはますます赤くなったが、グレイと呼ばれた男子は淡々と答える。
「ベーシック…レース生地…」
「こらっ! 体が傾けるな、落ちるぞ!」
「そうです。初めまして、グレイ・フォースです」
「アザレア・マークグランよ。初めまして。それで、セルリアンはレース生地のベーシックなものが好きなの?」
「はい。こいつはムッツリですが、古風な所がありますから」
「おまっ…余計なこと言うな!」
なるほど。
セルリアンはムッツリで古風か。
いい情報もらった。
「ありがとう。グレイ」
「いえいえ」
「俺の話を聞け―――!」
私はまたパッと消えて、お店で青のレースの生地の下着を買いに行った。
◇◇お色気作戦決行日
「セルリアン♪」
「っ!? …なんだよ…」
今日は背中からではなく、正面に出てきた。セルリアンは大きく体をビクつかせて警戒してる。
「ふふっ。今日はセルリアンがとーっても喜ぶものを着てきたの」
にやっと笑って私は胸元をリボンをほどいた。
「っ!?」
セルリアンが真っ赤になって肩を震わせ始める。
ふふっ。効果はありそう。
口をパクパク開いて何か言おうとするが無視して胸元のボタンに手をかける。
服をずらして、ちらっと肩を見せた。
「可愛い下着を着てきたの。見たい?」
そう言うとセルリアンはこれ以上ないくらい真っ赤になった。
かわいーい!
トマトみたい!
セルリアンったら、うぶなんだから。
嬉くって笑っていると無言だったセルリアンが私の手を掴んだ。
お?
おおおお!
手繋ぎ!
やったー! 早くも作戦成功じゃない!
ーバタン!
使われていない教室に連れ込まれる。
そして、閉めたドアに追い込まれた。
これはまさか…壁ドン!
あのセルリアンが壁ドン!
天使の可愛い子が壁ドン!
最高すぎやしませんか!
やばい!
アドレナリン出すぎて、心臓がバクバクいってきた!!
どうしよう! このまま死ぬかも!
瀕死になっていると、頬を染めて睨んでいたセルリアンが私の服に手を伸ばす。
キャー!
剥ぎ取る?
剥ぎ取っちゃうの?
いいよ! こうがばっと!
がばっとやっちゃってー!
大興奮で見つめていると、ものすごい早さで服を整えられた。
あ、れ?
「このバカ! お前は変質者か! 人前で服を脱ぐな!」
あれあれ?
「二度とやるなよ! 俺は変質者を婚約者に持った覚えはないならな!」
………。
そういう言い方はないんじゃないだろうか。
確かにさ、突飛なことしてるって自覚はあるけど。
全部、全部、セルリアンのためなのに。
ちっとも伝わらない。
「おい。話を聞いてるのかよ?」
「ううん。聞いてない」
「―――は?」
私は少し怒っていた。
鈍いセルリアンに。
伝わらないセルリアンに。
「聞いてないわよ。セルリアンの話なんて」
「なっ! …お前は、なんでそうなんだ! いっつも、いっつも変なことばかりして! そんなに俺をからかいたいのか!」
「は? からかってなんかないわよ。それともなに? 私が不真面目にやってると思ってんの?」
「真面目に下着を見せるやつがいるか!」
「いるわよ。 ここに! 目が見えないの? あなたの目は節穴なの?」
始まった言い争い。
こうなったら後には引けない。
こういう所が私たちって似てる。
「お前なんかと結婚しないからな! 婚約者なんかやめてやる!」
「やめられるものなら、やめてごらんなさいよ!」
結局、授業が始まるまで言い争いは続いた。
お色気作戦。失敗。