表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4.友達から恋の駆け引きを学びました

 セルリアンを追いかけて捕まえて

 逃げられて、それでもしつこく追いかけて

 私の学園生活はそのワンパターンになっていた。


 そんな日々の中、一人の女子生徒に声をかけられた。


「ふふっ。それじゃあ、いつまで経っても捕まえることはできないわよ?」


 ナイスバディな女子生徒の名前は………。


「誰?」


 ごめん。

 私の脳内に生徒の名前はセルリアンしかいなかった。

 ずるっと滑ったナイスバディ子さんは、ムスッとした顔で言う。


「ちょっと、同じクラスの生徒ぐらい覚えなさいよ。バイオレットよ。ちなみにあなたの席の隣よ。アザレア」


 いきなり呼び捨て。

 まぁ、いいや。

 ナイスバディ子さんもとい、バイオレットは聞き捨てならないことを言っていたし、ここは彼女の話に乗ろう。


「バイオレットさんは、セルリアンを捕まえる方法を知ってるの?」

「さんはいらないわ。呼び捨てにして頂戴。まぁ、いいわ。そうね。知ってるわ。知りたい?」


「知りたい。ものすっごく知りたい」

「……ちょっと顔が近いわよ。教えてあげるから離れなさい」


 ゼロ距離になった私をバイオレットはひっぺがしたので、一度、距離を置いた。


「いいこと、アザレア。殿方はね、追いかけられるのは好きじゃないのよ。どっちかというと追いかけたいの」


 なんですと!

 じゃあ、今まで私がやってきたことは…

 青ざめた私にバイオレットは大打撃を与える。


「あなたのやっていることは逆効果。嫌われるわよ?」


 ガーン!

 そんな。セルリアンに嫌われるなんて…

 あの天使に嫌われるなんて…


 死ぬかも。


「ちょっと、大丈夫? 死にそうな顔してるわよ」

「…大丈夫じゃない。死にそう」

「ほら、しっかりしなさい。あなたって、メンタル強そうなのに、あの王子様のこととなると弱いのね」


 地面に頭を擦り付けた私をバイオレットが立たせてくれる。いい人。


「ありがとう…」

「どういたしまして。話を続けるけど、王子様を捕まえたかったら追いかけるだけじゃダメ。たまには引かないと」

「引く?」


 セルリアンにならいつも引かれている。

 私を見ると、顔がひきつるから。


「そう。あえて距離を置くのよ」

「距離を置く…」

「毎日、毎日、追いかけてきたのに、突然、離れていったら王子様はどう思うかしら?」


 私が離れていったら…………



 思い浮かんだのは、ほっとしているセルリアンの顔だった。



 私から追いかけられることから解放された彼はきっと安堵する。

 そして、自由気ままに薔薇色の学園生活を送るのだ。


 そして、私以外の誰かと……………




 ノオオオオオオオオ!(訳:No!)



 いやいやいやいや!

 ダメよ、絶対!

 セルリアンが誰かとイチャイチャするなんて、ダメ! 絶対、反対!

 そんな場面を目撃したら、私は相手を消してしまう。いや、もしかしたら、暴走してセルリアンごと消してしまうかもしれない。それは、ダメだ。ダメすぎる。



「その作戦、却下」

「はぁ!?」


 真顔で私は続ける。

 暗い未来しか想像できないからだ。


「セルリアンを追いかけなかったら、

 私、セルリアンを葬り去る」

「ちょっと、なんでそうなるのよ…」


 暗い未来をバイオレットに話すとため息をつかれた後に「バカ」と言われた。

 バカって…


「王子様のことだから、そんな未来にはならないわよ」

「なんで、そんな事が言えるの?」

「だって、私、面白くってずーっと貴方たちのこと見てたもの」


 にこっと笑ったバイオレットは可愛らしかった。でも、私はその言葉にひっかかるものがある。


「バイオレットって、私たちのストーカー?」

「せめて、人間観察と言って。私、趣味なの。人間観察」


 ふふっと笑ったバイオレット。

 本当に彼女の言うとおりにしてみてもいいのだろうか…悩ましい。


「ひとまず3日間、追いかけるのをやめてみたら?」

「3日も!?」

「たった3日よ。我慢なさい。ずっとじゃないんだから」


 にやりと笑ったバイオレットはトドメを言い放つ。


「王子様を捕まえたいんでしょ?」


 捕まえたい。

 振り向かせたい。

 嫌がらないで、こっちを見てほしい。


「わかった。やってみる」


 私の答えにバイオレットは満足そうに微笑んだ。



 こうして始まったセルリアンを追いかけない3日間だが、私はそこで思い知るのだ。


 いかにセルリアンしか頭の中になかったということに。



 セルリアンとの接触を絶って二時間、授業が終わった私は直ぐ様、馬車の乗り場に行こうとした。もう授業はないし帰るだけだからだ。


 必要なものは鞄に詰めた。

 あとは、教室から出たら、右に曲がって階段を下りて行けばいい。


 そう意識していたはずだった。


 口元が詠唱を始める。

 ふわりと浮いた体。

 そして、目を鋭くさせた私はドアを開く。

 そして向かうは左の方。


 セルリアンがいる教室へと――


「その者を止めよ―――拘束(カプラ)!」

「っ!?」


 体が硬直して浮いた体はどすんとお尻から落ちる。


「たたっ…」

「アザレア…あなた今、どこに行こうとしたの?」


 振り返るとバイオレットがいた。どうやら、止まる魔法をかけられたようだ。

 そこで、はたと気づく。


「私、どこ行こうとした?」

「…少なくとも、馬車の方じゃなかったわね」


 なんてこったい。

 私、無意識にセルリアンを追いかけようとしていた。

 ちゃんと馬車に乗ろうと意識したはずなのに…


 自分のしたことに愕然としていると、バイオレットがため息をつきながら言う。


「あなたって、本当に直情型なのね。恋の駆け引きには向いてないわ」


 恋の駆け引き…

 確かに私にはなかった概念だ。


「だけど、恋は突っ走ればいいってもんじゃないわよ。駆け引きしなくちゃ」


 ふふっと口元に笑みを浮かべたバイオレットは、私の後ろを見る。そして、笑みを深めた。


 なんだろう? と思って視線の先を見ようとしたが、それより先にバイオレットに手を引かれた。


「ほら、私が付いて行ってあげるから、帰るわよ」

「うん…ありがとう」


 バイオレットに連れられて歩きだした。


 恋の駆け引きか。


 難しい。

 難しすぎる。


 だって、無意識にセルリアンを追いかけちゃうんだよ?

 無意識だよ? 何度も言うけど…



 この3日間。


 私、耐えきれるのだろうか…



 早くも暗雲が立ち込めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