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きっとこの訪れは 逃げ場のない運命


関所から丘を越え、夕暮れを映し出す見渡す限りの広大な海。勇夜は生まれて初めて見る海の美しさに目を奪われていた。


「ハァァ…」

草原などの陸地が見せる美しさとはまた別の澄み切った美しさ、夕焼けが水面を照らし、赤く染まる幻想的なもう一つの空は、この所警戒し続けた勇夜の心を少しだけ解した。だがそんな景色で一際その存在感を見せるのは、やはりセルン王国の王城と街並み、そして大きな港だ。当然だがカルディーク皇国とは作りが違う。カルディーク皇国が黒を基調とした鉄壁と言えるような雰囲気に比べてセルン王国は対照的に白を基調とし、街並みは優雅でありながら、強く美しさも見せる城がその存在感を示していた。

ルミルスはそんな勇夜を見てほんの少しだろうと気が休まればと思い、外門まで何も口に出すことはしなかった。恐らくここから立ち入る場所は、勇夜に良くも悪くも抱えきれないほどの想いと選択が待つことをルミルスは知っていたからかもしれない。


門が近づきルミルスが勇夜に声を掛ける頃には、勇夜も気を引き締め直していた。門前には勇夜達以外にも商人等が待っていたが、数人の騎士による迅速な対応で順番が回ってくるのにそう時間は掛からなかった。そして検査とはいえ、関所の時と比べれば拍子抜けする程簡易的な検査だけであり、多少時間をかけたのは通行証と身分証の照らし合わせ程度であった。それだけ関所における審査が厳しく信頼に値するものなのだろう。商人用の馬車待機所に案内され、その横にある大きな馬房に馬を預ける。馬車の荷物は通常であればそのままにすることはないがセルン王国の警備は厳重であり、重要な施設や場所には監視の陣が施され、騎士の巡回が絶え間なく行われている。そんな状況で犯罪を犯す事は無謀であり、場合によってその場で手を下すことが許されている騎士の手でその生涯を終えるだろう。今のセルン王国とはそうであり、だからこそ今の平穏があるのだ。


「私が以前お世話になった宿屋に行くわ。荷物は忘れないで」

ルミルスは勇夜に念を押すように伝え、勇夜は頷いた。勇夜の荷物はぱっと見、中には着替えや最低限の物しかないが、その中には騎装環や戦闘用の軽装備もあった。ルミルスによる封印と認識できなくする魔法が掛けられ、ばれることはないがルミルスの許可がなければ勇夜自身も取り出す頃は出来ない。

街中に足を踏み入れた勇夜を見た光景は、賑やかな人混みと所々見える露店等が見せる煌びやかな光。穏やかに見えるこの国で本当にルミルスと話した最悪の出来事が起きるのか疑わしさを覚えるほどだ。しかし勇夜のすべきことは変わらない、何処かに必ずいるアリサの下へ行くこと。勇夜はルミルスに続き目的地に歩き、宿屋に入った。そこは決して豪華ではないが清潔感に溢れ、人の良さそうな中年男性がカウンターに立っていた。


