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6.駆け引きはやめて宣戦布告をします

 

「きゃーはっはっはっ! おい、そこのお前! 強い魔力を感じるな…手始めにお前からだ!」


 小者臭がする人型魔獣、以下、コモジュウは甲高い叫び声を上げてこちらに向かってきた。うるさい。耳がキンキンする。


「くっ…」


 セルリアンが私を強く…

 ここ大事だからもう一回言うけど

 強く抱き締めながら、魔法を唱える。


「――防御(デファンス)!」


 あ、セルリアン。

 それ、あかんやつ。

 子供がするよう超初級魔法だ。

 まずい、突破され――


 ーザクッ


「っ!」

「きゃーはっはっはっ!」


 簡単に防御は突破され、セルリアンが私を抱えて飛び退く。


 その一瞬、セルリアンの服が破れた。


 服が破れ…た

 服が破れ…



 ―――おい、ちょっと待て。



 なに、うちの可愛い子に手を出してんだ。

 服を破くなんて私でもしてないんだ。

 なに、勝手に夢のシチュエーションしてんだ。

 腹立つ。

 消えろ、今すぐ―――



「我に答えよ。黒き王よ。全てを破壊する黒き竜よ。我の名は、アザレア・クライスラー。我の声に答えよ」


 セルリアンが私を呼ぶ声がする。

 焦った声。

 大丈夫よ。

 すぐ、終わるから。



「この地に姿を見せよ――暗黒竜(ドラゴン・ノア)!」



 体がぐらっとする。

 血を抜かれるように魔力が抜けてく。

 でも、倒れるわけにはいかない。


 一瞬の黒い光の後に体が高みに昇る。

 コモジュウが段々と小さくなる。

 遠くに遠くに。

 私が高い位置にいるから、仕方ない。

 セルリアンがまた強く抱きしめた。


 ードスン!


 大地を凪ぎ払う音がする。

 すぐ真横には巨大な牙。

 久しぶりの地上に興奮しているのか口元は弧を描く。


 圧倒的な力。

 暴力的な存在感。

 世界を染める黒。

 それが、暗黒竜(ドラゴン・ノア)だ。


 私は黒い竜を召喚して、その肩にのっていた。


 コモジュウはまさか竜を召喚するとは思ってなかったのか、腰を抜かしている。

 ざまぁみろ。


『久しいな、小娘。我を招いて、何をする』


 暗黒竜はくぐもった声で私に話しかける。この声は私にしか聞こえない。


『あれを消して』

『小さきモノか? 魂までの消滅でよいのか?』

『いいえ、誓約書を書かせるだけでいい。その魂が滅するまで人間の前に現れないと』

『なんと…我は脅しか』

『そうよ』


 ゆるりと口元に弧を描く。


『虫けら一匹、叩くのも本気をださないと』


 そう告げると暗黒竜はつまらなそうに目を細める。


『聞いたか、小さきモノよ』

「ひっ!」

『主の望みだ、すぐその血で誓約書を書け』


 脅すように暗黒竜がしっぽをふる。

 また大地が割れた。

 コモジュウは半泣きになりながら指先を切り、誓約書を書く。


『我が名においてこの誓約書を実行する。―――()ね』

「ひぃぃぃぃ!」


 コモジュウは最後まで小者の叫び声をあげて飛び去って言った。


 静寂が訪れる。

 なんか、グラグラする…

 こいつ、魔力吸いきったな…


『対価は主の魔力一ヶ月分だ』

『ちょっと…多すぎじゃ…』

『戯れ言に付き合った罰よ。せいぜいその弱きモノに庇われることだな』


 にやりと笑って暗黒竜は消えた。

 相変わらず性格が悪い…


 無事に地面についた私はフラフラだった。ぎゅっと握りしめたセルリアンの熱を感じる。


「セルリアン…傷、大丈夫?」

「あ、あぁ…」

「よかった…」


 微笑むとセルリアンが口をつむぐ。

 視界が歪む。

 セルリアンの声が遠くなる。

 あぁ、せっかくのおいしいシチュエーションが消えちゃう…


「――――…――――」


 何て言ってるの?

 よく聞こえないよ、セルリアン。


「――…お前とは絶対に結婚しない」


 は?

 なんつった?


 結婚しないと?


 絶対って。


 ここまでしたのに?

 魔力吸いとられてまで、庇ったのに?



 なにそれ。


 もう、あったまきた!!


「セルリアン…」


 何が恋の駆け引きだ。

 そんなものちっともおいしくない。

 私は私のやり方で奪うのみ。


「絶対に逃してあげないから――」


 そう言ってセルリアンの形のよい唇に自分のを押し当てた。


 目を見開くセルリアン。

 それを目を細めて見つめる。

 色気もへったくれもないファーストキス。

 それが私達の最初のキスだった。


 唇を離すと、代わりにゆっくりと指でそれをなぞる。もう一度、キスをするように。


「覚悟しておきなさい、セルリアン」


「あなたのキスも、童貞も、全部、頂くから」


 ひゅっと息を飲む声が聞こえた。

 それにくすりと笑う。


 たぶん、今、私はとんでもなく悪い顔になっていると思う。


 だって、セルリアンが声も出さずに私を見つめているから。


 ふふふっ。

 いいきみ。


 結婚しないなんて言った罰よ。


 ひとしきり、セルリアンの唇を指で堪能した後、私の意識は途絶えた。


 そのキスを境にセルリアンを追いかける日々は再開される。


 宣戦布告はした。

 あとは捕らえるのみ。


 逃げ出させないように私はさらに策略を巡らせるのだった。



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