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1.今日も殿下は結婚を反対する

「今日こそ婚約を破棄させてもらう、アザレア」


 睨み付けくる婚約者のセルリアンを一瞥し、口をつけていたティーカップのお茶を一口飲んで、カップをソーサに置く。置くときにカチャリと音を立ててしまったことにピクリと反応してしまった。


 普段なら音など立てないのに、動揺しているのがバレバレだわ…


 心の中でため息をつく。しかし、そんな動揺など目の前のセルリアンが気づくわけもなく、私はゆるりと口元に弧を描いた。


「またそのお話ですか。初めの婚約破棄発言からかれこれ5年は経ちますけど、他に話すことはないんですか? いつから、殿下は同じ言葉を再生する玩具に成り下がったんですか?」


 ふふっと弾むように笑うとセルリアンは眉間に深いシワを作る。


「お前のその減らず口を聞くのに飽き飽きしたんだ。顔を合わせればネチネチ人を馬鹿にして」

「馬鹿になど。ただ、顔を合わせればネチネチ婚約破棄だの辞退だの結婚はしないだの言う殿下に感心しているだけです。わー、また、同じ事を言ってるー! と」


 棒読みで言うとセルリアンの肩が震えだす。プリプリ怒ってる顔が可愛くてこちらもテンションが上がってきた。


「いつも言ってるでしょう。婚約破棄したければ、教会を通して正式な文書を送ってくださいと。私達は婚約式を済ませています。私達の婚約は教会が認めたもの。それを破棄するなら正式に書面にして下さい」


「あ、もちろん、陛下と皇后陛下、三人の姉君に、私の両親と四人の兄上達を説得し、両家の署名も書いての文書ですよ? 口先だけの婚約破棄など、なんの決定権もありませんわ」


 テンションが上がりすぎて余計なことまで言ってしまう私の悪い癖だ。


「それがないのに『僕ちゃん、ヤダヤダ。結婚なんてしないもんっ』と言ってたら残念なオツムの王子様として家臣に冷ややかな目で見られますよ」


 そこまで言って、しまったと思った。

 さすがに言い過ぎだ。

 残念なオツムはないだろう。

 せめて、脳みそが足りない頭ぐらいにしておけばよかった。

 いや、同じか?


 私が考え込んでいると、セルリアンはプルプルと肩を震わせて真っ赤になっている。あ、可愛い。こういう顔を見ると昔を思い出すのよねー。

 よく涙目になって、『アザレア嫌い!』とか言われてたもんなー。

 でも、そんな顔したって可愛いだけなのに。余計いじりたくなる。


「…わかった」

「?」


 勢いよくセルリアンが立ち上がる。ふわふわのクリーム色の髪が太陽を背にキラキラと反射した。翡翠色の瞳には強い意思を感じる。


「書面でもなんでも持ってきてやる! 絶対、お前とは結婚しないからな!」


 燃えるような強い瞳にゾクゾクした。私ったら、マゾヒストの性質はなかったはずなのに。


「そうですか。せいぜい頑張って下さい」

「っ! 後で吠え面かくなよ! 絶対ギャフンと言わせてやるからな!」


 そう言うと出されたお茶も手をつけずにセルリアンは去ってしまう。ギャフンならいつでも言ってあげるのにと言おうとして言えなかった。セルリアンが脱兎の如く逃げ去ったから。

 相変わらず逃げ足だけは早い。


 残ったお茶の水面を覗き込んでため息をついた。お茶は茶葉の香りも口元を通る甘さも冷えきってしまっている。まるで、セルリアンの私に対しての思いのようだ。


 せっかく上手く淹れたんだけどなー。

 セルリアンの好きなミルクティー。


 飲まずに放置されたそれを見て、私は人知れずため息をついた。



 ◇◇◇



 私、アザレアは魔王を倒した勇者の娘だ。


 そして、セルリアンの母は現皇后で魔王を倒す旅をしていた時は聖女として同行していたらしい。


 晴れて魔王を倒した二人は手を取り合って結婚とはいかず、それぞれのパートナーを見つけ子供ができた。ただ、仲が良かった…とも思えないが、子供ができたら結婚させよーと前々から思っていたらしい。


 そして、私はセルリアンの婚約者となった。


 私の父は武骨で筋肉ムキムキ。

 一番上の兄は剣士で筋肉ムキムキ。

 二番目の兄は格闘家で筋肉ムキムキ。

 三番目の兄は魔法使いで筋肉ムキムキ。

 四番目の兄は文系のくせに筋肉ムキムキ。

 母は筋肉ムキムキではないがよく狩猟にでるハンター。


 そんな筋肉一家で年の離れた唯一の娘として育った私は勇者の父に剣を習い、兄から体術を習い、兄から魔法を習い、兄から勉学を習い、母から狩猟方法を習ったごくごく普通の娘である。


 淑女としての教育もされ、見た目は立派なレディとなった。


 そんな私の目の前に現れたセルリアン。

 彼は筋肉ばかりの世界にいた私にとって衝撃的な容姿をしていた。


 ふわふわのクリーム色の髪に翡翠色の瞳。頼りなさげに伏せられる睫毛は髪と同じクリーム色。透き通るような肌。不安そうな眼差しは庇護欲をかきたてられた。


 一言でいうなら、天使だ。


 なに、この可愛い生き物!

 え? いいの? この生き物貰っても。

 撫でぐりまわして、手とか繋いじゃってもいいの?

 昼寝しようとか言って、ちゃっかり添い寝とかしちゃってもいいの?

 え? なにそのパラダイス生活。


 ――絶対、欲しい!


 出会ってすぐにセルリアンをロックオンした私はすぐさま父に言った。



「父上、天使を捕縛するにはどうすればいいですか?」


 父は武骨な表情を変えずにいう。


「天使は捕縛してないが、魔王なら捕縛したぞ」

「構いません。教えてください」


 こうして、私は天使を捕縛するために画策を始めるのだった。


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