「ん? おっ、嬢ちゃん久しぶりだな!無事に入国できたようで何よりだ。部屋は用意してるぜ。今回は…1部屋でよかったのか?寝床は2つ用意しているが…」

男性はルミルスを見ると笑顔で歯を見せながら話し出すが、ルミルスの後ろに見える勇夜の姿を見て、受付の帳簿を見ながら聞いてきた。


「はい、大丈夫です。私の弟なんですが、伝書を出した後に一緒に行くことになりまして、料金は2人分お払いしますので、申し訳ないですがお願いします」


「良いって良いって、そんな畏まんなくてもうちとしちゃ何も問題はねぇから。そんな人気もねぇし、人数増えれば家内も張り切るさ」

ルミルスは説明し最後に頭を下げ、勇夜も同じ様に頭を下げるが、そんな必要はないと宿主人は声を張って笑った。


「えぇっと鍵はと……これだ。部屋は二階。嬢ちゃんの為にうちじゃそれなりの部屋用意したからよ。今回は祭りもある。ゆっくりしていきな」

ルミルスは鍵を受け取り荷物を背負って移動を始め、勇夜はお辞儀をしてルミルスについていった。


「あら? もしかしてあの子が来たの?食事の準備は出来てるから、持っていった方が良いかしら」

宿主人が一服していると奥の扉から割烹着姿の女性が姿を現した。


「そうだ。今回は弟も連れてきたそうだからその辺の準備もしていってやってくれ」

宿主人は女性にそう言い、状態は"はいはい"と答え、腕を幕って気合いを入れた。


「ああ、それと食事持っていくときに嬢ちゃんにこれを渡しといてくれ」

そう言った宿主人はカウンターから一枚の紙と小さな花が見える小さな結晶を取り出した。


「渡す時に嬢ちゃんに"自信作だ。人は見掛けによらないんだろ? 仕掛けもあるから紙の上で魔力流してみろ"って伝えてくれ」

女性は何の事か分からず疑問に思ったが、特に気にせず受け取り準備に戻っていった。


勇夜達は部屋に入り荷物を降ろした後に、少し経って食事が運ばれてきた。勇夜は緊張感が無いと言われそうだが、初めて見る料理に思わず喉をならした。

カルディークでは、土地の影響でその食事の多くは野菜や肉類が主に料理として出てくる。魚介が無いわけではないが、そこまで凝った料理は食卓には出ることは少ない。しかしセルン王国はその真逆、港を所持し、貿易が盛んなこの国では多種多様な食材や調味料から様々な料理が作り出される。目の前にある料理はまさに美しく、漂う香りは頬を緩ませた。勇夜は先ずルミルスに視線を向ける


「冷めないうちに食べましょう」

ルミルスは椅子に座りながら勇夜にそう言い、互いに手を合わせて食事を取り始めた。


「……少し良いですか?」


「どうしたの?」

勇夜は箸を置き、ルミルスと話そうとした。


「この後外に出ても良いですか? 勝手な事だとは分かってます。無責任かもしれません。ただ…」


「…私は別に貴方を止めるつもりは無いわ」

勇夜はルミルスに止められるだろうと思っていた。だが今この国の事を知りたいという事、何故かという事を話そうとするが、ルミルスの答えは簡単に答えられた。


「でもこれだけは理解して、貴方が何故ここに居られるのか。私は任務に準ずるだけ。始めに伝えた通り貴方の存在が知られそうな時は…」

ルミルスはただ判断は任せるが、それにより正体が探られた時に覚悟を決めろとだけ念を押した。


「はい…」

勇夜は短く答えるが、その返事には多くの意味が込められていた。それを理解したのかルミルスは頷き、それ以上は何も言わなかった。

食べ終えた料理を廊下にある返却口に片付け、勇夜は手荷物は持たずに一言ルミルスに行くことを伝え、部屋を後にした。その後ルミルスは渡された結晶と紙を取り出し、外や扉から視界と音を防ぐために阻害の魔法を発動させた。

すると結晶は小さく光を出した後に粉々に砕かれ、紙の上に広がった。一見何か失敗したかのように思えた状況だが、まだ変化は終えていなかった。粉々になった結晶は紙の上で動き出し、幾つもの文字を形作り始めた。それを見たルミルスは眉を寄せ、内容を理解した後に欠片も残さず、その物を全て消去した。


"王城の中で一部不振な動きがある。王は何かをひた隠しにしているが、どうやら前王に関する事のようだ。どういう訳か城下では城とは別の動きがある"


ルミルスは全ての処理を終えた後に発動させた魔法を消し、一度溜め息をついた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


勇夜は宿を後にし、先程歩いた広場に立ち寄りただ歩いていた。


"この場所が…ここがアリサの居た故郷…アリサが抱えていた世界…"

この国に来た時には勇夜は思っていたが、改めてその賑わいに過去の事など何も無かったかのような笑顔が溢れる光景を見て、勇夜は何処と無く違和感を覚えていた。正直そう思う事がおかしな事ではあるが、勇夜は今まで他国の事など気にしたことはなかった。セルン王国の罪の事も歴史の書物でしか知る事のない自身には関係のない出来事だと思っていたからだ。ここに来るまでの事、そして知った事、今までの事全て含めて今の勇夜にとって関係の無い事では無くなった。だからこそ勇夜は、今アリサに起きていることと今この国の姿が異様に思えていた。

勇夜は特に宛が有るわけでもなく、ただ歩き続けているといつの間にか人気が少ない港付近にまで来ていた。静かな波音ともうすぐ暗くなる景色の中、勇夜の耳に怒鳴り声が聞こえていた。本来勇夜は関わるべきではない。しかし勇夜の体は何故か、数人の声と"一つの声"に引っ張られるように、その場所へ向かっていた。


