2.天使を捕縛するため聖女に会いました
「父上、魔王の捕縛はどうやってしたのですか?」
「まず魔法城に入るところから我々の戦いは始まった。魔王城には結界が張られており、それを突破しなければならなかった」
「なるほど…」
確かに初めて会ったセルリアンもちょっとやそっとで近づけなかった。
触りたいのに愛くるしい瞳で見つめられたら、ぐはっと心臓がやられる。
死んでしまいそうになる。
…ということは、セルリアンは魔王クラスの殺傷能力を持ってるってこと?
でも、魔王は城に結界が張られていたのにセルリアンは単体で結界を張っている。え? それって、魔王以上よね? さすが天使。
むむむっと考え込んだ私は父上に尋ねる。
「魔王城の結界はどうやって突破されたんですか?」
「聖女アーリアの呪文によって砕かれた」
「なるほど…わかりました。ありがとうございます」
魔王クラスの殺傷能力を持つセルリアンを捕縛するにはやはり聖女様の力を借りなくては。
私は勝手知った王宮へと尋ねる。
そこではたと気づく。
しまった剣を持ってくるの忘れてた…
父や兄からは常々、剣の携帯をするよう言われていたのに。
「アザレアは女子だから剣は常に持つのだぞ」
「はい。父上」
「そうだ。いつ悪漢がやってくるか分からないんだから」
「分かりました。イチリーお兄様」
「うんうん。俺が教えた体術でぶっ飛ばしてもいいぞ」
「分かりました。ニーサお兄様」
「ダメダメ~。可愛いアザレアが怪我したらカワイソウだよ。だから、火の魔法で燃やしちゃっていいからね?」
「分かりました。サントスお兄様」
「……外、危険…。アザレア、襲ってきたやつ、殺していいから」
「分かり…殺すのはやめときます。ヨンバオお兄様」
そう言われていたのに、なんてこったい。
ま、火の魔法があるし大丈夫か。
私は護衛を付けてはいない。つける話も出たが、私より強い護衛がみつからなかったのだ。
金の無駄だな…と家族全員が思った。
勇者を引退した父は伯爵の地位をもらった。当然、領民からはお金をもらっている。
皆が稼いだお金を無駄にはできない。
馬車で王宮へと向かい、門番に皇后陛下に会いたいと伝える。
運よく会えることになり、サロンに通された。
ちょっとだけ…いやかなり、セルリアンに会えることを期待したけど、残念ながら、彼は剣の稽古中だった。
「アザレアちゃんが会いにきてくれるなんて嬉しいわ~」
「お会いしてくださってありがとうございます」
「そんな堅苦しい話方しないで? ね?」
ふふっと笑った聖女様はセルリアンのお母様らしく神々しいオーラを放っている。キラキラしていて目が痛い。
「それで? 今日はどうしたの?」
「実は…」
天使を捕縛するために力を借りたいという話をした。
「なるほどね~。ふふっ。アザレアちゃんは、セルリアンのことが好きなのね」
「好き…」
好きと言われるとよく分からない。
ただ、捕縛して一緒にいたい。
「セルリアンは照れ屋だから、アザレアちゃんと上手くおしゃべりできないのよね~。でもね、ちょっと見て」
外を指差される。そこには一心不乱に剣の稽古をしているセルリアンの姿があった。真剣な顔で汗を流すセルリアン。
いいっ。
ぐっと握り拳を作っていると、聖女様が話しかけてくる。
「アザレアちゃんが剣の腕がいいって教えたらね。急に稽古をし始めたのよ。たぶん、カッコ悪いところを見せたくないんじゃないかしら?」
カッコ悪いところ…
え? 見たい。むしろ、見たいのですが。
セルリアンは見せたくないのかー。
また一つ難題が…
「私の方が強いのはセルリアンにとって嫌なことなんですか?」
「そうね。嫌なことだけど、嫌ではないはずよ」
「???」
「ふふっ。男の子って負けず嫌いだから、負けたら負けたで剣の腕を磨くのではないんじゃないかしら」
「じゃあ…負かした方がセルリアンにとってはいいということですか?」
「そうね。男らしくもなるし、いいと思うわ」
なるほどー。
じゃあ、今度手合わせする機会があったらこてんぱんにしよう。
そのためにも私も腕を磨かなくちゃ。
「セルリアンをアザレアちゃんが好きですいてくれて嬉しいわ。あ、そうだ。婚約式をしちゃいましょうか?」
「婚約式?」
「そうすれば、正式に婚約者になれるわ」
「それは捕縛してもいいということですか?」
「う~ん、それはもうちょっとオトナになってからね」
オトナになるのはいつだろうと思ったが、正式に婚約者になれるのは嬉しい。
やっぱり、聖女様に相談してよかった。
そして、私達は婚約式を行う。
セルリアンは照れて泣いていたけど、聖女様の呪文で大人しくなる。
「後でお菓子をたっくさん買ってあげるから」
ピタリと泣き止んだセルリアンを見て私は思った。
さすが魔王の結界を壊した聖女様だ。
天使の結界も壊してしまったと。