「いい加減にしろ! 何故こんな所にいる! 目的を言え!」

数人の騎士が鬼気迫る雰囲気と声で、ローブのフードで顔を隠した恐らく少年に詰め寄っていた。


「特に何もしてませんって…ただ観光してたら迷ってここに来ただけで…」


「観光というなら何故そんな物を腰に下げている。武器の携帯は禁止の筈だ!」

騎士はそんな言い訳通じないと言わんばかりに、少年の携帯していた刀を指差す。


「これは御守りみたいなもんで、別に武器って訳じゃないですよ。それに抜けないようになってるでしょ。入港検査も許可を得たからここに居るんですから」

少年はこんな状況にも関わらず、ただただ冷静であった。ローブを少し捲って見せると、確かに鍔の部分に封印の術式が使われた物で刀が抜けないようにされていた。それもセルン王国の物である印も入っていた。


「ちっ!……検査の野郎後で締めてやる……だが貴様が怪しいという事には何ら変わりない。身元を徹底的に洗い出してやる。抵抗するなよ? 俺ら騎士には罪人をその場で裁く権利を与えられている。抵抗すればここで死ぬことになるぞ」

騎士は小さく悪態をつくと、開き直ったようにそう話し出す。それも剣を少し抜き、脅しをしながら…


「一介の騎士にそんな権利があるなんて信じられないが…ここで死ぬのも嫌だな」

そんな中で姿を隠していた勇夜は、少年の雰囲気が先程とは違う物に変わっていたのを感じ取り、鳥肌が立つ。下手に出ていた口調も変わるが、騎士達はそれを感じ取る事は出来ず、抵抗しないとたかをくくって押さえ付けようと手を伸ばした。


「スゥ」

それはまるで舞を見ているようだった。先ず手を伸ばす騎士を軽やかに避け、そのままいつの間にか出していた。小刀の柄で首を打ち、騎士が前のめりに倒れ始める。そして少年は未だに状況を理解出来ぬまま呆然とする騎士に、半身のまま地面を滑るように距離を詰め、瞬きする間も無く顎を打ち、流れるように残る2人すらも気絶させた。


「っ!」

"あの剣術は…"

あまりの見事な運びに、見る者によっては何が起きたのか理解が出来ないだろう。しかし勇夜にとって刀剣術の動きは、その才能ゆえにどのような動きかを理解することは難しく無かった。だが理由はそれだけではなく、勇夜はその動きにどこか如月流の剣術と似ているように感じていた。

しかし勇夜は別の動きを見て、その考えを瞬時に消し去り飛び出した。


「がっ!」

攻撃が浅かったのか、或いは頑丈だったのか、1人の騎士が気絶から持ち直し、静かに少年の後ろから剣を振り下ろそうとしていた。もしかしたら少年は気付いており、避けて反撃していたのかもしれない。だが勇夜は自分でも良く分からない感情が動き、"瞬火"で詰めてその騎士の顔面に膝蹴りを与え、騎士は今度こそ地面に倒れた。


「君は?」

少年は流石に急な登場で驚いたのか、後ろ向きの勇夜に何者かを聞く。しかし勇夜は何故かは分からないが、少年の方を向くのを体が本能的に拒否していた。冷静になれば勇夜は既にルミルスからの守るべき事を破り、そして魔力を使用した事で今や変装が解けている状態だ。お互いにフードを被ったままその表情も伺うことは出来ないが、それとは違う何かで勇夜は動くことが出来なかった。


「お前ら何してる?!」

少しの沈黙が流れると勇夜と少年の後ろから声が上げられた。


「っ! 逃げるぞ!」

少年は振り向くこと無く状況を瞬時に理解し、動かない勇夜の手を取り逆の方へ走り出した。勇夜は突然引っ張られたことで反応が遅れるが、直ぐ様遅れぬように少年と共に走り出す。勇夜は今の光景に何か既視感を覚えるが、そんな状況じゃないとそんな考えを振り払い、走り続けた。


「"その角を左だ!"」


「?!」

その声は少し先の建物の上から聞こえてきた。勇夜も少年もそれがどのような意図か分からないが、自身に対して言っていることはその感じる視線と気配から理解出来ていた。


「"次は右! そのまま走れ!」

何度か違う場所から届く指示に従い2人が走り続けると、その先の建物の扉が開く。2人は迷うこと無くその扉に入ることを決め、そして暗い建物の中に身を投じた。

勇夜と少年は息を整えていると周囲から気配を感じるが、動く前に首筋に剣が添えられ、明かりが灯る。


「付いてこい」

見れば船乗りのような格好をした屈強な中高年の男が2人、勇夜達を囲うように剣を向けていた。少年は両手を上に上げ、勇夜も同じ様にして無抵抗を装った。男に連れられ廊下を進み、一つの扉を開けて4人は中に入った。中には同じ様な中高年の男達数人とその中心であろう高年の2人が椅子に腰掛け此方を見ていた。

どちらも年齢を感じさせぬ体格を誇っていたが、1人は左足が義足で勇夜達を睨むように威圧し、もう1人は1mは越すであろう大剣を肩に置き、見定めるような視線を向けていた。2人の視線の意味は違うがそれでも同じ事があった。それはその2人が纏う雰囲気が鋭く洗練され、この場にいるどの人物よりも強者であることを物語っていた。故に勇夜と少年は表情を隠しながらも冷や汗を流し、どうなるかを見守った。


「お前らは何者だ?異国の少年」

口を開いたのは大剣を持つ男。


「だがどちらにしても派手にやったな。俺達が始めに見つけたから奴等を処理できたものの、騎士に見つかれば此方の存在も危うくなる所だった」

男は問いを聞く前に話出し、次第に言葉に力が加わり始め、その口調からは怒りにも似た感情が見え出した。


「では改めて聞こうか…何の為にここに来た?」

答えを間違えればここで死ぬだけだと、そう言葉に込めながら…


「……分かりました。ここで抵抗しても勝てる想像が出来ません。それに貴方方が少なくともこの国の味方ではなく。"まだ"俺達の敵ではないと判断したので」

答えたのは勇夜ではなく、もう1人の少年だった。少年は息を吐き、その場で目の前の男にそう言った。男はそれに対して視線が鋭くなり口を開いた。


「何故俺達がそうだと思った?」

確かに今の流れでそう判断するのは早計だろう。しかし少年は臆せず答える。


「貴方の言葉を信じるならそう判断するのは容易いでしょう。自身の存在が見つかるのは危ういと言ったのは貴方ですから。それに貴方が嘘を言う方でないのは分かります。何故かと問われれば勘としか答えれませんが…」

少年は根拠といった具体的なものではないが、信じるに値するものだとそう言った。それを聞いた男は肩を震わせた。


「アッハッハ! そうかそうか、確かにそうだな! そう俺が言ったからな!」

先程の雰囲気が嘘のように男は笑い出し、椅子を立ち上がった。


「まあ2人ともあまりにも動じないのでな。少し熱が入ってしまった。すまんな」

それを聞いた2人は緊張が抜けたのか深く息を吐いた。全く動じなかった訳ではない。少年は分からないが、勇夜は今までの経験があったからこそ耐えることが出来た。そうでなければ確実に呑まれていただろう。それだけの力が目の前の男は持っていたのだから。


「今は敵じゃない事は間違いじゃない。だからこそ少年達の事を聞こうじゃないか」

改めて男は聞く態勢を整え、もう一度聞く。


「それについては、少なくとも俺は貴方方の事を先に聞くまでは答えられません。此方にも果たすべき忠義があるので」

少年の答えは男の求める事とは違った。それを聞いて反応したのは義足の男だった。彼だけはずっと威圧的だったが、それが更に強くなる。


「まあ落ち着け…いいだろう。俺達の事を先ず話そうじゃないか」


「何を言っている貴様!」

男は義足の男に落ち着くように宥めるが、その次に出された言葉で、今度はその剣幕が男に向けられた。


「別に構わんだろう。話したところで少年らがどうこうするわけでもさせるわけでも無いんだ。それにもしかすれば此方に優位に運ぶ存在かもしれないからな」

男は笑いながら言い、そして2人の少年に向き直った。


「では先ず私の事を話そう。俺は元セルン王国騎士団 大騎士長だった者 名を"アルガ・カルミア"という者だ」

この日勇夜にとって長く、そして始まりと己の運命に向き合わなければならないと知るのであった。

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